DXは「顧客、市場の破壊的な変化に対応」「組織、文化、従業員の変革を牽引」「ITを利用してネットとリアルの両面での顧客経験の変革」の3本を整え、その上で「新しい製品、サービス、ビジネスモデルで競争上の優位性を確立」することである。顧客や市場に対応し、組織を創り替え、顧客経験を変えることができた状態で、新しいビジネスを創っていくことで付加価値の高いビジネスを生み会社が競争優位に立てる。顧客や市場を理解し、顧客経験が楽しくなるにはどうすべきかを組織が一丸となり考え、恐れず新しいビジネスへ舵を切ってほしい。
では、どのようにDXにおける新しいビジネスを創っていけば良いだろうか。考え方としては、モジュラーシンキングを採用すると良い。レゴブロックでイメージしてみてほしい。いま、手元にあるのは、ブロックの車だとする。そのブロックの車は、現存のビジネスをさまざまなパーツで創り上げたものだ。そのブロックを分解して、バラバラになったブロックを別の用途に使ったり、別の組み合わせ方をしたりして、再構築して、車ではない飛行機やロケットやらと新しい形を創り出せないかを考える。
インテグラルシンキングでは、この車をロジカルシンキングで分解し、一つ一つのブロックを分析して、最適なブロックを新しく作り、互いのすり合わせをしながら統合していく。最適な部品を作り、調整しながら組み立てる。このような改良改善は、日本のモノ作りの真骨頂ではあるが、行いたいのは改良改善ではない。改良・改善ではトランスフォーメーションといえるほど、新しいものが生まれない。駄目なところを直しても元のビジネスから変化はせず、車の延長線に過ぎない。だからこそ、ロジカルシンキングではなく、モジュラーシンキングを試すことをSIerは意識してみてほしい。
2020年度に新設された、事業再構築補助金でも必要なのは、モジュラーシンキングである。現存の自社のビジネスを分解し、強みをもとに現状の事業とは別軸で立てるように再構築することが求められている。例えば、高齢者向けデイサービス事業をしていた事業者が経営という強みをもとに企業買収し、病院向けの給食や事務を請け負う新たなビジネスを構築したり、紳士服販売を営んでいた事業者が紳士服への理解という強みをもとにネット販売やレンタル事業を開始し、新たな販路を構築したりしている。
サービス業と小売業での活用例
(出典:中小企業庁)
富士フイルムは、フイルム作成時の技術を分解した中から、コラーゲンの酸化防止技術というブロックを使って化粧品を作り出した。自分のビジネスモデルをもう一度、一から見直して、構築しているパーツに細かく分解してみる。そして、細かいパーツの中で独自のパーツを見つけて、改めて他のビジネスモデルを展開したり、作り上げたりできないかというアイデアを考える。既にある部品を使って何ができるのか、何を生み出せるのかといったコンセプトメイキングが重要となる。そうしたモジュラーシンキングが、DXが求められる現在、新しいビジネスやイノベーションを創る基盤となる。
また、DXを起こすにあたっては、デジタルの視点も忘れてはならない。どのように、デジタル技術を活用していくと良いだろうか。人間はアナログの世界で生きているので、時系列で考えたときに、現在いる顧客に価値をもたせようとするとアナログ的価値を強固にした方が優位である。ハイクオリティな接客のホテルをイメージすると分かりやすいだろう。アナログ的価値を細部まで行き渡らせることで価値を高める。だからこそ、現在の顧客に価値を生むのは人間がアナログで行う方が良い。
一方で、デジタルの優位性は、(1)劣化なく保存できること、(2)高速演算の2点である。それゆえ、過去のデータから現在の顧客に価値を生み出したり、現在に取得したデータから少し未来の顧客に価値を生み出したりするのは得意である。例としては雨雲レーダーのアプリケーションで、現時点で取ったデータを使って30分や1時間後の雨雲の位置を予測できる。このようにデジタルを使うことによって、少し未来の顧客へアプローチをすることで付加価値を高めることを、DXを行うSIerは視野に入れてほしい。
■執筆者プロフィール

並木将央(ナミキ マサオ)
ロードフロンティア 代表取締役社長 ITコーディネータ
1975年12月31日生まれ。経営と技術の両面の知識でDXに精通、現在の世情や人間観をも背景としたマーケティング、経営手法や理論の活用方法で、企業や各大学で講演や講義を行っている。さまざまな分野で経営やビジネスのコンサルティングを実施している。電気工学修士、MBA、中小企業診断士、AI・IoT普及推進協会AIMC、日本コンサルタント協会認定MBCなどの資格も持つ。