携帯電話の販売会社の営業をやってきて、仕事にはそれなりの自信をもっていた。だが、日立メディコに転職して電子カルテの担当になり、大きな挫折感を味わうことになった。商談の相手は病院の経営者や医者ばかりで、専門用語の一つもわからない。携帯電話のように広く社会に知られた商品ではないので、「専門知識をもっているかどうか、常に値踏みされた」。そして、知識がないとわかると、相手にもされない。
板垣恵がまず取り組んだことは、トップセールスの話し方から仕草まで、一挙手一投足を真似ること。「お前はクローンか」といわれたが、気にはしない。週末は医療業界の専門誌を読みふけった。もう一つ板垣が重視したのは、勝てる製品づくりである。日立メディコに転職したのも、自らが自分たちの製品をつくることができる会社だからだった。
電子カルテは富士通やNECの牙城だ。であれば、「どうすればライバルに勝てるのかを考えるのも営業の仕事」である。電子カルテの普及率が高い大規模病院では、すでに大勢が決まっているが、まだ普及しきっていない中小病院や有床診療所ならば話は別だ。ここにターゲットを絞った製品「Open-Karte AD」を今年10月に製品化。時間はかかったが、営業現場の情報を積極的に社内へフィードバックしてつくりあげた。今では、日立メディコの電子カルテの営業といえば「板垣」の名前が挙がってくるほどだ。
「営業はゲームと同じで、ライバルにない有利な手札をどれだけもつかにかかっている」。専門知識や商品、サービスなどの手札の数と質で決まると板垣はみている。新しい手札を生かして「トップシェアを獲る」と意気込む。(文中敬称略)
プロフィール
板垣 恵
板垣 恵(いたがき けい)
1975年、東京都生まれ。99年、大学卒業後、商社系の携帯電話販売会社に就職。2006年、日立メディコ入社。電子カルテなどの営業を担当する。