独自ソフトプロダクト 独自ソフトプロダクトでは、販売系SIerのJBCCホールディングスが老舗の生産管理ソフト開発のリード・レックスをグループ化することを5月に発表。JBCCは販売管理系の品揃えは充実しているが、生産管理系が手薄だったため、M&Aにより独自ソフトプロダクトを強化する。同じく販売系SIerの富士通ビジネスシステム(FJB)は富士通の完全子会社化の道を選んだ。これにより上場廃止にはなるが、富士通と一体的な運用が可能になることで、本体が持つ豊富なソフトプロダクトを扱いやすくなる可能性がある。
NTTデータは、開発を手がける独自の中堅・準大手向けERP「Biz∫(ビズインテグラル)」の事業会社を設立する。生産管理に強い東洋ビジネスエンジニアリングや帳票に強いウイングアークテクノロジーズ、管理部門系業務システムに強いアイテックスなど外部のパートナーや自社グループ会社など5社と協業。これまで中堅・準大手に向けたERPパッケージの品揃えが弱かったところを補完するのが狙いだ。
不況による自動車や電機業界の不振の煽りで大打撃を受けつつある組み込みソフトを得意とするSIerも独自プロダクトづくりに必死だ。富士ソフトは、携帯電話や地デジ対応テレビ向けの組み込みソフト開発で培ったノウハウをパッケージ化し、国内外で拡販する動きを強める。デジタル化が進む世界の放送規格に対応し、「グローバル市場への展開」(白石晴久社長)を視野に入れる。
コアも超高感度GPSチップの知財の販売や地デジ対応のテロップ挿入用のアプライアンス製品などに手応えを感じている。電子テロップは大型案件の受注で昨年度(09年3月期)は前年度比15%伸びた。
勝ち残りのポイント 有力SIerの経営戦略を俯瞰すると、顧客企業の要求仕様に沿ってソフトを開発する旧来型の受託ソフト開発から必死で距離を置こうとするSIerの姿が浮かび上がってくる。高感度GPSチップや電子テロップシステムなど組み込みソフトの強みを存分に生かした独自プロダクトを早くから手がけてきたコアでさえ、今期(10年3月期)の売上高は2割減の極めて厳しい見込みを示す。ハードウェアなどの他社製品の販売比率が大きいSIerも、不況の直撃を受ける。今期、減収減益の見通しのSIerも少なくなく、外部環境の変化に脆い側面が露わになった。
競争力の高いサービスや独自ソフトプロダクト事業を持てば外部環境に左右されにくくなるということは、SIer自身が今回の不況で改めて痛感した点である。受託ソフト開発の比重やハード販売比率が大きいSIerは、独自のサービス・プロダクトを揃えて提案型のモデルへの変革が急務。こうしたビジネスモデルを変えたSIerが伸び、そうでないSIerはビジネスを伸ばしにくい。受け身ではなく、自らが主体となった攻めのビジネスを展開できるかどうかが、今後、ビジネスを伸ばす重要な分岐点になる。
主要SIerの決算状況一覧
予想通り“減収減益の嵐”
体制立て直しのチャンス
上表では、主要SIerのポジションを俯瞰できるよう売上高順に並べた。厳しい不況の影響を受け、今年度(2010年3月期)の主要SIerの業績は“減収減益の嵐”が吹き荒れる見込み。そのなかで、業界トップのNTTデータは昨年度(09年3月期)、M&Aによる連結子会社の拡大の効果もあって増収増益を達成。今期もこの押し上げ効果で増収の見込みを示すものの、営業利益はユーザー企業からのコスト削減要求の強まりや競争激化で前年度比8.7%減を予想する。
昨年度、過去最高の連結売上高、営業・経常利益を出した日立情報システムズも、今期はさすがに減収減益の見通し。日立ソフトウェアエンジニアリングや日立システムアンドサービスも同じく減収減益の予想を示す。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)はハードウェア販売の落ち込みが響いて、昨年度に続いて、今期も減収減益に甘んじる見込みだ。ハード販売比率が大きいJBCCホールディングスも今期、利益面での苦戦を予想する。経済危機の震源地とも言える証券業界の顧客が多い野村総合研究所(NRI)は、今期減益の見通し。ここ数年好調だったNRIも、金融激震の震源地に近すぎたために影響は免れないようだ。
仕事量が減った今期こそ体制の立て直しのチャンス。事業改革やM&A、独自プロダクトの開発といった戦略投資を推進するSIerが増えると予想される。