エム・クレストの副社長兼エンジニアである小澤一裕です。情報システム部門に配属された新入社員やリスキリングで改めてICTに取り組もうという方々に向けて、知っていると便利なICTに関する情報をお届けしようと考えました。第2回は「“野良アプリ”を再生する~Access編」というテーマで、つくった人がいなくなってしまい、手が付けられなくなった「Access」のアプリをウェブ化した話をします。
■野良アプリとは?
どの職場にも、PCが好きで詳しい人が1人や2人はいるでしょう。そのような人がつくったAccessや「Excel」「Notes」のアプリケーションは、効率化に役立っていると思います。しかし、便利なのでみんなで使っていても、転勤や退職で作成者がいなくなってしまうと、メンテナンスできなくなってしまいます。こういうアプリを“野良アプリ”や“野良ツール”というそうです。
そのまま捨ててしまえればいいのですが、「便利なので愛着が湧いている」「業務に沿っていて使いやすい」と、利用の継続を希望することがよくあります。当社には、そのような企業から「つくり直してくれないか」との相談がよく寄せられます。
■システムを構築したはいいが
事例を一つ紹介します。とある会社の施設管理の話です。この会社では、会議室を一般開放しており、月1回、希望者が集まり、希望日と会議室を抽選する方法で予約を受け付けていました。以前は紙の台帳で管理していましたが、PCに詳しい人がAccessで予約システムをつくったそうです。
作成者が勤務している間は、保守・運用をしてくれていたので何の問題もありませんでした。しかし、引き継ぐ相手がいないまま定年退職してしまったので、誰も保守・運用ができなくなってしまったのです。
予約機能そのものは会議室の増減でもない限りメンテナンスの必要はありません。ただ、年に1度の更新作業は誰にもできませんでした。また、不具合や障害があったときに対応できないことも問題になり、予約システムをつくり直せないかとの相談が当社に持ち込まれたのでした。
元々のアプリの画面
■動作確認しながら進める
方針は誰でも思い付くようなものですが、実際にやりたがるベンダーはあまりありません。なぜって、面倒だからです。
個人がつくったツールは、設計書やマニュアルなどのドキュメントがないことがほとんどです。そこでプログラムコードを見ながら実際に操作して、データがどのように変化するかをいちいち確かめていくことになります。
つくった本人がわかればいいので、他人にわかりやすいコードで書かれていることはありません。作成者からすれば「動けばいい」のです。それを解析していくのですから、とにかく根気が求められます。
今回はウェブ化を実施しましたが、操作方法や画面レイアウトはできるだけ変えないとの条件があったので、作業は大変でした。実装前にモックアップを作成して動作確認してもらい、要望が満たせることが分かってからデータベースを構築して、データを移行しました。それからユーザーテストによる最終調整を行い、メンテナンスマニュアルなどを作成して、無事に引き渡しができました。
つくり直したWebアプリの画面
■乗り換えも選択肢として検討を
作成者がいなくなっても、コードとデータが残っていれば何とかなります。野良アプリになってしまっても、再生をあきらめる必要はありません。こだわりがあるのは個人的には好きです。しかし、かなり面倒なので、操作性は多少変わっても、機能を満たすのであればパッケージやSaaSなどに乗り換えるほうが確実ですし、手間もかかりません。
■執筆者プロフィール

小澤一裕(コザワ カズヒロ)
エム・クレスト
取締役副社長兼エンジニア
インターネット黎明期の2001年にWeb系ベンチャー企業でプログラマーとして多くのシステム開発を手がけた後、日立グループにてシステムエンジニアとして大規模インフラ事業などに従事。放送とITの融合時代を先読みし放送系ベンチャー企業で開発、拡販に関わる。その後、ITの困りごとを解決する専門集団「エム・クレスト」の立上げに参画。