立ち上がる「肯定派」
メーカー
セキュリティ機能向上が目玉
「Vista」スキップ組がターゲット
英セキュリティベンダーであるソフォスの牛込秀樹営業企画本部長は、まず、前OSの「Vista」の市場展開について「消費リソースと安定性の両面から、企業では積極的な採用がなかったのが実際のところ」と振り返る。「Vista」の採用が進まないなかで、「前バージョンの『Windows2000』『XP』のライフサイクルと減価償却を意識しなければならない企業は、『Windows 7』に期待している」(牛込本部長)とみる。「Windows 7」は、前OSに比べてセキュリティ機能が大幅に向上した。ユーザー企業が期待する性能と安定性が早期検証などで確認できれば、急速に立ち上がるだろうと予測する。
万が一「Windows 7」が立ち上がらない可能性については、「企業はコンプライアンス(法令遵守)、事業継続計画などに非常にナーバスになっている。現在安定稼働しているシステムを切り替えるには、内的・外的のプッシュ要因が必要」(牛込本部長)という。従来のOS同様、発売当初の「Windows 7」で安定性に問題が出てくれば、ユーザー企業は危惧するだろう。サービスパック(SP)版の提供まで、導入を控える可能性もある。しかしソフォスでは、多くのユーザー企業が段階的に「Windows 7」の導入を開始すると想定している。「さまざまなOS環境を『シングルソリューション』『シングルライセンス』『シングルアーキテクチャ』で保護することで、企業でのOS移行にかかるコストを低減できる提案を進める」(牛込本部長)と、OS移行をセキュアで安価にすることで「Windows 7」の利用を増やそうと考えている。
セキュリティ開発ベンダーのエフセキュアは、マルウェア対策製品「エフセキュア インターネット セキュリティ 2010」を「Windows 7」での動作を前提に開発した。日本で未発売の「エフセキュア オンラインバックアップ」も「Windows 7」上で動作する仕様にして、このOS移行期を商機にしようとの構えだ。
業務ソフト大手のピー・シー・エー(PCA)は、「Windows 7」の発売を機に、既存ユーザーの同社会計ソフトなどのバージョンアップを仕掛ける。PCA、販社、サーバーメーカーが三位一体となって連携し、ソフトウェアとハードウェアなどをキッティングしたソリューションをつくり、キャンペーンを行って売り込むという。金子隆太郎・戦略企画部長は「『Vista』で入れ替えず、『XP』やそれ以前のバージョンを使っているユーザー企業は多い。買い替えの煩わしさやシステム検証の手間を省けば、乗り換えを促進できる」と、「XP」の時ほどではないが、「Windows 7」需要に期待する。
立ち上がりにくい「慎重派」
SIer
コスト削減がカギ
仮想化で課題解決型に
「Vista」で商機を期待し、早い段階で落胆の憂き目をみてきたSIerの「Windows 7」への反応は二分される。SIerの目下の関心事は、年度末商戦に向けた受注拡大と来年度の予算獲得。ITインフラ案件の受注増でポイントになるのは、コスト削減にどれだけ貢献するかだ。あるSIer幹部は「『Windows 7』でどれだけコスト削減できるのかを明確にする必要がある」と指摘する。クライアントOSの「新バージョンが出た」という大義名分だけで、コスト削減効果がどれほど得られるか明確でなければ、厳しい状況に陥る可能性があるからだ。
多くの企業ユーザーが使用する2世代前の「Windows XP」のサポート最終期限は2014年。そこに至るまでの過程でも、基幹システムを支える業務アプリケーションソフトとの互換性から「Windows 7」に移行せず、一世代前の「Windows Vista」への乗り換えが本格化するとの見方も一部にはある。
そこでSIerが注目しているのは、クライアントOSの混在化で生じるユーザー企業の管理コストの増大だ。ユーザー企業が抱える課題を解決することが、「新たなビジネスチャンスにつながる」(別のSIer幹部)と、課題解決型のソフトやサービスの開発に力を入れる。その有力な解決方法と目されているのが、デスクトップの仮想化による“脱クラサバ”だ。
高コストで非効率なレガシーシステムと化しているクライアント/サーバー(C/S、クラサバ)型を、仮想化技術によって改善することでコストを削減。結果的に「Windows 7」が売れやすい環境をつくるというものだ。
JBCCホールディングスグループで製品開発を担当するJBアドバンスト・テクノロジーは、シンクライアント方式によってクライアントをサーバー側に集約。さらにプリンタのドライバソフトを仮想化し、プリンタの種別ごとにドライバーをクライアントにインストールする手間を省く仕組みをつくった。パソコンには1種類の汎用プリンタドライバを導入するだけで、複数のプリンタへの出力が可能になる。シンクライアントで障壁になりやすい「プリンタ周りを率先して解決する」(JBアドバンスト・テクノロジーの石川匡幸・製品推進部長)ことで、「Windows 7」の拡販につなげる。
Windows OSは、「XP」「Vista」「Windows 7」の3種類に加え、32ビットと64ビット版の違いもある。メジャーなパッケージソフトなら、OSのバージョンやビット数のハードルは超えられる。しかし、ユーザー企業が個別に開発した業務アプリケーションやデバイスドライバソフトにとっては、こうした混在環境のハードルは高い。
そこで、デスクトップの仮想化に力を入れるソフト開発ベンダーのヴイエムウェアは、OSやアプリケーションを仮想化することでOSの違いを吸収する手法を提示した。サーバーを仮想化することでハードウェアの制約を取り払ったのと同じ手法を適用し、クライアント側のOSや業務アプリケーションの「ライフサイクルを最適化する」(篠原克志・マーケティング本部長)というアプローチだ。OSのバージョンアップにITインフラのライフサイクルを合わせるのではなく、ユーザー企業の経営戦略に沿ったIT投資を引き出すことで受注増につながると考える。
シンクライアント化によるシステム統合やデスクトップの仮想化によって、“脱クラサバ”を実現。クライアント端末の管理コストを削減する流れに、どのように「Windows 7」を組み込んでいくかが、新OSの売れ行きを大きく左右しそうだ。
立ち上がりにくい「慎重派」
SIer/NIer
パソコンはメインにあらず
低いままの「投資意欲」
サーバーやパソコンに加え、ネットワークインフラを含めた構築を手がけるインテグレータは、「Windows 7」の登場による自社ビジネスへの影響を慎重にみている。クライアント端末の販売は、ソリューション販売のなかの「オマケに過ぎない」(某SIer幹部)と判断しているためだ。ただ、インフラやネットワークなどをリプレースする際、「ついでにパソコンを購入する」ケースが増えてくることを予測し、ユーザー企業からの要望には的確に対応する構えだ。
日本事務器では、パソコン導入を前面に押し出したシステム提案を進めるケースがほとんどない。案件の見積作成や製品間の技術検証などを主要業務とする技術本部ITサービス部の見積センターでは、「パソコンを中心とした案件は少なくなっている状況」(堀博リーダー)と打ち明ける。いまは、サーバーやストレージなどのリプレース案件が主で、特に仮想化をベースにした製品・サービスのニーズが高まっているという。
NIerのシーティーシー・エスピー(CTCSP)も、「ユーザー企業のクライアント端末に対する投資意欲は低い」(渡辺裕介・企画本部営業推進部長)と、同社の販売代理店がユーザー企業から得た感触を語った。クライアント端末云々でなく、それ以前に販社が求めているのは、「システム提案の簡便性」だという。そこで同社は、テクニカルサービスを含めたシステム構築をパッケージ化。ユーザー企業が予算に応じてメニューから選択して購入できるようにした。第一弾として、ストレージ関連でメニュー化。このなかに、「Windows 7」へのリプレースなどを見越したクライアント端末ベースの内容は見当たらない。
CTCSPの渡辺部長は「ユーザー企業の要望を聞くと、クライアント端末を入れ替えるというよりも、サーバーの仮想化環境に興味が広がっている。つまり、コスト削減への要望が多い。将来はクライアント端末でも仮想化が主流になる」と、シンクライアント環境が台頭すると予測する。
「Windows 7」は、「Vista」と比べれば、法人市場での需要の掘り起こしにつながる可能性が高いだろう。しかし、「不況の影響で急速な立ち上がりはない」というのがインテグレータの共通見解だ。大半はインフラ構築を提案する際、「ついでに」新OSへのリプレースを促すスタンスのようだ。