環境対策とコスト削減を実現する「グリーンIT」に注目が集まり始めている。「世界的な環境対策意思の高まりで、IT業界でも2008年から本格的に立ち上がり始めた」(堀ノ内力・NEC環境推進部統括マネージャー)市場である。昨年の景気低迷で需要が一時足踏みしたが、鳩山由紀夫首相の温室効果ガスを2020年までに90年比で25%削減する中期目標の表明で産業界では環境対応の取り組みが加速する見込みで追い風が吹こうとしている。はたして「環境特需」はベンダーに訪れるのか?「グリーンIT」を巡るメーカー、SIer、ディストリビュータなど各社の戦略を追った。
グリーンITとは? 環境負荷の低減に貢献するIT製品やサービスなどを指す。一般的には「環境負荷低減に貢献する製品」と「ITを活用し温室効果ガスなどを削減する取り組み」がある。
製品では省電力化やリサイクル性を高めたPCやサーバー、電源管理やプリンタのインクを節約するソフトウェアなどの製品がグリーンITにあたる。
一方、環境対策の取り組みでは、企業などがIT機器を利用し、生産や物流などの業務効率を向上。CO2などの削減に貢献することをいう。
グリーンITは06年頃から米国で盛んに言われ始め、これまでは主にデータセンター(DC)やマシンルームを対象に省電力や低発熱型のIT機器の導入、仮想化技術によるサーバーやストレージの統合による利用効率の向上、消費電力の削減、空調システムの改善などが行われてきた。
しかし、環境負荷の取り組みはコスト削減にもつながることから、現在では幅広い企業や分野で導入の動きが広がりをみせている。


メーカーの戦略
効果の“見える化”で案件獲得 NECは、省電力のサーバーやクライアントPC、オフィスでのPCの使用電力を監視するソフトウェア、これらの製品を組み合わせたソリューションをグリーンIT商材として展開している。
NECがユーザーに対してアピールするのは、グリーンITによる効果の“見える化”だ。省電力製品を自社で認定する独自制度「エコシンボルスター」を創設。05年度の製品と比較して54%の省電力や50%の省スペース化などを実現した「Express5800」などへのロゴ付けで訴求している。また、従来のモデルと比較したデータモデルを提示し、営業担当者が売り込みのツールとして利用する取り組みも始めている。
“見える化”に関する目玉の一つが、09年中に発売予定のソフトウェア「省エネオフィスソリューション/エコナビPC(仮称)」だ。これは、オフィスにあるPCの消費電力量を自動的にモニタリングして数値をユーザーに表示し、自発的な省エネ行動を促すほか、ユーザーによって異なるPCの利用パターンを学習し、自律的に電力消費をコントロールする。
「電気使用量がひと目で分かり、コスト削減の意識を高められる当社だけの製品」と、堀ノ内力・環境推進部統括マネージャーは強調する。
.jpg?v=)
NEC 堀ノ内力・環境推進部 統括マネージャー
NECでは、昨年の景気低迷の影響もあり、大手・中小を問わずグリーンITの環境面での切り口からはまだ企業に訴求できないことから、「電力コスト削減」をキーワードに需要の開拓を進めている。現状では「金融機関からの引き合いが多い」(堀ノ内マネージャー)という。実際、ソリューションでは三井住友銀行に営業店用の端末と保守サービスを導入した実績がある。
NECでは、企業向けのグリーンIT需要は依然厳しいが、政府の方針などを受け、交通などの社会インフラでの需要が伸びると期待する。
ただ、法人需要についても「新政権の目標が追い風になり、企業の取り組みが加速する。この1年くらいで需要は高まるだろう。『環境』でユーザーに訴求する重要性を営業も理解しており、そうなった時のチャンスをものにできる態勢は出来上がりつつある」(堀ノ内マネージャー)と話す。
ソリューション数と評価で訴求 富士通もグリーンITビジネスで、省電力のサーバーやクライアントPCのハードと、省エネIT機器やソフトサービス、ミドルウェアを使ったソリューションを販売する。
同社が強みとするのは、160というソリューションの種類だ。例えば物流向けにはGPS衛星と運行データを管理し、配送トラックなど商用車の運行管理を支援することで環境対策につなげるソリューション、医療では電子カルテでペーパーレスを実現してコストと温室効果ガスを削減するソリューションを販売する。
そのほかにもデータセンター(DC)やオフィス、家庭、学校、金融機関、自治体など向けにグリーンITソリューションを提供。朽網道徳・環境本部環境企画統括部長は「これほどの事例をもっているベンダーはほかにない」と胸を張る。

富士通 朽網道徳・環境本部 環境企画統括部長
04年からは個々のソリューションを定期的に評価する仕組みを構築し、環境貢献ソリューションを公表。自社製品のアピールを積極的に行っている。
富士通では、展開するソリューションの種類が多様なこともあり、幅広い業界をターゲットに売り込みを図っている。これまでグリーンITは売り上げには結びつかない状況があったが、最近は風向きが変わってきたといい、運輸業界など「いち早く環境対応に動き出した企業から除々に案件が入り始めている」(朽網統括部長)と手応えを感じている。
[次のページ]