国内プリンタ市場は、好況・不況の波とは関わりなく、2003年頃をピークに成長率が前年割れを続けている。低迷一途の傾向を辿るのは、IT業界では珍しいケースだ。ところが最近、「好転の兆し」が現れてきている。このまま軌道に乗り、「復活の日」を迎えることができるのか。メーカーやディストリビュータなど「売り手」に市場認識を聞き、今後のプリンタ市場を展望する。
1 プリンタ市場・最近の傾向
直近3~6月期は
「好転」の兆し
調査会社IDC Japanによると、2008年7~9月期の国内企業向けレーザープリンタ出荷台数は、前年同期比8.9%減となった。国内ページプリンタ市場は、03年第4四半期(03年10~12月)をピークに前年対比を割り込み続け、09年3月頃までは「リーマン・ショック」以降の経済悪化も重なり、減少幅がさらに大きくなっていると予測できる。
「バブル景気崩壊後」から回復基調にあった03年当時のページプリンタは、印刷速度や印刷画質、後工程の簡便さなど開発競争を繰り広げ、技術上の黎明期にあった。この時期には、「他社製品よりも高機能」を訴えることがユーザー企業の購入意欲を刺激することにつながり、リプレース・新規導入ともに伸びを示していた。しかし、ここ数年で企業内でプリンタ台数が過多になり、需要が一巡したといわれる。景気悪化に伴い、プリンタがコスト削減の“標的”にされ、新機種を導入するのはもとより、印刷枚数も大幅に制限する企業が増えてきた。
ところが、今年3~6月には再び「伸びる兆し」が見え始めているのだ。7月中に取材をしたメーカー各社やディストリビュータ、SIerでは、全体の金額では前年同期を下回るものの、販売台数は増加に転じているという市場認識が大勢を占めている。
メーカー各社は異口同音にコスト削減や環境配慮を訴求しているが、「これがずばり、ユーザー企業の購入意欲を刺激している」(ダイワボウ情報システムの猪狩司・販売推進部長兼マーケティング部長)という。コスト削減・環境配慮は「デフォルト」で提案し、これに機能やサービスなどを付加する効果が徐々に現れてきているようなのだ。“黙っていても「売れる」時代”は終わり、メーカーが知恵を絞り始めたことで、好転の兆しがみえてきたのだろう。
大塚商会、ダイワボウ情報システム、丸紅インフォテックなど、売り手側の認識で共通しているのは、「A4カラー機」が“売れ筋”になっているということだ。大塚商会のここ数か月の出荷量は、前年同期に比べ120%と、他の領域に比べて伸びが突出している。
大塚商会で商品物流を担当する本多豊・執行役員は「社内のプリンタを集約する傾向にあり、リプレースに際して省スペースでランニングコストが低いA4機が求められている」と、傾向を語る。ダイワボウ情報システムの猪狩部長も、「A4カラーのシングル機と複合機がよりコンパクトになれば、需要拡大の可能性がある」と、今後の盛り上がりを否定しない。一方、リコーとコニカミノルタ製品を中心に仕入・卸を行う丸紅インフォテックは、「供給過剰傾向が強く、買い増し導入は望めない」(鳥羽裕之・MD1部ハードウェア2課長)と、売り方に工夫をこらす必要性を説く。
また、ページプリンタ需要が上昇傾向になっている理由として、「大型案件が戻り始めた」ことを挙げるメーカー担当者が増えた。キヤノンマーケティングジャパンは、大手小売業のプリンタを一括受注し、ダイワボウ情報システムでも自治体の大型案件で潤ったようだ。
急激な成長は望めないものの、「好転の兆し」が随所にみられ、医療や小売業など新規プリントボリュームも開拓されつつある。03年当時と同様の伸びは難しいが、景気回復と同一歩調でプリンタ市場の「復活」があってもおかしくはない。
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