女性活躍が浸透した現在でも、地方中小企業だけでなく日本企業における総務担当の多数は女性で占められている。決して男性が総務・経理に向いてないというわけではないが、慣習的に、攻撃(営業・現場)が男性、守備(経理・庶務)が女性という役割分担は、まだまだ強く根付いている。
総務・経理の主、女性社員の働き方変遷
総務・経理で求められる事務作業の多くは、作業タイミングや時間のブレが比較的少なく、家事・育児のため定時性のある働き方を求める女性の応募が多いのも事実である。採用側も慣習的に女性採用を前提に求人募集を行っているため、令和の時代も総務担当者の大多数を女性が占める現状が続いているのである。
総務・経理の主役である女性が活躍しやすい職場づくりには女性に多い時間や場所の制約を少しでも軽減する必要があるが、有効な手段となるテレワークに取り組む企業はまだまだ少なく、当社が所在する「伊勢市 商工会議所」が先日行った調査でも、テレワーク導入率はわずか15%であった。総務・経理の主役たる女性が活躍しやすくなるように、経営者はクラウドサービス導入などテレワーク(在宅勤務)が可能な職場づくりを進める必要があるのである。
テレワーク導入状況
(伊勢商工会議所2022年アンケートより)
新陳代謝しない職場、社長夫人とベテランの弊害
毎月必須の業務である請求書発行や給与計算の担当者は、退職しない絶対エースとして、社長夫人や勤続数十年の経理のベテラン社員が配置されているケースが多い、しかし社内における立場も絶対的なため業務改善の障害となることがある。
ベテランの担当業務は処理フローが完成されており、デジタル化によるフローの変更を嫌い、「ウチは特殊なので無理」「ウチの社員には無理」、最後は「クラウド化するなら退職する」などと発言し、業務改善の抵抗勢力の中心となってしまうケースや、社長の号令によってクラウド化を進めていても、社長夫人から「複数一度に導入されても覚えられない、年に1個にしてください」と言われて導入が頓挫することになる。
もちろん、業務改善に熱心なベテラン社員や社長夫人も多く存在するが、社長ですら現場を仕切っているベテラン社員や奥様には頭が上がらないことも多く、改善が遅々として進まないことが多い。
総務・経理は改善の種がいっぱいある美味しい部署
毎年、毎月、毎日繰り返し作業が多く、前例踏襲で効率の悪い仕事スタイルを、同じメンバーで長年行っている総務・経理は、業務の在り方から変革を試みるDX(デジタルトランスフォーメーション)とは相性が悪い側面があるのは事実である。
しかし、それだけに100年以上を続くタイムカードや紙の給与明細書のように、デジタル化すると業務効率が飛躍的に向上する業務も多く、総務・経理の業務は改善の種の宝庫なのである。
入社から給与支払いまでの一連の流れだけでもデジタル化の種は多くある
業務の改善、変革に必要なのは、“めんどくさがり屋さん”であり「ちょっとでも楽をしたい」性格の人間である。長年同じ業務を同じ時間で行ってきたベテラン担当者は、正直デジタル化推進担当や、各業務へのクラウドサービス導入の中心人物には据えにくい。中小企業は、経営者の意思決定と実行力が重要であり、経営者主導でデジタル化すら覚束ないようでは、DXへの取り組みなど夢のまた夢である。
「それができれば苦労はしない」との見方が強そうだが、ベテランや社長夫人に頼って属人的に業務をいつまでも放置しているわけにもいかない現実がある。2023年こそは、自社の将来を見据え、経営者自らが根性を入れてデジタル化、DXを進めていってほしい。
■執筆者プロフィール

樋口雅寿(ヒグチ マサトシ)
コムデック 取締役会長 ITコーディネータ
1972年、三重県伊勢市生まれ。95年、国立鳥羽商船高等専門学校を卒業。地元系IT企業などを経て、97年、コムデックに創業に参画、2011年に代表取締役社長、22年に事業承継により取締役会長に就任。