サービスメニュー整う
販路形成で売り上げ増へ
SIerやISVとの協業も推進
SI業界最大手のNTTデータは、クラウド型サービスに必要なミドルウェアやサービスメニューを体系化した「BizCloud(ビズクラウド)」事業を2010年4月から本格的に始める。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、デスクトップの仮想化領域で他社をリードする。新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は、SIerやISVがもつ業種・業務アプリケーションを自らのクラウド基盤「absonne(アブソンヌ)」に取り込み、新たな販路形成に力を入れる。
クラウドメニューの充実図る  |
NTTデータ 山田伸一常務(左)と神田文男執行役員 |
NTTデータの「BizCloud」は、ハードウェア基盤となるデータセンター(DC)や運用管理系のミドルウェア、アプリケーションの開発基盤、ERP(統合基幹業務システム)などの業務アプリケーション、ポータル画面など、「企業向けクラウド型サービスに必要なモジュールを網羅したメニュー体系」(NTTデータの山田伸一常務)と、自信を示す。
ユーザー企業がクラウド設備を所有する「プライベート・クラウド」、業界共有型の「コミュニティ・クラウド」、仮想的なプライベート・クラウドの「バーチャルプライベート・クラウド」などに対応。さらに、中堅企業向けに独自に開発するERP「Biz∫(ビズインテグラル)」といった、今後、SIerのクラウドビジネスで有望視される顧客対象や業務アプリケーション領域も、しっかりと「サービスの中核部分に組み込む」(NTTデータの神田文男執行役員)という戦略をとる。
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伊藤忠テクノソリューションズ 宮脇茂雄チーム長 |
中堅向けERPと並んで有望視されるデスクトップの仮想化では、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が力を入れている。同社は、自社DCで所有するパソコンOSやアプリケーションソフトを顧客に貸し出す「DaaSの事業化を視野に入れる」(CTCの宮脇茂雄・サービスビジネス推進チーム長)と話す。運用コストが割高な従来のクライアント/サーバー(クラサバ)型を置き換えるクラウド型サービスとして売り出す構えだ。NTTデータもこの分野で先行するシトリックス・システムズ・ジャパンと今年2月22日に協業を発表。シトリックスのデスクトップ仮想化「XenDesktop(ゼンデスクトップ)」に関する認定技術者の養成や検証センターの解説などを通じて、同分野における国内トップベンダーを目指すとしている。
売り方の模索も始まる  |
新日鉄ソリューションズ 早瀬久雄部長(右)と山本拓主任 |
クラウド型サービス商材の売り方の模索も始まっている。SIer自らの直販だけでなく、特定の業種・業務アプリケーションに強いSIerやISV(ソフト開発ベンダー)との協業によって、新たな商流をつくりだそうとする動きが出始めた。新日鉄ソリューションズ(NSSOL)は、自社で構築・所有するクラウド基盤サービス基盤「absonne(アブソンヌ)」を割安で提供するサービスを、この2月に発表。特定の業種・業務アプリケーションをもつSIerやISVに広く活用してもらうことを前提に設計されたサービスメニューである。
発表されたサービスメニューは二つ。一つはこれまで個別見積りだったabsonneの利用価格を、月額基本セットで8万円からに設定。サービス名を「absonneスタンダードモデル」とした。二つ目は、absonne上にシトリックスのアプリケーション仮想化ソフト「XenApp(ゼンアップ)」を搭載した「SaaSスタートアップ@absonne」。従来のクライアント/サーバー型の業務アプリケーションを、容易にクラウド/SaaSサービスとして顧客企業に提供できるようにした。
ウェブ方式などクラウド/SaaSで提供する形態の業務アプリケーションをもつSIer・ISVなら、そのまま「absonneスタンダードモデル」を利用する。従来のクラサバ版しかもたない場合には、「SaaSスタートアップ@absonne」に組み込まれているXenAppで仮想化。そのうえでクラウド/SaaS方式でユーザー企業に届ける方式だ。スタンダードモデルは月額8万円からとなっているが、実際にはネットワークやストレージなども必要になるので、エンドユーザーへの末端提供価格が、「月額20~25万円程度の価値のある業務アプリケーションならば、十分に採算が合う」(NSSOLの早瀬久雄・absonne事業グループ部長)という。
SIer・ISVを取り込みへ NSSOLがSIer・ISVの取り込みに力を入れるのは、absonne事業が立ち上がってきた経緯にも深く関連する。absonneユーザーのなかには、福祉・介護システム提供のワイズマンや、LPガス販売事業者向け業務システムの高木産業など、特定業種・業務分野でトップクラスのシェアと実力をもつベンダーが名を連ねる。ワイズマン、高木産業ともに、営業力をもって自らがエンドユーザーを開拓してきたISVだ。こうした事業者が自身のクラウド/SaaS商材を売れば売るほど、absonneの稼働率が高まって採算性が高まる。この構造に味をしめたNSSOLは、有力SIer・ISVが利用しやすい基盤を整備したというわけだ。
NSSOLでは、業種・業務アプリケーションを開発するSIer・ISVは全国3000社余りあるとみており、うちクラウド/SaaSへの対応に意欲的なSIer・ISVが半数と踏んでいる。absonneのシェア獲得目標を3割に設定すると、およそ400~500社がターゲットになる。それぞれの業種・業務で実績のあるアプリケーションを揃え、なおかつ参加するSIer・ISVが自らの営業チャネルでの販売力も加えることで、一気に「absonneのシェア拡大に結びつける」(NSSOLの山本拓・戦略ソリューション企画営業グループ主任)構えをみせる。
実はNTTデータも、自ら構築したクラウド基盤「BizCloud(ビズクラウド)」と、クラウド/SaaS対応を進めるSIer・ISVとの連携を深めている。業種・業務に特化したアプリケーションの開発元の多くは中堅・中小規模であり、多額の投資を必要とするクラウド基盤を自身で抱えるのは現実的でない。そこでNSSOLやNTTデータは、自らのクラウド/SaaSサービスメニューと連携。SIer・ISVがもつ販路を活用しての拡販するかたわら、こうしたベンダーが開発したアプリケーションを売っていくことで相乗効果を狙う。
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