政府の「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」は4月9日、IT基盤整備とIT産業活性化を目的とした「デジタル新時代に向けた新たな戦略~三か年緊急プラン~」を決定した。この計画で政府は3年間で約3兆円を投じ、50万人の雇用創出とIT 産業規模の維持を目指すつもりだ。3兆円、この慈雨はどこに降り注ぐのか――。
50万人の雇用創出とIT産業維持
次期長期計画の礎的役割も 「緊急」と銘打ったこの3か年計画は、その名の通り、景気後退の影響を受けて急遽決定されたプランだ。どのような経緯をたどって策定されたのか。そして、その具体的な内容は何か。計画の概要をみる。
次期長期プランの一環
集中投資で効果の増大を 「三か年緊急プラン」は、IT戦略本部が4月9日に発表した計画で、文字通り景気活性化策として補正予算に盛り込んだもの。世界同時不況の影響を受けて全産業が縮小傾向にあるなか、IT産業界の活性化を目的に決定された計画だ。現在の国内情報化投資額(市場規模)約20兆円を維持しながら、3年間で50万人の雇用を創出しようというのだ。政府は3年間で約3兆円を投じる計画を示し、今年度は約1兆円を投資する。
具体的な中身を探る前に、まずはこのプランの位置づけと決定に至った経緯を説明する。
「三か年緊急プラン」は、単なる景気対策の一環ではなく、もう一つの意味がある。今回のプランが発表される約4か月前の昨年12月19日、IT戦略本部は現行のIT戦略プラン「IT新改革戦略」の次期計画を今年6月末までに策定することを決めた。「三か年緊急プラン」はこの次期計画のなかに位置づけられており、政府が長期的に定める目標を達成するための礎としての役割を担う。
日本政府はこれまで、「世界最先端のIT国家を目指す」との構想をぶち上げて1990年代中盤からITインフラの整備と活用を推進し始めていた。94年6月にIT戦略本部の前身といえる「高度情報通信社会推進本部」を設置。その後、「IT基本法」の施行やIT戦略本部を立ち上げ、戦略的プラン「e-Japan戦略」「e-Japan戦略II」を決定・推進することになる。そして現在の「IT新改革戦略」がある(下表参照)。次期長期プランは2015年までの長期計画で、日本がIT分野で世界をリードできるかどうかを決める重要な役割を担う。政府は3年間に集中して投資することで経済効果を増大させ、次期長期プランを一気に加速させようとしているわけだ。
重点は医療、教育、電子政府
中長期的な視点が求められる では、「三か年緊急プラン」は具体的にどのような分野を強化しようとしているのか。
骨子は主に三つだ。一つは「電子政府・自治体/医療/教育・人財」の3分野において特定地域で実証実験的に先進技術を試し、それを全国に横展開する。二つ目が「産業・地域の活性化および新産業の育成」。三つ目が「デジタル基盤の整備」だ。具体策はこれからの段階だが、そのなかでも特定地域の先導的IT強化プロジェクトでは中味が見えている。
主な施策として、まず電子政府・自治体では、「国民電子私書箱(仮称)」という施策を始めようとしている。希望者には、年金記録などの個人情報を入手・管理できる専用口座を提供し、ワンストップの行政サービスが受けられるようにする。そのためのシステムを開発するわけだ。各省庁で共通化できる業務システムを統合・再構築し、サービスとして利用する「霞ヶ関クラウド(仮称)」もこの計画内に盛り込んだ。そして、従来から進めているシステムのオープン化についても加速させる計画だ。
医療の目玉は、「日本健康情報スーパーハイウェイ構想(仮称)」だ。遠隔医療の強化、地方医療の再生を目的に、大容量の医療画像などのデータを医療機関が共有し、セキュアな環境下で送受信するネットワークを整備するというもの。実現すれば、医療機関同士で電子カルテなどの情報が行き交い、医療機関のIT化が一気に進むことになる。
そして最後が「教育・人財」。デジタル教育の活発化のために、まずはインフラを整備。校内LANやコンピュータ、電子黒板、地上デジタルテレビなどのデジタル教育基盤を整える。校内LAN整備率は100%、児童生徒3.6人に1台のコンピュータ整備が目標だ。
では、産業界のプレイヤーは具体的にこのプランをどのようにみているか。次ページからこの重点3分野を「医療」「教育・人財」「電子政府・自治体」の順で具体的にみてみる。
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