メールアーカイブの米国事情
米国では事実上の義務化 米国では、米国証券取引委員会(SEC)をはじめ、サーベンス・オクスリー(SOX)法、米金融取引業規制機構(FINRA)などが定める法令や規定に基づき、メールアーカイブが義務づけられている。米国の事情に詳しいネットワンシステムズの山崎文明フェローは「米国には以前から、『コレスポンデンス(略称:コレポン、会社としての正式通信文書)』という企業文化が根づいていた」と話す。
米国企業では、紙文書が主流の時代から、会社の正式な通信文書は、代表者や限られた役職者のみに外部への発信が許され、文書保管庫での厳格な保管などが義務づけられていた。全米証券業協会(NASD)は「文書管理ポリシー」を明文化しているが、そのなかでアーカイブの要件を定めている。
また、前述のe-Discoveryなど応訴対策としての重要性も増している。ミラポイント社の東藤貴子・コーポレート&チャネルマーケティング マネージャーは、「2002年に米SOX法が施行され、“訴訟大国”でもある。日本に比べて、確かにメールアーカイブ製品の導入は進んでいる」と、米国市場の近況を語る。
ある米調査会社のデータによると、2007年までにアーカイブ製品を導入している上場企業はわずか2割強だったが、2010年には6割強の企業が導入すると予測している。この調査結果について、東藤マネージャーは導入率の低さを懐疑的に見ている。アーカイブ先進国にしては少ないのではないかというのだ。例えば、磁気テープでバックアップをとり、手動でログを抽出することで「アーカイブ」と解釈している企業もある。企業側の認識で「アーカイブ」の捉え方が異なる。「詳しい数字は算出していないがメールアーカイブを導入している企業は、調査の結果より多いはず。メールアーカイブ製品が上場企業などが法規制に対処する目的で使うこと以外にどの程度需要があるかにもよるが、米国での需要はまだ伸びている」(東藤マネージャー)と分析する。
米国のIT事情は、2~3年のタイムラグで日本に伝播するといわれる。この“ムーブメント”に早急な対応が求められており、日本でメールアーカイブ製品を開発販売するITベンダーは積極的な拡販策を展開する動きを見せている。
メールアーカイブの国内事情
いったん落ちつくも、着実な伸び メールアーカイブ製品が市場に出回り始めた2004年当時、ネット通販大手で大規模な個人情報漏えい事件が発生。漏えいルートの特定などが難航した。メールアーカイブ製品を販売する日立情報システムズは、「システムのデータは、記録・保存しておかなければ追跡できない」と釘を刺し、こうした事件が契機となって、メールアーカイブに対する注目度が高まった、と説明する。
その後、個人情報保護法や「J-SOX法」(金融商品取引法の内部統制報告書関連の制度)の対応へと需要の向かう先が転換した。07年度までは「J-SOX法対応」の話題で持ちきりだったが、メールアーカイブ製品を扱う販社には「どこまでやればいいのか分からない」というユーザー企業の問い合わせが相次いだ。
だが、その概要が明らかになるにつれ、「内部統制報告制度ではメールアーカイブは必ずしも必要とされていない」(ネットワンシステムズの山崎文明フェロー)ことが判明し、熱が冷めてしまったユーザー企業もある。ただ、あくまでもすべてのメールを保存する必要がないと言っているだけで、重要なメールは残す必要がある。昨年後半からの経済不況の影響で、ユーザー企業で「必要」と認識する企業でも導入の凍結や先延ばしが起きた。メールアーカイブは、監査法人などから導入するように指摘を受けることもある。いったん落ち着いても、確実に伸びていくことは確かだ。
「売り手」と「作り手」事情I
日商エレクトロニクス
不祥事のリスク管理でアーカイブ メールアプライアンスを手がけるミラポイントの製品を販売する日商エレクトロニクス。同社にメールアーカイブ専用アプライアンス「RazorSafe」の需要動向について聞いた。森一喜・エンタープライズ事業本部第三営業統括部チーフは「注目度は非常に高い。法律的な制約や不祥事のリスク管理で対策を講じる必要性が高まっている」とムードの高まりを体感している。
万一、不祥事が発生した場合には、法的な証拠を示すための作業で人手をかけることになるほか、弁護士を雇って善後策を協議することになり、「起こってから」のコストと手間は計り知れないほど大きなものになるからだ。
日商エレクトロニクスは、ユーザー企業にメールアーカイブの導入目的などを聞いたうえで、同社で取り扱うミラポイント製品と他の製品を組み合わせ、ソリューションとして提供している。
ミラポイントのメールアーカイブ製品は、ネットワークを止めずに導入できることや同社がメール関連製品を包括的に提供していることから、メールシステムをシングルベンダーで構築できるのも優位性の一つだ、と話す。
「当社では1999年からミラポイント製品の販売実績がある。ノウハウと経験を生かして拡販したい」と、森チーフは積極的な姿勢をみせている。
ミラポイントジャパン
アプライアンスの「強み」生かす メール関連のアプライアンス製品を開発・販売している外資系メーカーのミラポイントジャパン。同社は2006年からメールアーカイブアプライアンスを国内に投入している。メールアーカイブはソフトが圧倒的に多いが、ソフト製品はたいてい冗長化が必要で、またサーバーやストレージなどを組み合わせてシステムを構築するとコストがかかる。ミラポイント製品のようにアプライアンスなら導入コストを抑制できることから、国内で数少ないアプライアンスの強みがあることを強調している。
「細かいチューニングが不要で、管理も容易。TCO(総所有コスト)を下げるメリットがある」(東藤貴子・コーポレート&チャネルマーケティング マネージャー)という。同製品は、国内では三井ホームや国内大手飲食チェーンなどに導入実績がある。
メールサーバー製品を製品群として抱えているのも強みだ。「メールサーバーのリプレース時期に、アーカイブ製品の導入を促していく」と、拡販の意欲を示している。
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