OSSのクラウド基盤において、オープンで互換性のある世界を目指す取り組みが始まっている。OSS仮想化ソフト「Xen」のコミュニティで、仮想化ソフト、OS、各種管理ツール、APIなどを含め、フルスタックで提供する「Xen Cloud Platform(XCP)」の開発を進める「Xen Cloud Platformイニシアチブ」が立ちあがった。OSSでの相互運用が実現できれば、ユーザーはベンダーに縛られることなく自由にクラウド・サービスを利用することが可能になるという。VA Linux Systems Japanは富士通とともに日本からアドバイザリーボードに選出された。VA LinuxはXCPのストレージ部分を開発中だ。
ユーザーに利便性を提供
「Xen Cloud Platform」は、クラウド・プラットフォームと、企業のデータセンターやプライベートクラウドとの相互互換を可能にし、ベンダーに依存しないクラウドサービスを運用できる、OSSの仮想インフラ技術を提供するものだという。クラウド・サービスを始めるために必要な仮想化ソフト、LinuxOS、APIなどをフルスタックで公開するもので、極端にいえば、ハードウェアさえあれば、ダウンロードして、ビジネスとしてクラウド・サービスが始められるというもの。フルスタックをOSSで提供するのは初の試みとなる。一方、提供する機能の一つとして、VA Linuxではデータをクラウド側に保存しておくためのストレージソフトウェアを開発中で、XCPにOSSとして一部を出していくという。
企業内部での「プライベート・クラウド」とAmazon EC2やRackspaceCloud Servers、GoGridなどといった外部クラウドプラットフォームの間での相互運用を可能にする技術により、企業のデータセンター内の既存アプリケーションに変更を加えることなくXenベースのクラウドプラットフォーム上で動作する。自社で採用している仮想化ソフトや特定のクラウドベンダーの技術上の制限や要件に縛られることなく、各アプリケーションをどこで動作させるかを選択できるという。
世の趨勢となっている大手のクラウド・サービスは、独自の仕様のものが普通で、ユーザーが一度使い始めると、現実的に他のベンダーのクラウドが利用できないことがネックとなっている。VA Linuxの中村家久社長は、「パブリック・クラウドを想定したとき、相互の互換性がなければユーザーにとって使いづらいものになってしまう。本当に必要なとき、必要なだけ使える仕組みを提供しなければ、市場のパイは広がらない」と指摘する。用途別に各社のクラウドを使い分けたい、万一障害が起きた際のリスク分散の観点で複数のクラウドを使いたい、プライベート・クラウドと一部をパブリック・クラウドで運用したいとなった場合に、データのやり取りなどができないといった問題に直面する。
ストレージに関しても各クラウド・サービスを提供するベンダーは内製をしている状況で、コモディティハードと組み合わせてストレージシステムとして提供しているという。VA Linuxでは自社のストレージ技術を生かし、コアサービスの一つとなるストレージを開発している。「ユーザーはPCなどのハードが古くなったり故障して動かなくなったらデータをどうするかといったところを悩まずに、いつでもどこからでもデータを引き出すことができる。ストレージ・ビジネスを展開する人たちが利用しやすいソフトを出せればいいと考えている」(中村社長)。
ベンダーで内製している部分に対して、XCPのようなOSSで雛形を提供できれば、互換性をもつサービス展開により、用途によってはOSSの強みであるコスト競争力を武器としてSIerなどがビジネスの幅を広げることができるとしている。
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「日本発」のサービスが生まれるか
Xen.orgのアドバイザリーボードは右表の通りで、11社を数える。VA Linux Japanは、Xenコミュニティの中でXen/IA64の開発に深く携わっていることが評価されての選出だという。今回のXCPは「仮想化ソフトだけでは正直使いづらかった。Xenだけではサーバーは動かないので、市販のOSと仮想化ソフトを組み合わせてできるようなものを作ってしまおうと動き出した」(VA Linuxの中村家久社長)と話す。
もともと2008年のXen Summitで生まれた構想から始まったものだそうだ。 現在のところ、互換性をもたせるAPIのあり方や提供するLinuxOSについて議論を白熱させている段階という。日本のベンダーがコミュニティに参加し、中心となって取り組みを進めていくことにより、ある意味で「日本発」のクラウド・サービス実現が期待できそうだ。
クラウドの標準化という動きは、すでにいくつかの団体が立ち上がり、取り組みが始まっている。日本国内でもネットワン・システムズが中心となり、クラウドサービスのSaaS、 PaaS、 IaaSのサービス利用者が、異なるクラウドサービスを自由に組み合わせて利用することができる、オープンソースによる共通APIの評価・検証・実装や、実際のビジネスへ展開されるクラウドサービスモデルの検討・検証と情報公開をする目的で「クラウド・ビジネス・アライアンス」が発足した。
クラウドの利便性についての議論が、いまや世界規模で始まっている。(鍋島蓉子)