3 地道戦略
特殊用紙検証は必須
筐体改良も
「コスト削減・環境配慮」策は、景気低迷期の時限的な訴求効果にとどまる可能性がある。このため各メーカーでは、プリンタ周辺に関係する地道なサービスを強化している。ここにきて官公庁・自治体を中心に、用途別の特殊紙で印刷するケースが増え、プリンタの用紙対応力を検証するサービスが導入前サービスとして欠かせなくなっている。
リコーでは「RUSPセンター(検証センター)」と呼ぶ施設での「導入前出力検証プログラム」を拡充している。特殊用紙とは、剥離(ラベル)紙や穴空き用紙・厚紙など業務で使用する専用紙である。宮崎章二・プリンタ販売計画室長は「当社のプリンタがユーザーで使う特殊用紙に対応するかどうかを事前検証する。官庁・自治体、医療の薬袋・レセプト印刷などで要望が増えている」と説明する。紙を出力することが定常化している業種や公的機関に対して、検証サービスが必須となっているのだ。
キヤノンMJも検証サービスの必要性を説く。松永圭司・ページプリンタ販売企画課長は、リコーが挙げる業種以外に「当社が強みとする金融に加え、流通、文教、製造業などで検証は欠かせない。また、プリンタ筐体自体のカスタマイズを行う場合もある」と、パートナーから挙がってくるこうした案件に細かく対応しているという。
顧客ニーズに適合させる取り組みは、特殊用紙の対応策に限らない。最近では、次の項で示す業種展開ともリンクして筐体自体を特定業種向けに改良する動きが活発化している。エプソン販売は、平野精一社長が就任時から「アダプテーション(適合)」という言葉を提唱している。グループ会社のセイコーエプソンがもつインクジェットなどの先端技術力を生かし、業種特化のプリンタを編み出している。
エプソン販売が新参入した「デュプリケータ(CD/DVD複製装置)」はその一つ。「医療機関でニーズが高まっている」(宮西徳郎・プロダクトマーケティング部長)と話す。このほか、医療機関向けで検査時の検体ラベル用のインクジェット・ラベルプリンタや、薬情・薬袋印刷用のA4カラーインクジェットプリンタを提案している。こうした業種向けには「プロジェクタなどの他製品と組み合わせたソリューションを模索したい」(同)と、アダプテーション活動を加速させる計画だ。
カシオ計算機が実施している「Wエコ」で提案しているLED(発光ダイオード)プリンタの改良も、同じことだ。対象は一般オフィスになるが、カラーシングルのLEDプリンタに自社開発部隊が「エコ機能」や「トナーセーブモード」などをボタン一つで簡単に設定できる機能を搭載した。
このほかでは、小売店などがポスターなどPOPを内製で印刷する用途が増えているため、エプソン販売はこの市場に向けたページプリンタ高速機を発売した。同社によると、POP市場は約6000台。ブランドオーナーと呼ぶ、多店舗展開する小売企業に売り込み、POP内製化の波に乗ろうとしている。
プリンタ業界が地道な戦略を展開する要因となったのは、プリンタ販売台数の恒常的な低迷にある。「何とかしなければ」の意識が強く、そこからこのようなアイデアが出てきたものといえそうだ。
4 新規戦略
医療機関の
非ドキュメント狙い目
富士ゼロックスは7月中旬、東京ビッグサイトで開催された「国際モダンホスピタルショウ2009」に、大阪大学医学部附属病院医療情報部の武田裕教授が提唱する「DACS(医療ドキュメント保管通信システム)」に準拠した「診療記録統合管理システム」を参考出品した。同社が昨年当初に新設した「医療情報開発推進室」の畑仲俊彦室長は「特許の固まりの独自システムで他社に先行している」と、新たな需要ゾーンとして期待する。
病院では、電子カルテなどペーパーレス環境下で病院情報システムを構築し、管理する必要性が高まっている。ところが、診療現場には、患者が初診時に記す問診票や手術同意書、診療録など5年以上の原本保存期間が規定されているドキュメントが溢れている。この非デジタル・ドキュメントを対象にした「サブ・システムが必須になる」と、大阪大学の武田教授は説いている。富士ゼロックスは、基幹帳票印刷の強みを生かして医療機関に同システムで入り込む機会を狙う。
畑仲室長は「診断記録などは、医師が診断ごとに個別に記載する。それをすぐにスキャンして登録することで非デジタル部分を管理できる」と話す。同システムが基幹システムに採用されれば、診療室や受付などにスキャナ搭載のシングル機が大量導入される可能性があるわけだ。
景気低迷によるコスト削減の波が襲うなかで、一般オフィスにこれ以上のプリンタ出力の増加を求めるのは難しくなっている。このため、富士ゼロックスのように、医療機関など特定用途で「新たな需要ゾーン」を探す作業が、どのプリンタメーカーでも活発化しているのだ。
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