進んだ技術はいつも欧米から来る。だからといって何もせずに白旗を掲げるつもりはない――。ニフティでインターネットサービス基盤の再構築に従事してきた上野貴也は、パブリッククラウドサービスで先行するAmazon EC2に対抗するサービス「ニフティクラウド」を今年1月に立ち上げた。サーバー仮想化技術のVMwareやLinux系のCentOSなどを学ぶ過程で、「自分たちだって、やろうと思えばできる」と考えたのがきっかけだ。
年商1000億円を超える国内最大手の老舗プロバイダで、すでに確立された収益モデルもある。そのニフティで、変化が激しいクラウド事業へのめり込む上野の姿を見た社員から“まるで台風の目だな”と揶揄されることも。上野は「クラウドは単なるコンセプトや概念ではなく、革新的な技術の集合体。まずは技術で追いつかなければ、ライバルには勝てない」と、理詰めで粛々とシステム構築を進める。
パブリッククラウドとは、ユーザーが必要なときに、必要なだけのITリソースを提供するサービスだ。仮想化やOSS(オープンソースソフト)の技術をフルに駆使。より安く、柔軟なシステム構築に力を注いだ結果、ユーザー数は9月末時点で462社。まずまずの実績に、社内では早くもネット接続サービスやコンテンツといった既存サービスに続く“第三の収益の柱に”という期待の声もあがる。
だが、期待を裏切らないためには、「規模のメリットの追求が欠かせない」と上野は冷静だ。後発で、かつ市場が小さい国内にとどまったことで、日本のソフト・サービスはこれまで、どれだけ割を食ってきたことか。「アジアに目を向ければ、パブリッククラウドの選択肢が事実上Amazonしかないところも少なくない。ならば会社を説得して、世界に出たい」。“台風の目”は、周囲を巻き込みながら大きな渦を形づくろうとしている。(本文敬称略)
プロフィール
上野 貴也
(うえの たかや)1972年、大阪府生まれ。96年、東京理科大学理工学部を卒業し、ニフティ入社。インターネットが拡大期に入っていたこともあり、ニフティのサービス基盤システムの統合・再構築に従事する。ペタバイト(テラバイトの約1000倍)単位の大規模データ統合やサーバー仮想化をリードしてきた。10年1月、基盤システムの刷新で培ったノウハウを生かしてパブリッククラウドコンピューティングサービスの「ニフティクラウド」を立ち上げる。