さまざまな用途で利用が進みつつある「3次元インターネット(3Di)」。「Second Life(セカンドライフ)」などに代表される3次元仮想世界だが、企業が「3Di」を構築するうえで必要なツールを売り出すITベンダーが増えてきた。国内の仮想世界サービスなどでは、製造業の大手企業がプロモーション活動に利用し始めている。はたして国内企業による「3Di」の活用は広がるのか。
1 3Dインターネットの可能性
BtoBで利用進む
コスト削減策として浮上!
世界的に知られるオンライン仮想世界(空間)サービス「Second Life(セカンドライフ)」のように、3次元(3D)のバーチャル空間で情報配信・共有ができるのが「3次元インターネット(3Di、以下3Dインターネット)」だ。この技術の元になる考え方が登場したのは、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボで実験が行われていた1980年代まで溯る。
90年代に米リンデンラボ社が運営するセカンドライフが登場した頃から、「3Dインターネット」は普及し始める。デジタルハリウッド大学大学院の三淵啓自教授(メタバース協会常任理事)はこう説明する。「Web1.0は一方通行の情報配信に過ぎない。これに対してWeb2.0は、ユーザーサイドでコンテンツをつくることができるなど、参加型だ。セカンドライフは、ユーザーが3Dの世界でモノづくりやコミュニケーションができるので、Web2.0になる。Web1.0からWeb2.0の進化系が『3Dインターネット』ではない」。
3Dインターネットは、ユーザー参加型である「Web2.0」サービスも、電子商取引(EC)サイトなどでFlashや動画などと同じ「リッチコンテンツ」として使って情報を伝達する「Web1.0」の使い方も、どちらも実現できる。「リッチコンテンツとして3Dインターネットを用いた場合には、より現実に近い感覚で情報を伝達することが可能になる」(三淵教授)。また、コミュニケーションに用いる場合には「印象形成」や「感情伝達」に優れている。
ここにきて、企業システムの機能として使われる可能性がでてきた。三淵教授は、「これから広がるとみている。さまざまな理由が考えられるが、『コストカット』の用途で一つメリットが打ち出せる」と指摘する。
企業向けソリューションとしては、実際の会社のオフィスを模して仮想空間を構築し、そこに社員のアバター(人の分身となるキャラクター)を配置して在席・離席の状況を視覚的に捉えることができるアプリケーションが考えられている。Webカメラなどで実際のオフィス映像をモニタリングすると、社員は「監視されている」感覚に苛まれ、個人情報やプライバシーが侵されることになりかねない。仮想世界なら、アバターは、あくまでも仮想人物なので、プライバシーや個人情報を侵害する恐れはない。また仮想世界で会議を開くことで、渡航費用などをかけずに、世界中の参加者がすぐに一つの仮想会議室に集まって議論することができる。このように、実際のオフィス業務と仮想空間をリンクさせて業務効率を高めるなど、さまざまな可能性を秘めている。徐々に活用が広がりつつあるこの「3Dインターネット」を、一部の大手ITベンダーは新たなIT商材として期待している。
「3Dインターネット」を使うと、実際その場に人がいるかのように仮想世界で仕事ができるようになる。それは、具体的にどのような効果をもたらすのか。
先ほど挙げたように、各支店の担当者などを集めて行う会議では、交通費が削減できる。また極端な例だが、リアルのテレビ会議だと女性社員は化粧したり服装を整えなければならないが、仮想空間ではこの手間が省けるという利便性もある。さらに、蔓延が危惧される豚インフルエンザのように、感染症対策などの危機管理にも役立つ。「パンデミック(世界的感染)が起きたとき、究極の予防法は家から出ないこと。仮想空間で仕事ができれば支障はない。企業はこうした危機管理まで考えておかなければならない時代だ」(三淵教授)。もちろん、大手企業などで導入が進んでいる在宅勤務などにも使えるだろう。世界的には、仮想空間サービスなど「BtoC」の領域で3Dインターネットが広がっている。
だが、操作性や使い勝手などの点で多くの問題点が指摘されており、まだ敷居は高い。ユーザーインタフェース(UI)などの問題が解消すれば身近になってくるのだろうが、三淵教授は「『BtoC』での国内普及は3~5年先ではないか」と予測する。「セカンドライフのような仮想世界(メタバース)では、さまざまなサービスが提供されているが、いまのところ日本市場でBtoCのサービスは難しい」(三淵教授)。海外には、知らない人と会話するコミュニケーション文化があり、「3Dインターネット」ユーザーはそこに価値を見い出している。ところが日本の場合は、サービスを利用する環境が整っていないという。「日本のユーザーは、仮想空間内で自ら行動を起こすのではなく、何か面白いことが起きるのを待っている」(三淵教授)というように、日本人の性向にそぐわない面がある。
国内で「3Dインターネット」が台頭したのは、セカンドライフでひと稼ぎしようとサービス事業者が多数参入した07~08年前半頃。しかし消費者が所有するパソコンのスペック不足や、仮想空間のコアユーザーでなければ理解しにくいサービスが多く、新規ユーザーを呼び込むまでに至っていない。
現在、国内の「3Dインターネット」サービス事業者は、市場が成長途上であり、仮想空間内でサービスを展開してもリターンが少ないことがネックとなって、展開は沈静気味。本格的に立ち上がるまでには、まだ時間を要しそうだ。だが、後ほど紹介するココアが展開する「meet‐me(ミートミー)」などは、公序良俗に反する行為を排除し、日本の文化・慣習に合わせて作られている。こうしたベンダーの手によって技術的・機能的な面がクリアになれば、次代のビジネスになる可能性はありそうである。
2 製品提供会社の動き
3Di社
仮想世界実現サーバー提供
販社にシステム会社が名乗り
3次元仮想空間を構築できるサーバーソフトウェア開発ベンダーである3Di社は、企業向けに3次元仮想世界を構築するための商用オープンソースソフトウェア(OSS)製品を提供している。同社は3D仮想世界を構築するOSS標準化団体「OpenSimコミュニティ」に参加し、商用ディストリビュータとして活動している。OSS技術を活用して、企業向けに「3Di OpenSim Standard」「3Di OpenSim Enterprise」の二つの製品をリリースした。
次世代ネットワーク網(NGN)利用を促進する「コンテンツ」の一つとして「3Dインターネット」に注目したNTTは、昨年3Di社に出資し、業務提携を行った。現在、ホスティングなどを手がける「Hoster-JP」、システム開発会社の「テック・インデックス」などがパートナーとして同社製品を販売している。NTTと業務提携したことで、グループ会社のNTTコミュニケーションズが営業活動を開始。「3Dインターネット」の可能性を知れば、「そのうち、大手SIerが販社として名乗りを挙げてくれるだろう」と、3Di社の小池聡社長は期待する。
インターネットは、「テキストから画像へ」「画像から写真へ」「写真から動画へ」というように「リッチコンテンツ化」が進んできた。小池社長は、「『3Dインターネット』をリッチコンテンツの一つとしてInternet Exploler(IE)など汎用のWebブラウザで操作できるようにする」と、現在あるインターネットとの融合を図っている。
「3Dインターネット」は、従来の2次元インターネットでは実現できない、アバターを介したインタラクティブな「体験型」メディアだ。ユーザーへの情報伝達の「到達度」と「表現力」の二つを合わせることで、訴求力の高いメディアとして、今後の活用が期待されている。
用途としては、企業内での仮想会議など、またBtoCの領域ではeラーニング、不動産関係のショールームや電子商取引(EC)サイト、イベント・セミナーなどを見込んでいる。 小池社長は「PDFや動画と同じように、気づいたら利用していた、という時代がくる」と確信している。今の2次元インターネットが有益なコンテンツに乏しい黎明期を経験し、発展していったように、『3Dインターネット』もなくてはならない存在になるとみている。
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