今年度(2010年3月期)で最終年度を迎える「情報基盤強化税制」。ユーザー企業が、対象となるIT製品を購入すれば10%の税額控除か50%の特別償却が認められる優遇措置だ。この“おいしい”制度が、今年度末をもって終わろうとしている。景気後退の影響を受けて、ユーザー企業のIT投資意欲が減退するのは必至な状況だけに、ITベンダーはこの税制を提案材料に使わない手はない。来年度以降、延長される見込みはほぼゼロだけに、ぜひともこのラストチャンスを生かしたい。
3年間の成果はいかに
ITベンダーの活用は進んでいない
「情報基盤強化税制」は今年4年目を迎えるものの、この税制を熟知して提案材料に生かしているメーカー、SIerは驚くほど少ない。「最終年度を迎えているのに、今さら聞けない」と思っている人も多いはず。だが、ITベンダー全体を見回しても、この税制を有効活用しているケースは稀だ。チャンスは残されている。
テンション低いITベンダー
専門知識の欠如が原因に 「当社の製品が『情報基盤強化税制』の対象に該当するのかという問い合わせが、ユーザー企業やパートナーから結構あるのは確か。ただ、それを積極的にPRして、拡販材料に活用している状況ではない」。
ファイアウォール(FW)やUTM(統合脅威管理)アプライアンスを開発・販売する、ある中堅セキュリティメーカーの声だ。自社製品がこの税制の対象製品であるにもかかわらず、それを有効活用していないわけだ。
ソフト開発をメインとする開発系SIerのテンションも高くはない。「情報基盤強化税制」を十分に活用していないようだ。大手SIerやユーザー企業の要望に沿ったカスタマイズソフトを開発する受託型ビジネスを展開するソフトハウスほど、この傾向は強まる。自らハードやソフトを仕入れて販売する販売系SIerは、この税制の活用度合いが高いものの、受託ソフト開発がメインでは用途が限られるというのがその理由だ。「ビジネスで活用するというよりも、自社で使うハードやソフトなど、ユーザーとして商品購入時に活用している。事業環境が厳しさを増すなか、少しの軽減策でもありがたい」という声も聞かれる始末。自社の利用でそのメリットを感じているにもかかわらず、それをビジネスに上手く生かしていないわけだ。
確かに、「情報基盤強化税制」に限らず、税優遇措置は分かりにくいほか、会計に詳しい人以外には、買う方法も売る方法も利用するのに敷居が高いのは事実。「ITベンダーにとっては、顧客に提案する前に事前に学んでおかなければならないこともあり、提案には手間がかかる。提案して減税対象になると言い切って、いざ会計士に話したら、そうではなかったと言われるのも嫌だ。だから、この税制の存在は知っていても、積極活用しないのだろう」。ある会計士はこう語っている。
最終年度にもかかわらず、ITベンダーの提案材料に生かされていないのが現実。ただ、この税制は、ユーザー企業にとっては、単純にIT費用を削減できるメリットがある。一方、ITベンダーにとっては情報システムを提案する際に、ユーザーに投資の決断をさせる有効な武器として活用できる。景気後退の影響でIT予算削減を進めるこの時代に、自社ビジネスを拡大したいメーカーやSIerにとって、かなり有効な制度であることは間違いない。
制度の延長は見込みゼロ!?
今年度がラストチャンス IT関連機器の税優遇措置としては、過去に「特定情報通信機器の即時償却制度(通称:パソコン減税)」や「IT投資促進税制(通称:IT減税)」などがあった。「IT減税」に限っていえば、対象製品が幅広く最大級のIT関連優遇措置だったが、範囲が広すぎてユーザー企業には複雑に見えてしまった部分もある。だが、「情報基盤強化税制」は、「対象製品が絞られてはいるが、それだけに分かりやすい」(経済産業省の豊田原・商務情報政策局情報処理振興課課長補佐)。経産省は、延長前の2006~07年度の2年間におけるIT投資押上げ効果を約2400億円、実質GDP(国内総生産)押上げ効果は約3100億円とみている(図1参照)ほか、延長後の2年間も同様の金額を見越んでいる。豊田課長補佐は、「一定の成果は出せていると思うが、まだまだPR不足。もっと広く告知する必要がある」と、今後ユーザー企業やITベンダーへの宣伝活動を徹底するつもりだ。
経産省のある担当者はこう漏らしている。「この2年間延長がIT関連の優遇税制として最後だろう。来年度以降もこのようなIT関連の優遇税制を設けることはかなり厳しい……」。もし、これが現実になれば、IT関連機器の税優遇措置を活用できる期間はあと1年足らず。今年度がラストチャンスなので、これを有効活用しない手はない。次ページから、改めて「情報基盤強化税制」のメリットをみてみよう。
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