いまや企業には欠かすことができない「ERP」。この連載では、25年近くERPに携わってきた筆者が実際の現場から見た情報を踏まえて、ERPの導入、保守、展開について解説する。
日本における導入ブーム
Windows95発売、システムが誤作動する可能性があるとされた「2000年問題」、そしてインターネットの普及を契機とした「IT革命」の影響で、1990年代後半は企業にとって既存システムの刷新に迫られた時期だった。そんな中、92年に独SAPが発売したERPパッケージ「SAP R/3」は、欧米を中心に爆発的に普及。その流れは日本にも広まり、ERP導入ブームが巻き起った。
当初、ITベンダーの宣伝文句は、「業務に合わせてシステムを作るのではなく、ERPパッケージに内包された世界の優良企業によるベストプラクティスを取り入れることで、ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)もあわせて行うことができる」というものだった。ところが日本企業にとって、それは幻想であり、実際に現場の抵抗が強く、カスタマイズやアドオンが膨張、導入が長期化し、多額のコストが発生してしまい、プロジェクトが中止になるケースが多々あった。
また、何とか稼働にこぎつけたものの、会計のみの導入になるなど、本来のERPの思想からかけ離れたケースもあった。この時期は上場企業を中心とする超大手企業に対してコンサルティング会社がプロジェクトを請け負うことが多く、会計のみの導入で数十~百億円超のプロジェクトもあった。なお、この時期のERPのインフラはクライアント・サーバー型の構成がほとんどだった。
2000年以降の導入
2000年以降から、導入の中心は中堅・中小企業に移った。ERPはもともと製造業のシステムをベースに発展してきた歴史もあるため、製造業の企業によるERP本来の思想を理解した導入が相次いだ。また、大企業の導入も増加。ERPは、多通貨、多言語に対応しているのも特徴であるため、企業グループがまず標準システムを構築し、それを国内、海外のグループ企業に展開していく手法も出てきた。10年ごろからは、Webサーバーを立ててブラウザーでERPを利用するという方式が主流になってきた。
最近では、クラウドを絡めた提供がメインとなりつつある。クラウドERPにも2種類あり、従来のERPパッケージのサーバーをクラウド上に移行する利用法と、そもそもクラウド上で提供されているERPパッケージをサービスとして導入する利用法がある。
クラウドが普及し始めたころは、基幹業務のデータをクラウドに置くなんてとんでもない、という考え方が多くを占めていたが、いまや日本でもERPはクラウドが当たり前といっても過言ではない。今後も、ERPベンダーはクラウドに最適化された製品を提供していくことになるだろう。
■執筆者プロフィール

寺坂茂利(テラサカ シゲトシ)
ジェイ・ジェイ・シー 代表 ITコーディネータ
監査法人で監査業務に従事した後、外資系ERPベンダーに転職。2000年に独立し、ERPの導入、開発、運用を支援するJJCを設立し、現在に至る。公認会計士でもある。