いまや日本でもクラウドが当たり前となったERP。今回は、30社以上の導入を行ってきた筆者の経験を生かし、導入プロジェクトを成功させるにはどうすればいいのか、五つのポイントを解説したい。
トップダウンのプロジェクトにすること
トップダウン型とボトムアップ型のどちらが良いかと聞かれたら、迷わずトップダウン型をお勧めする。ERPは全社に関わるものなので必ず部門間の対立が生じる場面がある。適切な判断をする決断力、実行力のあるリーダーが必ず必要である。この場合のリーダーとは役員クラスの人材を指す。プロジェクトが淡々と進んでいる場合には部下に任せていてもいいが、いざという時にはしっかりプロジェクトのかじ取りを行ってほしい。
業務側主導のプロジェクトにすること
IT部門が主導となり、現場の意見を聞きながらERPを導入するというプロジェクトは非常に多いが、IT部門に任せきりになるとなかなかうまくいかない。生産、営業、経理などの業務側の人間が「自分たちのシステムを作る」という主体性をもって導入を進めるのが理想である。業務を熟知したキーパーソンのプロジェクトへの参画は必須でプロジェクト期間中はできるだけプロジェクト専任にするのが望ましい。
目的を明確にすること
「ERPを導入すること」そのものが目的となってはいけない。何のためにERPを導入するのか、それによってどんな課題を解決するのか、どんな効果を得ようとしているのか、をプロジェクトメンバーで共有し、課題が生じた場合にはその目的に即した対応を行っていけば、プロジェクトが迷走することは無くなる。たとえば「在庫を20%削減する」とか「月次決算を1日短縮する」などの経営に即した目標が必要である。
変化を恐れないこと
ERPはパッケージなので万能ではない。今のシステムで当たり前にできていることができなくなる場合もある。「前と同じようにしてほしい」という要求を全て叶えようとするとアドオンやカスタマイズが膨大になり、プロジェクトが立ちいかなくなる。業務側は「今と同じ」を前提とするのではなく、プロジェクトの目的に即した業務要求を出すことが重要である。
そのために変化を恐れてはいけない。変化によってある部門の業務量が増えてしまうこともあるかもしれない。部門の人材配置を含めて見直す必要がある。そのためにもトップダウンができるリーダーが必要となる。
100%を目指さないこと
本番稼働時に100点満点のシステムを目指して導入を進めると、開発やテストの工数が膨らみプロジェクトが長期化してしまう。会社の事業や組織も数年経てばどんどん変わっていくので、まずは通常の業務を回していくために必要な骨格の部分をきちんと作り上げ、そこに必要な例外処理や統制機能を肉付けしていく。特に社内で使用する管理帳票などは同じものをそのまま作ってもシステムが変われば数値の意味が変わってくる場合がある。
導入時にたくさんの帳票をアドオン開発したものの、運用が進むとその大半が使用されなくなり、別の帳票をExcelなどで作りだした、という話はよく聞く。どんな帳票が必要か、どんな統制が必要か、ということは導入時点でなかなか正解が出せず、運用していく中で見つかることも多い。したがって本番稼働時点で100%の機能の実装を目指してはいけない。
■執筆者プロフィール

寺坂茂利(テラサカ シゲトシ)
JJC 代表 ITコーディネータ
監査法人で監査業務に従事した後、外資系ERPベンダーに転職。2000年に独立し、ERPの導入、開発、運用を支援するJJCを設立し、現在に至る。公認会計士でもある。