[ディストリビュータの動き]
PCリプレースを促進できる
09年度から販売を本格化
海外メーカーの法人市場参入への意欲的な姿勢を受け、ディストリビュータが販売に本腰を入れ始めた。
「近年、稀にみる商材」。今年5月末、販売パートナー向けに開いたネットブックの法人展開フォーラムで、丸紅インフォテックの天野貞夫社長はネットブックをこう評価した。同社は昨年、コンシューマ向けネットブックの販売が全社売上高の約1割を占めるほど好調に推移。不況で落ち込んだ法人需要を補って業績に大きく寄与した。そこで、目をつけたのが法人への販売。企業への導入にはセキュリティの問題がある。これを解決するためにメーカーと協業し、シンクライアントなど法人専門にPCをカスタマイズする。なかでも、アスースブランドは「利益率が高い」(関係者)ことから積極的に拡販していく。UMPC(ウルトラ モバイルPC=ネットブック)の販売を専門に扱う新組織「UMPC推進室」を今年1月に創設し、本格的に活動している。
ダイワボウ情報システムは、「法人へのネットブック販売は通信がキーになる」(猪狩司・販売推進本部販売推進部長兼マーケティング部長)とみている。同社は幅広いメーカーのネットブックを扱っているが、それらのメーカーと組み、社内ネットワークへのアクセスなどが可能でセキュリティが確保できる「Windows XP Pro」を搭載した機種を企画している。「Windows XP Home Edition」モデルでも、VPN(仮想私設網)などセキュリティが高い通信ネットワークと組み合わせることで安全性の高いシステム構築に力を注ぐほか、シンクライアント端末としての販売も視野に入れる。
また、ネットブックとWiMAXを組み合わせたモバイル関連の製品・サービス提供も進める。同時に、営業部員の情報端末やSaaSを使ったウェブ会議システムなど、具体的な用途提案で需要を掘り起こしていく。
一方、ソフトバンクBBはこれから法人販売に取り組む方針。ソフト販売が主力の同社では、ネットブックと仮想化を組み合わせたシステムでの提供を想定している。
[販売系SIerの動き]
現段階は様子見。今後に期待
モバイル依存少ない
大塚商会では、08年7月~今年5月までの11か月間、ビジネス・パートナー(BP)の販売店経由と、直販などで法人向けに販売した実売5万円以下のノートPCのうちネットブックの占める割合が1%程度にしか過ぎなかった。ほとんどは、「指名買い」の模様だ。理由について、BP担当の鈴木直樹・企画販促課商品企画グループ課長代理は、「企業では、思ったほどモバイルに依存していない」と、ネットブックの需要が高まる条件がまだ整っていないと指摘している。
同社は、ネットブックが企業で利用される条件の一つとして、クラウド・サービスなどウェブシステムが浸透することを挙げる。実際、ウェブシステムを導入した大手保険会社に低価格のノートPCを大量に納入した実績がある。
クラウド環境になれば、スマートフォンと同じように企業利用に拍車がかかり、「ウェブブラウジングだけの利用が広がれば、ネットブックは伸びる」(鈴木課長代理)とみる。
現在、家電量販店の販売台数シェアで上位を占めるアスースやエイサーなど台湾メーカーのネットブックには、セキュリティの確保や故障発生時のサポートを充実させることが求められる。ユーザーに対し、安心して利用できる環境が整っているということを納得させる必要があるわけだ。
さらに、大塚商会のBPにとっては、ネットブックが低価格なのがネックになっている。ただでさえ、PC販売は粗利率が低く、商売になりにくい状況にある。今以上に安価なPCが大量に出回れば、ビジネスとしての“旨味”がなくなるというわけだ。
ただ、BPが得意とする「Windows」領域で新OSの「Windows7」がネットブックに搭載できるのであれば、ウェブシステムと一緒に提案するなど販売機会が増えると期待している。「例えば、軽いパソコンのニーズがある大学などに、こうした案件が出てくる可能性はある」(鈴木課長代理)と、市場の動向を見据えながらネットブックの販売展開を検討する考えだ。
意気込む「ディストリビュータ」
台湾勢は体制整備 [セキュリティベンダーの動き]
セキュリティの甘さを解決
モバイル環境をセキュアに
営業担当者が外出先でクライアント端末を利用するなど、「モバイルワーカー」が増えてきている。「景気低迷で企業の収益力が落ちているからこそ、コストパフォーマンスの高いネットブックを積極的に使っていくべき」と、マカフィーの葛原卓造・コンシューママーケティング部プロダクトマーケティング担当部長は提案する。
外出先での利用は、社内ネットワークから切り離されているので、セキュリティ確保の点から、どんな使い方が適しているのかを考える必要がある。企業内の機密情報がネットワークやUSB経由で漏えいするリスクが高いからだ。「時代の流れで、端末側で大きなアプリケーションを走らせない傾向がある」(葛原部長)。そこで、大手ディストリビュータなどはネットブックを法人に販売する際、シンクライアント化を前面に打ち出して提案していこうとしている。端末側ではアプリケーションを持てないため、使い方は制限されるものの、セキュアな環境が実現できる。ユーザー企業にとっては、従来型のシンクライアント端末を購入するよりもコスト削減効果があるわけだ。一方、ネットブックを通常のモバイル端末として利用する場合には、「ウイルス対策をはじめ、PC暗号化や接続するUSBの制限など、情報漏えい対策や検疫ネットワーク製品の導入といったエンドポイントのセキュリティが必要となる」(葛原部長)と指摘する。
もともと、ネットブックのアプリケーション利用は、性能面で制限されていることから、インターネット上からアプリケーションを利用する「インザクラウド」の需要も増加するとみている。
同社は、ウイルス対策製品に加え、社内のサーバーに導入する情報漏えい対策やSaaS型の統合セキュリティである「McAfee Total Protection Service」を提供することで、ネットブックの需要を掘り起こすことができると判断している。
このほど買収したセキュリティベンダー、米ソリッドコアシステムズのホワイトリスト技術を使えば、アプリケーションの制限もできる。ユーザー企業の持ち出しPCに対するスタンスに応じて、柔軟に対応できる製品・サービスを揃えている。
[台湾大手PCメーカーの動き]
“5万円パソコン”を法人市場に
認知度高まり勢いづく
台湾大手PCメーカーが、法人向けのノートPC市場を虎視眈々と狙っている。台湾メーカーは“5万円パソコン”と呼ばれるネットブックの市場をリードし、ここ1年でブランド認知度は大きく向上した。これまでは国内での販売量の大半を個人向けが占めたが、今後は「認知度が高まってきたことから、法人向けの取り組みも強化する」(アスース・ジャパン)と、意欲を示す。
アスース・ジャパンでは、ユーザー企業の約3割がネットブックの購入を検討している、と分析。国内法人マーケットにおけるネットブックの潜在市場は、「年間50~60万台ほどある」(同社)とみる。モバイルデータ通信事業者などと組み、ネットブックの最大の特徴であるネットへの安定的な接続をモバイル環境で実現することで、普及を推し進めていく方針だ。例えば、フランスでは現地の大手モバイル系通信キャリアが、昨年末までに約3億円を投じてアスース製ネットブックの広告を展開。このときは個人向けがメインだったが、通信キャリアと共同戦線を張ることで、一気に同国での知名度を高めた。
法人向けのネットブック販売に力を入れる台湾PCメーカーは、日本国内でも通信事業者のイー・モバイルやソフトバンクモバイルなどと連携を強めることで拡販に弾みをつける戦略を推進するものとみられる。
国内では個人向けPC市場を主戦場としてきた日本エイサーの詹國良(ボブ・セン)社長は、「向こう1年程度をめどに、法人向けの販売体制を整備する」と、着々と準備を進める。台湾アスーステックコンピュータは、「3年以内をめどに世界のパソコン市場で上位3社に入る」(台湾本社の沈振来社長)目標を掲げており、このためには法人向けの需要を積極的に開拓していく必要がある。
ネットブックのヒットで勢いづいた台湾勢は、ブランド認知度の高まりと、急速に整備が進むモバイルインターネットを武器に、法人市場に打って出る構えだ。