「叱っていただいて、ありがとうございます」。冨塚勝は、社会人になったばかりのとき、カーディーラーでクルマの販売を担当し、先輩にクレーム対応を徹底的にたたき込まれた。「お客様が怒っておられるときほど、ていねいに対応しろ」。冨塚は、先輩の言葉を胸に刻み、やがて、顧客から苦情が入ると、「クレーム処理の腕のみせどころだ」というふうに、わくわくするようになった。その気持ちは、今も変わっていない。
冨塚は、データセンター(DC)運用サービスを手がけるエヌシーアイで、カスタマーエンジニア部の部長を務めている。どこでもそうだが、複雑な仕組みが動くDCは、期せずしてシステムが止まることがあるので、クレームがつきもの。だからこそ、クレームを前向きに捉え、顧客関係の強化につなげることが大切になる。「重要なことは、いい終わり方を想像し、それに向けて計画的に動くこと。実は、クレームが大きければ大きいほど、終わった後に、お客様から『しっかり対応してくれて、ありがとう』と感謝の言葉をいただくことが多い」と語る。
冨塚は、現在、主に技術的な仕事に携わっているが、自動車の販売員というルーツこそが、自身の大きな強みになっている。エンジニアは、「システム」ばかりをみて、「お客様の声」に耳を傾けないことが多い。しかし、冨塚は、苦情も含めて、顧客が話していることに、サービスを改善したり、関係の強化に結びつけるためのヒントがあると確信しており、常にていねいな顧客対応を心がけている。つらいときも、とにかく「明るく」──。カーディーラーで身につけた仕事ぶりを今に生かして、DC運用サービスの事業拡大につなげようとしている。(文中敬称略)
プロフィール
冨塚 勝
冨塚 勝(とみつか まさる)
大学を卒業後、自動車の販売店で営業に携わる。その後、テレマーケティング事業を手がける企業での勤務を経て、2004年、インフォリスクマネージ(現エヌシーアイ)に入社。技術と営業の視点を融合し、運用サービスを担当する。08年、部長に就任。およそ30人の部下の活動を統括する。