前職は三重県伊勢市の職員。松阪電子計算センター(MEC)の稲垣健司さんは、新卒で入り7年ほど勤めた役所から、松阪市の老舗SIerに転身した異色の経歴を持つ。今は自治体への情報システムの提案や営業担当者の支援、マーケティングを仕事に。買う側から売る側に立場を変えた。
「職員が持つ情報システムの不満や要望をSIerが理解しているとは思えなかった。営業マンは誰でも、システムの話はしてくれた。でも、電子化することで住民の生活がどれほど良くなるか、職員にどんなメリットがあるかを伝えてくれるSIerがいなかった」
伊勢市に勤めていた当時、SIerに対する不信感は強かったようで、「営業担当者に騙されたくない、負けたくないという気持ちだった」という。だが、MECに勤務している友人の影響もあって、SIerへの転職を決意した。
転身して約5年、今では近隣の市町村への営業回りや、値下げ交渉のために大手コンピュータメーカーの営業担当者と折衝したり、新製品の品質を確かめるため出張したりと、忙しい日々を楽しんでいる。
「楽だと思われがちだけど、役所は何とはなしに忙しいんです。細かな業務に追われている職員のしかめっ面をね、ITを活用することで穏やかな顔に変えたいんですよ」
記者は、ある小さな自治体に取材した時、「SIerの提案はいつも疑いの目で見ている」と聞かされたことがある。稲垣さんはその職員の気持ちを理解したうえ、ユーザー目線で自治体の電子化に奔走している。
プロフィール
稲垣 健司
(いながき けんじ)1972年2月生まれ、三重県出身。94年3月、関西大学社会学部マスコミ専攻卒業。同年4月、三重県伊勢市に勤務。01年3月、同市退職。同年11月、松阪電子計算センター(MEC)入社。入社後は、「住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)」の担当SEになり、03年には商品企画部(現職)に転属。開発企画や、顧客への提案、販促ツールの作成などを担当する。学生時代はマスコミ志望だったが、出版・広告業界、報道機関の雰囲気を嫌い公務員になることを決めた。阪神タイガースの熱烈なファンでもあり、「甲子園球場が近くにない場所には住めない」と、ずっと関西地方で暮らす。