事業構造の変革
SIerのポジションが変化
戦略性、成長性を打ち出す
大手SIerは事業構造の改革を本格化させている。戦略性や成長性、サービス・独自プロダクトなどを全面に押し出して改革を推進。これまでの取り組みや経営方針を勘案した主要SIerのポジショニングマップなどをベースに、今後の情報サービス業界の進むべき方向性を探った。
規模のメリットを追求 不況に直面し、まず事業構造の大きな変革に着手したのは業界トップのNTTデータだ。昨年度(09年3月期)は増収増益で、今期(10年3月期)も増収基調を維持する見通しと、表面上はまずまずの業績にみえる。だが、M&Aによってグループ化した事業会社を除いた、いわゆる流通小売業で言うところの“既存店ベース”では「実質は減収減益」(山下徹社長)と明かす。 そこで、着手したのがグループ再編だ。同社は積極的なM&Aをバネに子会社144社、関連会社22社(昨年度末時点)からなる年商1兆
1390億円の巨大グループに成長してきた。これを7月1日付で社内カンパニーに分け、それぞれのトップに副社長クラスの役員を配置する。社内カンパニーはNTTデータが得意としている金融公共分野と、戦略的に伸ばしてきた産業・グローバル分野、基盤技術分野の三つ。同じ時期にグループ会社10社を4社に統合するなど“グループ会社が多すぎる”というかねてからの課題にもメスを入れるなど、組織を大幅に再編する方針を打ち出した。
さらに驚くことに、山下徹社長が自ら中期経営計画で打ち出した今期営業利益率10%の達成の看板をあっさり下ろし、代わりに4年後の2013年3月期に年商を現状の1.3倍余りの1兆5000億円に拡大する目標を掲げた。山下社長は、「状況が変わった。営業利益10%に固執すべきでない」と、利益重視から規模のメリットの追求型に方針を大きく転換した。顧客の経営環境が厳しいなか、無理に利益を確保するより、M&Aやグローバル進出によって規模のメリットを追求したほうが得策と判断したようだ。
ラジカルな動き目立つ 図1の「戦略性と利益重視を軸としたSIerのポジショニングマップ」では、横軸を「戦略性、成長性、グローバル指向」、縦軸を「利益重視、安定性、ドメスティック指向」とした。不況まっ只中に年商1.5兆円の目標を掲げ、果敢にグローバルへの進出を進めるNTTデータは横軸の最右翼とし、逆に縦軸の上のほうにはドメスティック指向で、かつ利益重視のSIerを配置。NTTデータは、向こう4年間に海外での売上高を2400億円上積みし、国内で同1200億円増やすことで年商1.5兆円にもっていこうとしている。海外SIerなどをターゲットとしたM&Aを継続する方針を示しており、その戦略性、グローバル指向では国内SIerのなかで最もラジカルだといえる。
同図では、戦略性や成長性が利益に結びつくと右上(Aゾーン)に向かい、逆に戦略性や成長性が乏しく、利益水準も低いと左下(Xゾーン)に近づく。上場有力SIerでは、さすがに左下に位置するケースは少ないものの、戦略性・グローバル指向のSIerと、利益重視・ドメスティック指向のSIerの大きく二つの方向性に分かれる。NTTデータのように年商規模が大きく、かつラジカルなSIerもあれば、規模は小さいものの戦略性と成長性に富んだワークスアプリケーションズ(大手向けERP開発)やシンプレクス・テクノロジー(金融工学分野のソフト開発)なども果敢に攻めの経営を展開する。一方で、規模は大きいが、ドメスティック指向のSIerも少なくないという傾向も見られる。
成長の潮流が見えた ビジネスの中身についても変革が進んでいる。NTTデータは売上高構成比でこれまで約20%を占めていたサービス事業を向こう4年間で30%増やし、同5%を占めていたソフトプロダクトを20%へと拡大させる。一方、同75%を占めていた受託ソフト開発やシステム構築は、相対的に同50%に減らす。国内外で売り上げを伸ばすためには、こうした抜本的なビジネス構造の変革が欠かせないという判断からだ。
SIerトップグループの一角に地歩を固め、先行するNTTデータを猛追するITホールディングスは、向こう5年間の中期予測のなかで、今の受託開発はサービス提供型へと主軸が移り、開発人員を大量に投入してソフトを開発する労働集約型のモデルは、コンサルティングや効率的な運用など知識集約型へと変わると指摘。競争環境はドメスティック中心からグローバルへと領域が拡大。業界構造も今の“多重下請け階層構造”から(1)プライムコントラクター(2)水平分業パートナー(3)ニッチ市場のトップベンダーの三極に分化すると予測する。
図2の「サービス・独自プロダクトと経営規模を軸としたSIerのポジショニングマップ」では、サービス・独自プロダクト指向か、受託ソフト・ハード販売指向かを縦軸で示し、年商規模を横軸で示した。NTTデータは、受託ソフト開発を相対的に減らして、サービスや独自ソフトを大幅に増やす方針を示していることから、サービス・独自プロダクト指向のSIerであると位置づけた。ITホールディングスなど大手SIerも軒並みサービス・独自ソフトプロダクトを指向していることから、全体としては図の右上に向かって成長していく流れが見えてきた。
主要SIerにみる戦略
サービス化、独自ソフトに力点
こぞって投資拡大
サービス化、独自ソフトプロダクトは、SIerが伸びていくうえで共通したテーマである。主要SIerはこぞってこの分野への投資を拡大している。不況明けに再び成長路線に乗せられるかどうかは、サービス化や独自ソフトプロダクトをどれだけ仕込めるかになかかっているといっても過言ではない。各社の取り組みを追った。
サービス化への動き クラウド・コンピューティングやSaaSなどのサービス化は、開発系SIerがもともと得意としてきたデータセンター(DC)運用のノウハウを生かしやすい分野だ。DCを得意とするSIerは、経営環境が厳しいなかでも投資を拡大し、サービス化への対応を急ぐ。
新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は、TCO(ITにかかる総所有コスト)20%以上の削減を掲げ、クラウドDCサービスの「absonne(アブソンヌ)」を業界に先駆けて開発した。同社のabsonneを含むクラウド関連サービスの売上高は、昨年度(09年3月期)は約20億円だったが、今年度は「前年度比2倍の40億円を目指す」(NSSOLの北川三雄社長)と、鼻息が荒い。
ITホールディングス(ITHD)はグリーンITやクラウド技術を全面的に採用した関西の心斎橋DCを5月1日に大幅拡張したのに続き、2011年4月をめどに東京の御殿山DCを竣工する。開業5年後には年間100億円の売り上げを目指すという御殿山DCを含めると、グループ全体のDC数は国内19拠点になる。中国にDCを開設する予定もあり、12年3月期までにはグループのDC延床総面積を12万6000m2へと拡張(直近は同9万m2)。国内SIerで「最大級のデータセンター保有規模」(ITHDの岡本晋社長)になる見込みだ。
日立ソフトウェアエンジニアリングは、システム開発偏重を改め、サービスと独自ソフトプロダクトの「三本柱を確立させる」(小野功社長)とし、2012年3月期にはサービスとプロダクトで利益の50%を稼ぐ方針を示す。当初は11年3月期までの達成を目指していたが、不況の煽りで1年先延ばしになった。だが、改革の目標は変えていない。
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