運用サービスに虎視眈々
動き出す先進ITベンダー 伸びてはいるものの、競争が激化する「構築」ビジネス。まだ一般的ではないが、成長の可能性を秘める「運用」ビジネス。競争力を高めるために、仮想化の運用サービスをメニュー化する価値は十分にある。すでにそれを見越して動き出したITベンダーも出てきている。
東芝ITサービス
09年に運用サービス開始
希少価値で引き合い急増
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| 社長の肝いりプロジェクトである仮想化事業の推進役を務めた井手弘部長。今はクラウドの可能性を探っている |
東芝ITサービス(石橋英次社長)は、東芝製ハードウェアの修理・保守サービスを主に手がけるITベンダーである。保守サービスの単価はハードの価格に比例する仕組みで、そうなると低価格が進む状況では成長が見込めない。そのため、5年ほど前からユーザー企業が運用する情報システムの運用を代行するビジネスを強化している。監視センターをつくって、ユーザー企業内にあるシステムをネットワークを通じて常時監視したり、顧客先にスタッフを常駐させてシステムを管理、トラブルに対応するビジネスを手がける。
その流れがあって、東芝ITサービスは仮想化ソリューションでも、最初から構築ではなく運用に目をつけていた。09年9月、同社は仮想システムの運用・保守サービスを「仮想化トータルサポート」として商品化。「その反響は予想以上」(井手弘・仮想化推進プロジェクト部長)で、全国的にユーザー企業から問い合わせが殺到した。「仮想化はブームだが、他のITベンダーは、導入や移行支援などを中心にビジネスを展開している。導入後の運用保守に特化したサービスは例がなく、チャンスはあるはず」という井手部長の考えが的中した。
運用サービスを手がけていくなかで、ユーザー企業からその上流工程である構築も頼まれるケースが増加し、今年4月には構築サービスまでも含めた仮想化のトータルサービスとして「V’s・care」を商品化し、全国的に拡販している。「構築→運用」ではなく、「運用→構築」というパターンである。
全国展開するために、仮想化関連の技術者を育成するための独自プログラムを作成し、教育も開始した。仮想化ベンダーの資格取得にも取り組み、ヴイエムウェアが展開する「VCP」という認定資格取得者は7人(10年3月末時点)になった。これらの技術者を全国の拠点に配置し、全国均一のサービスを提供できるようにしている。
井手部長は、とくに地方の中堅企業の需要が旺盛と感じており、「地方でのビジネス展開では、地場ITベンダーとのアライアンスも考えている」としている。アプリケーションの開発・導入は得意だが、仮想化も含めたシステムのインフラ関連が苦手というITベンダーとの協業によるビジネス拡大も視野に入れているのだ。
日立電子サービス
設計から運用・保守までを強みに
デモ施設の全国設置も特徴に
日立電子サービス(日立電サ)は、東芝ITサービスと同様に、保守サービスを中心に手がけてきたITベンダーで、今年から本格的に仮想化ビジネスに取り組み始めた。
3月30日、ユーザー企業の仮想システム構築から運用までを一括サポートする「安心仮想化ソリューション」をメニュー化した。このメニューのなかでは、運用を中心とした総合提案に重点を置いている。「仮想システムへの移行に関連する計画から、システムの設計・構築、そして稼働後の運用・保守サービスまでをワンストップで手がけられることが強み」(中津耕一・上席チーフエンジニア/システムエンジニアリング部長)と、優位点をアピールしている。「設計や構築だけではない、トータルサポートがユーザーに評価されている」(同)という。
日立電サは、拡販のためにユーザー企業やパートナー企業が仮想環境を体感できるデモンストレーション施設を設置。親会社の日立製作所は、「仮想化工房」という仮想化システムの拡販施策のなかで、デモンストレーション施設を東京都内に設置している。
日立電サも「安心仮想化ソリューション」の提供開始を機に、日立製作所と協業して、東京、札幌、名古屋、大阪、福岡の5拠点にデモ施設を配置した。中津チーフエンジニアは、「仮想化を検討する企業は大企業だけでなく、中堅・中小企業にも広がっている。今回の全国展開で、日立電サの仮想化ソリューションをより多くの人に認知していただく」と語り、一気に攻勢をかける。
セキュアヴェイル
既存運用サービスに仮想化追加
無償ツールの提供も
運用サービスが強みの企業が仮想化事業に進出した例として、セキュアヴェイルが挙げられる。同社は、自社開発ツールを活用した遠隔地からの情報システム運用・監視サービスの販売で伸び、会社設立から5年で株式上場を果たしている。
今年に入って、運用サービスを提供するなかで仮想システムの運用ニーズがあることを実感し、9月1日に仮想サーバーの監視サービス「Virtual Aid」の提供を開始した。同社の監視施設からネットワークを介して、ユーザー企業の仮想システムを監視する。ユーザー企業の情報システム担当者は、仮想化したサーバーのCPUとメモリ、HDDの利用状況を各OSごとに専用のウェブ画面から把握できる。月額1万円からという低価格で展開するだけでなく、このサービスを提供するために同社が開発したソフトウェアの機能限定版を、200社に限って無償で提供する。
仮想サーバーのリソース(処理能力)管理と、障害発生時の通知というシンプルなもので、障害発生時のトラブル対策などはサービスメニューに含まれていない。これを月額1万円からという低料金を武器に拡販しようとしている。
米今政臣社長は、無償ツールについて「ITベンダーがユーザー企業に仮想システムの運用監視サービスを提供する際にも効果的なツール」と説明しており、ユーザー企業だけでなく、SIerやITサービス事業者の利用も見込んでいる。有償のサービスは自社でユーザーに直接提供するのではなく、パートナーを介した間接販売を念頭に置いており、パートナーが自社ブランドで運用サービスを提供する際のインフラとして活用してもらおうという狙いである。今年中に10社のパートナーと組む考えを示している。

「Virtual Aid」の管理画面(無償版)
ノベル
仮想化をフルサポート
買収製品の拡販を強化
仮想化の運用で勢力を伸ばしそうなソフトメーカーにノベルがある。同社の「PlateSpinシリーズ」は、仮想システムのライフサイクル全般をサポートするソフトで、リコーやシーティーシー・エスピー(CTCSP)、TISなど仮想化ビジネスを手がける有力ITベンダーが続々と採用を決めている。
「PlateSpinシリーズ」は、親会社の米ノベルが08年に買収したカナダのプレートスピンが開発した製品群で、日本では09年2月から販売を開始した。その後、10年2月に社長に就任した徳永信二氏がビジネスの可能性を感じ、この製品の販売にリソースを集中させている。
「仮想システムライフサイクル全般をカバーする」というのは、物理システムから仮想システムへの移行する際の設計支援から、実際の移行、そして管理・運用、バックアップを図るためのツールを同シリーズですべてラインアップしていることを表すフレーズだ。仮想化技術(ハイパーバイザー)は、「VMware」や「Xen」「Hyper-V」など主要技術に対応しており、異機種混在環境でも利用できることも強みとしている。
現在は仮想システムへの移行を支援するツール「PlateSpin Recon」が人気だが、今後は同シリーズの運用管理ツール「PlateSpin Orchestrate」を活用するITベンダーが増えるとみており、積極攻勢をかける構えだ。
Column
「仮想システム構築+運用」
プライベートクラウドビジネスへの道
システムの構築が“光”だとすれば、“影”に当たるのが運用。この運用分野の需要が、今後伸びることは間違いない。加えて、仮想システムの構築+運用を手がけることができる体制を築けば、目の前の仮想化事業を伸ばせるだけでなく、プライベートクラウド構築ビジネスを手がける素地を整備することができるともいえる。
一般的にクラウドに必須な技術は、「仮想化」「自動化」「標準化」といわれる。なかでも仮想化はキーポイントとなる。プライベートクラウドについては、ユーザー自身が情報システムを運用するケースは考えにくく、ITベンダーが代行することになるだろう。そうなれば、運用のスキルや体制が必須となる。仮想システムの構築と運用は、クラウドに必要なノウハウであり、ITベンダーにとっては中長期的にみても欠かせないものになるはずだ。チャンスを掴むためというよりも、クラウド時代に生き残るための必須項目ともいえるのかもしれない。