Category 1
医療機関
追い風、確実に吹く
電子カルテ普及の起爆剤か
医療業界向けITビジネス(医療IT)を展開するITベンダーには確実に追い風になる。医療ITは国の政策に大きく左右されるだけに、今回の緊急プランで再び投資額が増える可能性が高い。同プランでは「健康情報の高速ネットワークの整備」を謳っており、これまでほとんど実現できていなかった“医療情報のネットワーク化”の進展で、ビジネスチャンスが増えると考えるITベンダーは多い。
SaaS・ASP方式で割安に 医療ITを手がけるITベンダーが注目しているのは、医療情報システムのネットワーク化だ。医療機関がこれまで推し進めてきたのは、院内の情報システムやネットワークの整備が中心で、他の医療機関とITを駆使した連携は非常に手薄だった。緊急プランで打ち出している医療情報のネットワーク化=日本健康情報スーパーハイウェイ構想は、診療所や地域の中核病院、大病院、介護・リハビリ施設などの情報連携を促進するうえで欠かせない施策。こうした投資により、遅れがちの医療機関のIT化や、ITに関わる投資が活性化するものと期待されている。
医療機関の多くは、医師・看護師不足に悩まされ、公立病院の約6割は赤字経営といわれるなど、経営面でも厳しい。IT化の“要”である電子カルテの普及率は、大規模病院でようやく5割を超えてきたが、中小病院や診療所の普及率は1割に満たない。ネットワーク化が促進されることで、中小病院・診療所向けにSaaS・ASPなどのサービス方式により、割安で提供することが可能になる。
医療情報を院外DCに保管 電子カルテを巡っては、ITベンダーなど外部の事業者にシステム運用を事実上、委託できない規制がかかっていた。カルテに蓄積される患者の診療情報は、重要な個人情報であり、万が一にも外部に漏えいする事故を起こしてはならないというのがその理由だ。このことも、情報システムに専任で従事する技術者やデータセンター(DC)の確保が難しい中小病院で電子カルテが導入しづらい大きな要因の一つだった。
今回の健康情報スーパーハイウェイ構想や、電子カルテの普及の遅れなどから、ここへきて医療情報を院外のDCに保管できるよう規制を緩和する動きがある。医療ITに力を入れる富士ソフトは規制緩和を視野に入れ、「高セキュリティのDCを使った医療情報の保管ビジネスに向けた準備をする」(白石晴久社長)と話す。医療情報は、セキュリティだけでなく、レントゲンや動画などの蓄積に耐えうる高機能なDCが求められる。こうしたDCを運用するITベンダーには、映像圧縮技術や効率よくデータの蓄積ができる仮想化技術なども揃える必要が出てくる。
患者にとってもメリットが大きい。大規模の病院で受診するとき、これまではかかりつけの診療所や健康診断などで蓄積してきたデータを生かせず、最初から検査し直すケースがほとんどだ。電子カルテ情報の共有が進むことで、二重・三重の検査の手間を軽減できる。国全体にかかる医療費約33兆円のコスト削減など財政面でも利点がある。
“土管”だけで終わらせるな 診療所と病院を連携させる「病診連携」は、病院の医師・看護師不足を緩和する有力な方法としても注目される。NECでは医療機関をネットワークで連携させる「地域医療連携ネットワークサービス」の開発に力を入れるなど、ITを活用した病診連携に取り組む。診療所→病院の情報の流れだけでなく、病院→介護・リハビリ施設など各種医療施設の情報連携も実現することで、病院を退院し、他の施設に移る患者を情報面で支援。また、病気が治癒し、再びかかりつけの診療所に戻ってきたケースでも、診療所の医師は病院での治療経過を参照することで、より的確な診断が下せるというわけだ。
患者が地域の診療所や介護・リハビリ施設などに分散しやすくするネットワークを整備することで、病院の負担や経営状態の改善に役立つ。患者の診療情報を最初に電子化する“入り口”に相当する電子カルテの普及を100%にするには、「追加で2兆円の投資が必要」(医療ITに強い富士通)と推定される。
だが、今の病院の財務体力を考えると、自力での普及推進は困難が予想される。DC運用を得意とするITベンダーに診療情報を預けられるようにしたり、電子カルテのSaaS・ASP化などによって病院のIT投資に関する抜本的な負担軽減策が求められる。緊急プランでは、ネットワークという“土管”の整備だけにとどまらず、電子カルテやオーダリングといった病院内部のシステム化支援が不可欠。ネットワークと院内システムの整備の両立こそが、医療ITの真の活用に結びつく。
[次のページ]