3 サービス提供会社の動き
ココア
仮想イベントが盛況
ユーザー増加で企業利用が進展
3D仮想世界サービス「meet-me(ミートミー)」を運営するココア。同社の岡邦雅・社会・技術基盤戦略担当部長は、世界同時不況でIT投資意欲が落ち、2~3年のスパンでみれば「『3Dインターネット』はビジネスで確実に使われることになるだろう」と話す。
セカンドライフが日本で盛り上がった07年、東京の街並みを再現した「meet-me」のα版を提供開始。08年4月には正式版をリリースした。「meet-me」とセカンドライフの違いは何か。セカンドライフではユーザーが自由にコンテンツを開発できる。厳格なポリシーはなく「例えば、企業のSim(区画)内で爆弾テロのようないたずらをされても、誰に責任があるのか分からない、といった問題がある」と、岡担当部長は指摘する。またセカンドライフは参入に際してコンテンツ開発が必要だったことから、国内に「参入支援」企業がいくつも登場するきっかけとなった。
一方の「meet-me」では、企業が3D仮想世界に出展する際、3Dコンテンツを自由に制作できない。その代わり、責任はすべて運営会社にある。公序良俗に反するコンテンツを完全に排除し、ユーザーや出展企業が良識のある仮想世界を安心して利用できるのが特徴だ。「meet-me」は、もともと一般消費者がエンターテインメントの時間と空間をそこで消費してもらうというテーマパークのようなビジネスコンセプトでつくられた。このなかで企業が出展するパビリオンも存在する。伊藤忠グループの為替取引会社「FXプライム」がショールームを、マイクロソフトも仮想水族館を出展している。また、トヨタ自動車は「meet-me」内で新車発表会を実施している。仮想世界は、リアルイベントを代替する役割を担うことができるのだ。
岡担当部長は「多くの人がリアルタイムで同時にコミュニケーションし、現実のようなリッチな体験空間をつくり出すことは、3Dインターネットでしか実現できない」と話す。イベントを仮想世界で催すことで、現実世界ではなかなか聞こえにくいユーザーの声を、直接的かつ双方向のコミュニケーションで汲み取ることができるのだ。長期的な消費者との接点を構築するうえで、「3Dインターネット」は有効活用できる。「meet-me」はユーザー数、滞留時間ともに順調に伸びている。新規案件も増え、さらに伸長しそうだ。
4 大手コンピュータメーカーの動き
日本IBM
自社仮想イベントで54万ドル削減
「Notes」に「3Di」機能搭載へ
日本IBMは、日本に「3Dインターネット」を普及させるため、バーチャルとリアルの融合を追求したビジネス展開を検討している。現在、提案モデルの構築を進めている。
同社が「3Dインターネット」関連のビジネスに着手したのは2007年。それから2年以上が経過しているが、ビジネス上の実績は予想に反して爆発的な伸びをみせていないという。「3Dインターネット」の提案モデルを売る「商流」についても、販売代理店を獲得できていないようだ。企業向けは「導入期」という認識で、ユーザー企業に直接アプローチしている。
宮川精・開発製造新事業推進部長は「爆発的な広がりはみせていないのが実状」と認める。ただ、世界的には導入成果が出始めていることから、「日本でも普及する方向に進むことは間違いない」と、市場の動きを注視している。
日本IBM社内でも、「3Dインターネット」を活用した同社製品に関する技術者向けイベントを世界的に開催。実際に現地へ赴かなくてもイベントに参加できることで、コスト削減効果を発揮した。「リアルにイベントを開催するのに比べ、54万米ドル(約5200万円)の削減につながった」(宮川部長)と話す。参加者からは、「視覚的にリアルイベントと変わらず、違和感はない」と、高評価を得た。
同社では、「3Dインターネット」は「バーチャルショールーム」としての活用メリットが高いと見て、仮想世界にデータセンターのショールームを設置している。単なる製品性能だけでなく、「サーバーの配置図、データセンター自体の設計などを検証できる」(片岡利枝子・開発製造大和システム開発研究所開発技術部長)と語る。床下の構造などをチェックできることが特徴の一つ。実際の現場では確認しにくいことが、仮想世界なら実現できるというわけだ。
こうした自社内での取り組みを踏まえて需要を掘り起こそうとしているわけだが、「バーチャル会議や社員採用説明会など、仮想世界をリアルに結びつけることを提案することが重要」(宮川部長)と話す。この先、グループウェア「Lotus/Notes」に、仮想世界サービスの機能を搭載する計画だ。すでに汎用的に使われているツールに組み込み、販売代理店経由で需要を喚起することを視野に入れる。
5 国内企業の活用事例
内閣府が防災イベントなど
多様な使い方広がる
日本でも、仮想世界を活用したさまざまな事例が登場している。例えば呉服店の「撫松庵」は、「Second Life(セカンドライフ)」内で着物などを中心に販売する「ノンコ浪漫館」と、リアル店舗(伊勢丹新宿店)の着物販売とで、コラボレーションを実現した。
政府での活用例もある。2008年1月に開催した内閣府主催の防災イベントでは、セカンドライフ内の会場と東京・丸の内のリアル会場が連動した。
先に紹介した「meet-me」では、アマゾンドットコムやヨドバシカメラのポイントと仮想世界のポイントを交換するサービスのほか、仮想空間内に企業が看板広告を出している。
SIerなど企業向けにシステム提供するITベンダーは、3Di社などが提供する仮想世界構築用のソフトウェアを使えば、ユーザー企業の用途に応じた仮想世界を構築できる。日本IBMの「Lotus/Notes」への採用もあって、景気回復とともに「3Dインターネット」の企業利用は増えることが予想される。