DXでよく挙げられるテクノロジーといえば、「IoT」「RPA」「AI」の三つである。IoTでモノとインターネットをつなぎデータを集め、AIで分析して情報として意思決定を行い、作業についてRPAで単純作業を自動化という三つのステップが基本パターンとして多い。今回はこの三つの基本パターンのテクノロジーにフォーカスする。
IoTは「Internet of Things」の略称。インターネットとつながったIoT機器には、情報を発信するタイプもあれば、情報を受信するタイプもある。
情報を発信するタイプの例として有名なのは、象印マホービンのIoT電気ポット「iポット」。電源を入れたり、給湯したりすると、離れて暮らしている家族のスマートフォンなどへ動作状況が伝達される。ポットがインターネットに繋がって、ポットの操作信号はNTTドコモのLTE(無線通信回線)を通じてシステムセンターへ届く。そして、ポットの利用者の状況を知りたい方へメールで届けるほか、専用ページに1週間の利用状況をグラフ化したものを載せているとのこと。
情報を受信するタイプの例としては、パナソニックのロボット掃除機「ルーロ」が分かりやすいだろう。外出先からでもスマートフォンで掃除機を動作させることができる。
また似たような言葉でICTというのがあるが、違いはITがハード・ソフト・アプリケーション・OA機器などの「機器同士のつながり」を意味し、機器間の情報の共有化が図れる一方、ICTが「人とインターネットがつながること」を指し、人が豊かな生活を送れる接点となる。IoTはあらゆるモノがインターネットにつながる状態もしくは技術であるから、ICTに対してIoTを入れていくと、人が介在しなくなるため、人の無意識のデータを獲得し、その人に気づかれない形で先回りの価値を与えることができる。
RPAは「Robotic Process Automation」の略称。業務を代行・自動化するソフトウェア型ロボットを「デジタルレイバー」や「デジタルワーカー(仮想知的労働者)」などと擬人化され、呼ばれることも多い。
現状ではホワイトカラー業務をロボットが代行することが主である。特に複雑な条件や意思決定を伴わない動作はRPAの特性が生きてくる。(1)データ選択、(2)該当データコピー、(3)システムにログイン、(4)該当ページに移動、(5)ペーストのような高頻度、大量、単純な反復作業がRPA採用のポイントとなる。
今後のRPAはデータの収集・分析、プロセスの分析・改善などが行えるようになり、AIと組み合わせることで、意思決定、ディープラーニングなどの複雑な業務もこなせるようになると考えられる。また、Power AutomateやUiPathなどのRPAツールを使うことによってノーコードで行えるようになってきているが、まだまだ環境依存の部分が多い。PythonなどのプログラムでExcelなどを操作する方が分かりやすいかもしれないが、RPAツールの進化もキャッチアップしておきたい。
RPAを導入することによる効果
RPAを導入することによって、人間が行うと起こりがちなヒューマンエラーもなく、大量に処理できるため、既に請求処理や勤怠管理、不備チェックなどの間接業務やローン審査やレポート作成をはじめとする金融業務など、さまざまな業界、分野で活用され始めている。即効性はあるRPAであるが、業務の抜本的な改革・改善にはならないということをシステムインテグレーターは顧客に伝えていかなければならない。RPA化する前に本当にその業務は必要なのかを見極める必要がある。
最後に、AIは「Artificial Intelligence」の略で、日本語で「人工知能」と表される。「知能」という言葉からか「魔法の杖」のように何でもできると思われがちなAIだが、現在、使われているのは 「機械学習」「深層学習」が主であり、まだ映画で観るような人工知能ではない。
AIについてはさまざまな専門書があるが、AIの利用が可能かどうかを見極めるには二つの点だけ注意しておけばいい。「AIはIQの高い赤ん坊」「AIが得意なのは限定された環境下における特定された動作」である。
AIはIQの高い赤ん坊であるため、まず学習させて育てることが必要であり、育てて何をさせるか事前に決めておく必要がある。AIが得意なのは限定された環境下における特定された動作というのは、将棋を例にとると分かりやすい。将棋は9×9のマスという限定された環境で、駒の動きは得意されている。こういったものはAIの得意分野である。限定と特定が生まれるまで作業のタスク分解を行い、条件があったところにAIを入れると良い。AIは未知の課題や問題に直面しても、答えを導き出し、教えたこと以上にできるが、一方でまだ限定的なのである。
AIは五つのレベルに分けることができる。顧客が求めているのは、どのレベルのAIなのかを判断することが重要となる。
基本パターンの三つのテクノロジーを展開していくと、さまざまな業界・業務で変化を起こしていくことができる。また、テクノロジーは日進月歩で変わっていくので、どんどん中小企業でも利用しやすい価格になるので、チェックを怠らずに続けていくと顧客への提案が通りやすい。
■執筆者プロフィール

並木将央(ナミキ マサオ)
ロードフロンティア 代表取締役社長 ITコーディネータ
1975年12月31日生まれ。経営と技術の両面の知識でDXに精通、現在の世情や人間観をも背景としたマーケティング、経営手法や理論の活用方法で、企業や各大学で講演や講義を行っている。さまざまな分野で経営やビジネスのコンサルティングを実施している。電気工学修士、MBA、中小企業診断士、AI・IoT普及推進協会AIMC、日本コンサルタント協会認定MBCなどの資格も持つ。