2022年11月に開催されたEdgeTech+2022(主催:一般社団法人組込みシステム技術協会、台湾から8社が出展)にて台湾のK-Best Technology Inc(全波科技)が「IoT Technology 優秀賞」を受賞した。評価されたのは同社が開発した台湾独自のLPWA無線通信規格「Super TaiRa」を採用した「消防士の安全管理システム」だ。Super TaiRaの日本でのお披露目は今回が初めてとなるが、すでに台湾では数多くの実証実験が行われ、普及が進みつつある。
火災現場で消火活動にあたる消防士の「命」を守る
Super TaiRaを活用した消防士の安全管理システムには、空気ボンベ残圧監視機能、生体反応探知機能、SOS発信機能などが搭載されており、9軸のジャイロセンサーによってビルであれば地下4階から地上40階まで隊員の正確な位置情報を把握し、消火にあたる消防士を追跡することができる。GPSは用いず最大で30人まで対応が可能で消防士の安全を守る。
また、トランシーバー機能や動画や静止画の撮影と送信機能など、コミュニケーションツールとしての基本的な機能も搭載。現場の指揮を担う司令車が隊員一人ひとりの行動を把握し、隊員向けの指示や消火活動にあたる隊員間の連絡など、必要な機能がすべて搭載されている消防士向け安全管理システムである。
従来のGPS機能では難しかった縦方向の情報把握も可能。さらに電波が届き難い鉄の扉に囲まれた空間や地下室など閉ざされた空間で活動する消防士の活動も把握可能。高層ビルや大型商業施設などの火災で隊員が何階にいるのか、どんな状況で活動しているか、司令車から現場で活動する消防隊員の状況を把握することができる。台湾の消防局ではすでに運用の実証実験が行われている。
■LoRa方式の弱点を克服したSuper TaiRa
「Super TaiRa」の特徴はLoRa方式の弱点を克服していることだ。EdgeTech+2022アワードの審査委員による寸評では「LoRa方式に比べて誤り率とフェージングロスの低減、電波感度と耐雑音性の向上が図られた。火災現場というヘビーデューティーな環境下での利用にもかかわらず高い安全性を実現している点や、間違いなく存在する社会的なニーズに的確に応えている点を高く評価した」とコメントしている。
11月17日にEdgeTech+2022で行われたセミナーの席上、K-Best Technology Incの担当者は「Super TaiRaではLoRaの弱点を改良。Fading Loss現象(15dB)や電波感度の改善(10db)および対ノイズ性能改善(10dB)を計るなど優れ、LoRa方式に比べて電波感度と耐雑音性の向上を図った。モジュールでは通信中のエラー率を40%以上低減し、これにより再送処理を低減させスループットを大幅改善した」とコメントする。(台湾、アメリカ、東南アジアでのテスト結果より)
審査委員からは「ビルの火災現場ほど使用環境が厳しくないアプリケーションへの横展開にも注目」とのコメントもあり、競争が激しいLPWA無線規格の分野でSuper TaiRaを活用したさまざまなソリューションの開発が期待される。
K-Best (全波科技)は「Super TaiRaはLoRa方式に対抗するものではなく、LoRa方式で十分目的が果たせる場合はLoRa方式でよい。あくまでもLoRa方式では対応が難しい環境でLoRa方式の弱点を補うものである」とコメントしている。
■さまざまな分野におけるSuper TaiRaの可能性
下記はK-Best社 (全波科技)及び日本側の代理店となるNextDrive社(聯齊科技)による具体的な応用事例である。NextDriveは台湾でスタートアップ企業として注目を集め、ハードウェアからソフトウェア、アプリまで独自開発の技術によりスマートエネルギー・マネジメントソリューションを提供している企業。2017年に日本法人を設立している。
応用事例として挙げられているのは、鉄のボックス内に収められている計器類の監視、埋設した水道メーターや地下室に設置した水道メーターの検針、モーターの異常振動など工場内の生産設備の監視、トンネル作業員の位置情報や生体情報の把握、山岳救助で遭難者の捜索に向かう救助隊の位置情報の確認など。
資料出所:K-Best社 (全波科技)プレゼン資料。
提供:NextDrive Japan
他にも、豪雪地帯の電気・ガス・水道メーターの検針、洋上の風力発電施設との通信、立体駐車場におけるスマートパーキング、マンホールや地下通路での利用、化学プラントなどでの鉄防爆ケース、高圧送電線の鉄製キュービクルなど、従来の無線通信では電波が届き難く、対応が難しかった場所での応用事例が示されている。
さらに今後の取り組みとして、川や湖など水の中で水難救助に当たる消防隊員向けのソリューション開発、入山者に発信装置を持たせる方法で万一の遭難時に迅速な救助を行うためのソリューション、山間部や過疎地での見守りソリューションの開発、洪水や土砂崩れの監視や災害警報など、幅広い分野でのソリューション開発が期待される。
ドローンへの応用も大きな可能性を秘めている。スマート配達、スマート介護、ドローンを活用したマンホール内の点検、同じくドローンを活用したさまざまな場所でのスマート検針、災害救助における情報収集などこちらも幅広い利活用が期待されている。
SuperTaiRaの普及を進めるTaiwan GloRa Alliance
台湾独自の無線通信規格であるSuperTaiRaを進めるために設立されたのが、Taiwan GloRa Alliance(台灣全球無線平台策進會)である。エイサー(宏碁)の創業者であるスタン・シー氏が名誉理事長を務める。GloRaの「G」は「Global」の「G」であるという説と「Great」の「G」であるという説があるが、いずれにしても台湾で生まれた独自の無線通信規格を世界に向けて普及させていこうという意気込みが感じられる。
Taiwan GloRa AllianceではSuperTaiRaの基本となる具体的活用事例を示すことでプロバイダーとの連携、通信モジュールの開発と普及、台湾内外における実証実験の実施、海外企業向けの広報活動など、幅広い活動に取り組んでいる。
これまでレポートをしてきた「実用先端技術で注目のスタートアップ」「台湾IT産業の自動車シフト」、そして今回の「Taiwan GloRa Alliance」が台湾IT産業の三つの注目ポイントだ。バックナンバーの閲覧はアーカイブスから。今後も台湾に注目して日本では報道されていない現場の最新情報をレポートしていきたい。
■執筆者プロフィール
吉村 章(ヨシムラ アキラ)
Taipei Computer Association(TCA)東京事務所/ASIA-NET 代表
台湾のITベンダーで組織された業界団体「Taipei Computer Association」の日本業務の責任者として東京に駐在。台湾IT産業の産業情報、企業情報、製品情報を日本語で情報発信を行っている。中小企業の海外進出を支援する「ASIA-NET」の代表も務める。「中国人とうまくつきあう実践テクニック」(総合法令出版)など著書多数。