系列
「NEC」
オフコン70%、しっかり稼働
利便性の追求がカギ
NEC系列のSIerである日本事務器(NJC)は、同系列のオフコンディーラーのなかで最有力の存在だ。NEC製オフコンは、関係者によると現在約1万3000台が残っている。このうち、NJCが販売し、現在もなお残っているオフコンは「3600台程度ある」(宮野弘幸・経営企画部長)。現存NEC製オフコンのうち、30%弱をNJCが“お守り”していることになる。
このビッグディーラーも他社と同様にオープン化の波を感じ、オープンシステムへのマイグレーションをオフコンユーザー企業に提案してきた。しかし、5年前に残っていたオフコンは約4000台で、実質400台しか移行できていない。そこで2007年には、オフコンユーザーの現状と要望を調査する専門チームを結成。メンバーはオフコンを熟知するベテランばかりを揃えて徹底的に調べた。「全体の約70%のオフコンは“塩漬け”状態ではなく、きちんと稼働している」(国枝直之・技術企画部部長)という実態を知ることとなった。
国枝部長は「“塩漬け”状態のオフコンは確かにある。だが、予想以上にオフコンを重宝しているユーザー企業が多い。地方に所在し、しかも小規模な企業ほど多い」と分析する。また、こうも説明する。「重宝するユーザー企業ほど、作り込んだアプリケーションを使っているケースが多く、愛着も抱いている」と。こうしたユーザー企業には、単純なマイグレーションサービスでは受け入れられないばかりか、各社の状況に応じた提案が必要になる。こうした事情から、マイグレーションサービス案件の獲得は容易ではないようだ。
NJCでは調査結果を基にして、オフコンマイグレーションサービスのなかで、要望の強いものをメニュー化している最中。来年度から再びマイグレーションサービスの提案を強化する方針だ。詳細は現在詰めているが、例えば既存オフコンをNJCのデータセンターで預かり、ユーザー企業はネットを経由してリホスト移行したオフコンを利用するサービスも検討している。
オフコンの運用・保守サービスは、技術者(COBOL言語を扱う技術者:通称コボラー)が高齢化し、ビジネスを続けるにはベンダー側に旨みがなくなりつつある。若手はオープン系技術ばかりを学び、オフコンを熟知していない。しかもオフコンには給与が高いベテランを配置しなければならない。NJCにとってもユーザー企業で重宝するオフコンの利便性を損なわずにオープン系システムへいかに移行させるかは重要な事業戦略の一つ。NJCは調査した分析結果を基に、マイグレーション事業を再スタートさせようとしている。
系列
「日立」
自治体マイグレーション、需要あり
システム投資抑制策を提案で
日立情報システムズは自治体側の要件に従ったITシステム提供に加え、総務省が展開する相互接続・連携のために予め標準化したシステム「地域情報プラットフォーム」に準拠した電子自治体ソリューション「e-ADWORLD 2」を自治体に拡販している。現在、全国自治体(1804団体)のうち、10%のシェアを持っているが、これを“武器”に20%にまで高めると意欲的な計画を示している。
データは若干古いが、2002年に自民党が調査したところによると、中央省庁のITシステム投資のうち約8割がレガシーシステムの運用に支出されていた。これは全国自治体でも同じ傾向とみられ、特に財政力の乏しい町村ほどレガシーが現存する。これに5年ほど前の市町村合併が重なり、複数の自治体にあったシステムの連携性が薄いうえに拡張性に乏しく、膨大なメンテナンス費用がかかるような“お荷物システム”になっていた。制度改正などで必要となる拡張機能に関しては、個別にクライアント・サーバー型のシステムをアドオン導入する例が多く、一つの自治体内で一貫性のないシステムになっているケースを散見する。
「e-ADWORLD 2」はこうした課題や業務改革、システム投資の抑制などが実現できるウェブ対応システムとあって、「レガシー・マイグレーション」を求める自治体に受けているのだ。今後は、日立製作所グループ内で協業を強化することで重複するさまざまな公共向けソリューションの製品統合を行うことなどで、グループ全体で公共向け市場でシェアアップを狙う。
系列
「独立系」
コンスタントに案件獲得
ツールと販売系SIerをミックス
「レガシー・マイグレーション」を手がける開発系SIerのなかには、昨年秋から案件が増え、業績を順調に伸ばしているケースがある。米国発の世界同時不況下、ユーザー企業がITシステムを最適化するとともに、コスト削減を進めようとしているからだ。ユーザー企業のそうしたニーズを受け、開発系SIerのなかで新組織を設置したり他社と協業して事業拡大を狙う動きが目立ってきている。
マイグレーション開発ベンダーのシステムズでは、不定期だった「レガシー・マイグレーション」案件が昨年11月以降、1か月に最低でも1件のペースでコンスタントに獲得できるようになっている。今年1月には「マイグレーション事業本部」を新設。同事業本部の中本周志・企画推進部販促・広報担当部長は、「これまでは、全社売上高のなかで割合が低いマイグレーション事業を、今後、売上高を伸ばすうえでの柱に据える」方針だ。同社は、旧システムから新システムへの移行プロセスでビジネスモデル特許を取得し、「マイグレーションは、品質確保が重要なポイントで、当社は実施前にリスクを含めてユーザー企業にきちんと説明できる」(同)ことを強みとしている。これが、確実に案件を獲得できている要因だ。
一方、東京システムハウスは、ハードウェア機器販売を得意とするSIerと協業するためのプログラムを策定した。同社と協業ベンダー双方でITシステムのリプレース案件を開拓するのが目的だ。同社がマイグレーションを担当、システム構築をSIerが手がける。現在、15社程度のSIerとパートナーシップを組み、「100社程度を顧客企業として獲得した」(清水真・パッケージソリューション事業部マイグレーションコンサルティング部営業企画課長)と、独自施策が奏功している。
協業ベンダーを獲得できたのは、マイグレーションツールを自社開発し、コンサルティングサービスと関連させて提供していることや、「AJ TOOL」という名称でパッケージ化したこと。「パートナーが提案しやすい」環境を整えたことが案件獲得に結びついた。
両社とも、マイグレーション事業に力を注ぐ理由として、「旧システムを最適化したいとする一方、現状に近い形で維持を求めるユーザー企業が多く、ソリューション提供に比べてリスクが少なく、利益率が高い」という共通点があげられる。また、マイグレーション案件を増やすのと同時に新規顧客を開拓でき、ユーザー企業に対して自社開発ソフトウェアの提案など、ビジネス領域の拡大に繋がる副次的な効果も生みだしている。
番外編
「保守ベンダー」
保守オープン化は一段落
マイグレはここ数年がピーク?
旧オフコンディーラーが懸命に「レガシー・マイグレーション」を進める一方、オープン化の波に一服感――と感じられるデータが、保守サービスベンダー最大手のNECフィールディングが示す業績のなかにみられる。同社が言うところの指標「PARC(Purchased And Rented Computer)」がそれだ。NECフィールディングが親会社のNECから受注した保守サービス対象となるコンピュータの標準金額総額を指す。この「PARC」のうち、オープン系機種が占める比率が今年度(2009年3月期)中間期、ここ数年で初めて前年同期を下回ったのだ。
最近3年間の中間期ベースで、オープン系とメインフレーム機種との比率では、オープン系が06年度中間期で45.0%、07年度が同45.8%、そして08年度が同45.7%と推移。上昇し続けていたオープン系の割合が、0.1ポイントとはいえ下がった意味は大きい。「オープンに移行するユーザー企業は、オープンに移行し終わった」と読み取ることができる。同社の片山徹社長も「オープン化の流れは終わった」と分析している。
「PARC」自体の数値からもオープン化の波が落ち着きつつあることが分かる。「PARC」の直近3年間の中間期データは、06年度が2兆6139億円、07年度が2兆4057億円、今年度が2兆3000億円。今年度中間期でも下がってはいるが、その落ち幅は前年同期に比べて半分の5%に。オープン化の進展による「『PARC』の落ち幅は前年度比10%程度をここ数年みていた」(片山社長)だけに、インパクトは大きい。
特定ベンダーに限ったデータではあるが、国内IAサーバー市場シェア1位のNEC保守サービス会社が示したデータだけに、「オープンに移行したい、しなければならない」というユーザー企業のムーブメントは「すでに去っている」ことを表す指標の一つともいえる。旧オフコンディーラーを中心に大きな需要を見込む「レガシー・マイグレーション」はここ数年がピークと推測することもできそうだ。