「これからの時代、男女ともに自立しなければ」と考える父親の影響を受けたのか、「子育てと仕事を両立させる」という児玉彩の“ささやかな夢”は、大学に進学する頃には、すでに「確固たる人生の目標」になっていた。
旭化成情報システム(現ITホールディングスグループのAJS)に就職してからは、持ち前の聡明さで、そつなく仕事を覚えた──。しかし、初めて任されたプロジェクトで児玉は大失敗をしてしまう。
テスト環境では完璧に動いたシステムが、本番環境ではなぜか動かない。移行手順に抜けがあったからだ。寝る間も惜しんで修復作業に張りついたが、顧客はもちろん、同僚や協力会社に多大な迷惑をかけた。「こんなミスをしているようでは、子育てなんて夢のまた夢」と猛省する。
児玉はこの苦い経験をもとに、詳細な手順をリスト化したチェックリストの制作にとりかかる。どんな仕事でも必ず押さえなければならないポイントがあることに着目したのだ。
リストは思いのほか好評で、他の部門からも引き合いが来るようになった。児玉自身の仕事の品質も大幅に高まり、念願の二人の子どもを産み育てる時間的、精神的な余裕ができた。
ちなみに夫は、週末はともかく、平日は仕事に専念したい昭和スタイル。ただ、惚れた弱みで強くは言いたくない。そこで、くだんのチェックリスト“家事&子育て版”を作成したところ、「まじめな性格からか、ゲーム感覚なのか、律儀にリストを追って家事をこなすようになった」と、夫の微笑ましい様子を幸せそうに話す。(文中敬称略)
プロフィール
児玉 彩
児玉 彩(こだま あや)
1978年、千葉県生まれ。01年、上智大学理工学部(化学専攻)卒業。同年、旭化成情報システム(現ITホールディングスグループのAJS)入社。二児の母。