10%の税額控除か50%の特別償却
7%引きで購入するのと同じ効果が
ITベンダーがユーザー企業に対してあまり積極的に提案していない情報基盤強化税制だが、ユーザーとITベンダーの双方にとって利点がある。改めて情報基盤強化税制の概要とそのメリットを解説する。
「情報基盤強化税制」は、06年度から始まった税制である。ユーザー企業は、対象のIT製品を一定価格以上購入すれば、10%の税額控除か50%の特別償却が認められる優遇措置だ。簡単にいえば、税額控除を選んだ場合、7%引きでIT商品を購入するのと同じ効果を得られる。当初は06~07年度の2年間だけ有効だったが、08年度から今年度まで2年延長され、今年度で最終年度を迎えた。延長されただけでなく、対象製品が拡充され、また購入金額も引き下げられた。とくに、中小企業はかなり利用しやすくなった。内容をもう少し詳しくみてみよう。
「情報基盤強化税制」の主な対象製品は、サーバー用OSやデータベース(DB)、ファイアウォールなど(図2参照)で、これらはすべては情報セキュリティの国際標準規格「ISO/IEC15408」の認証を取得している製品であることが条件になっている。
利用できる対象ユーザー企業は、青色申告書を提出する法人か個人事業主で、業種や企業の年商規模は問わない。またユーザー企業だけでなく、対象製品を活用してASP・SaaS型サービスを提供するITベンダーもこの税制を活用できる。例えば、自社でSaaS型サービスを始めるためにITインフラを整えていて、対象製品をインフラ構築のために購入すれば、それも認められるのだ。
対象となるIT製品取得価額の下限は、企業の資本金額で分けられている。1億円以下で70万円、1億円超10億円以下で3000万円、10億円超で1億円の区分だ。延長・拡充前は、1億円以下の企業の取得価額は300万円だったが、「中小企業が利用する際に敷居が高かった」(経済産業省情報処理振興課)ことから、その価額を大幅に引き下げた。中小企業が使いやすくなった要素はここにある。

【活用事例】実際の活用例をみると、その内容とメリットが分かりやすい。税額控除を選んだ二つのケースを紹介しよう。
販促材料に徹底活用する日本オラクル
対象DBの多さでライバルに差つける
ITベンダーにあまり活用されていない「情報基盤強化税制」だが、販促材料にうまく活用して売り上げ増加に結びつけているITベンダーも存在する。その1社が日本オラクルだ。同社は対象になるDBが競合他社よりも多いことを材料にして、それを徹底的にPR。他社よりも安価に購入できることを訴求し、シェア拡大につなげている。
日本オラクルは、「情報基盤強化税制」が創設された3年ほど前から、同税制を販売促進の材料にしていた。税制の内容や手続き方法、自社製品の何が対象となるかを説明したパンフレットやステッカー、ポスターを作り、ユーザーやパートナーに配布。最も熱を入れていた時期は、来客者に出すお茶の紙コップにも日本オラクルのDBがこの税制の対象であることを記載したほか、本社受付を減税の説明で埋め尽くしたほどだった。
日本オラクルがそこまで熱くなったのは、ライバルメーカーよりも対象DBが多く、税制で差をつけられると考えたからだ。最大のライバルであるマイクロソフトのDBは、税制の対象となるタイトルは大規模向けのエンタープライズ版しか現時点で対応していない。しかし、日本オラクルはエンタープライズ版だけでなく、中堅・中小企業(SMB)向けのスタンダード版も対象範囲に入っているのだ。
その裏には、「米本社は、大企業向けのみ『ISO/IEC15408』を取得すればよいと言っていたが、この税制を意識して中小規模向けでも取得したいと米本社に掛け合った」(北野晴人・システム事業統括本部担当ディレクター)という地道な努力があった。日本の中小企業はマイクロソフト製品を活用するケースが多い。それだけにオラクルはこの税制をきっかけにして、マイクロソフトからシェアを奪おうと戦略的に動いたのだ。
北野担当ディレクターは言う。「この税制がどれほど売り上げに結びついたのかは残念ながら測定できない。ただ、このDBは対象になるのかなど問い合わせ件数は急増した。一定の成果には結びつき、他社との差別化に貢献したと思っている」。また、こうも続ける。「この3年間を振り返ると、まだ知らない人が多いというのが素直な実感。地道な告知活用を続けることが重要だ。今年度が最終年度だけに、新たなPR活動を始める可能性もある」。
認証取得作業を地道に続け、それを積極的にPRしたことで他社と差別化した。売り上げインパクトは定かではないが、「税制優遇DBならオラクル」というイメージを植えつけたのは間違いない。
OBCが「ISO/IEC15408」を取得
推奨DBが未対応もその先を見越し
オービックビジネスコンサルタント(OBC)は4月10日、主力製品の財務会計ERP「勘定奉行V ERP」で、「ISO/IEC15408」認証を取得した。財務会計パッケージでの認証取得は、国内メーカーでは初である。
ただ、「情報基盤強化税制」でERPなどの業務ソフトは、データベース(DB)と同時に購入・導入しなければ減税対象にならない。OBCがサポートするDBは、マイクロソフトの「Microsoft SQL Server」だが、同DBで「情報基盤強化税制」の対象になるのは大企業向けライセンスだけ。税額控除を受けるには、「SQL Server」のエンタープライズ版を同時購入する必要がある。OBCが通常バンドルする廉価版は、現段階では「ISO/IEC15408」の認証を取得していないが、取得が間近なようで、今年度中に間に合うことに望みを抱いている。
とはいえ、OBCは、「情報基盤強化税制」だけを目的として認証を取得したわけではない。同税制の先を見越して、早期に対応したようだ。経済産業省が「システム管理基準追補版 追加付録 付録8」で公開した「財務会計パッケージが具備すべき情報セキュリティ機能」に、同規格が盛り込まれ、今後、パッケージ自体に高度なセキュリティが求められると判断したことが大きな要素となっている。
経済不況に伴って先送りになっている内部統制強化に関するIT投資を見越し、会計監査に求められる「識別認証機能」や「監査証跡」など会計データの信頼性確保に関連する機能強化に動いたということだ。「不況が底を打つ頃から内部統制需要がやってくる。その準備をした。顧客に『安心感』をもって当社製品を使ってもらいたくて認証取得した」と日野和麻呂・開発本部OTECグループ・グループリーダー。認証取得で指揮を執った同グループの坂本麻美担当も「認証機関である情報処理推進機構(IPA)と共同で、会計監査時などに必要な機能として同規格に対応していく必要があることをアピールしていく」と話す。
マイクロソフトベースの製品を開発・販売する業務ソフトウェア会社は、OBCと同じ悩みをもっているはずだ。マイクロソフトのエントリー版DBが同規格に未対応で、業務パッケージ単体では減税対象にならないからだ。同税制の利用率が低い現状で、OBCのソフトのように、同規格を認証取得した業務パッケージが減税対象にならないことは、制度上の盲点といえる。
「情報基盤強化税制」を詳報する官公庁・業界団体のWebページ
(1)経済産業省 税制全般の概要
http://www.meti.go.jp:80/policy/it_policy/zeisei/index.html(2)情報処理推進機構 ISO/IEC15408認証取得製品リスト
http://www.ipa.go.jp/security/tax/index.html(3)情報処理推進機構 対象となる連携ソフトウェアのリスト
http://www.ipa.go.jp/software/open/ossc/rp/index.html