台湾と中国が2010年に、財貨貿易やサービス貿易、早期の市場開放などの諸分野で、積極的に交渉を進めることを目的とした「両岸経済協力枠組協定(ECFA)」を締結したのを機に、台湾のIT産業に注目が集まってきた。台湾のITベンダーの中国ビジネスに関するノウハウと日本のITベンダーの技術/管理力を組み合わせるかたちで中国市場へ進出する動きが広がってきている。
figure 1 「市場規模」を読む
右肩上がりの成長
2007~09年、台湾ソフトウェア産業の市場は、世界的に経済が悪化したにもかかわらず、右肩上がりで推移している。中華民国情報サービス産業協会(CISA)は、2010年にはさらなる成長を見込んでいる。台湾政府は、クラウドコンピューティング産業の育成施策として、2015年までの期間に約100億元をインフラや基盤、サービスなどの構築に投資し、クラウドの普及を推進している。とはいえ、台湾IT市場は、中国の巨大市場と比べて規模が限られている。日本のIT企業にとっては、台湾市場そのものを狙うというより、台湾IT市場の順調な拡大を踏まえて、活気を呈している台湾のIT企業とのパートナーシップを構築し、台湾を“架け橋”として中国大陸へ進出したほうが旨みがあることになる。台湾のIT企業は、以前から中国を魅力的な市場とみているが、IT産業生産総額において輸出総額が比較的低いことから読み取れるように、日本企業と同じく、中国市場の本格的な開拓は単独では難しいようだ。
台湾ソフトウェア産業のスケール
figure 2 「主要プレーヤー」を読む
ローカルと外資系が競争
中国進出を図る日本のIT企業にとっては、中国でのビジネス展開に豊富な経験を積んできた台湾企業が最も有力なパートナーとなる。中国進出済みの台湾主要IT企業のトップを走るのが、金融や通信、医療、製造などの業種でのシステムインテグレーション(SI)を得意とするSYSTEX(精誠資訊)やSYSCOMグループ(凌群電腦)だ。なかでもSYSTEXは、グローバルで約2600人の従業員を有しながら、中国では北京や上海をはじめ、内陸部の地域もカバーする18か所に拠点をもつなど、最も規模が大きい。米調査会社IDCによる2010年の台湾ITサービスのベンダー別マーケットシェアでは、SYSTEXは3.4%を占め、外資系のIBM(10.9%)とヒューレット・パッカード(HP、6.3%)に次いで3位に入った。4位は大手通信事業のCHUNGHWA TELECOM(中華電信、2.8%)。そのほか、PES(プロダクト・エンジニアリング・サービス)などのITアウトソーシング分野で、中国に6拠点をもつWISTRON ITS(緯創軟體)が主要プレーヤーだ。
中国へ進出した台湾の主要IT企業
figure 3 「日台IT連携」を読む
強い補完関係がカギ
日本と台湾のIT企業が連携して中国へ進出する計画を積極的に推し進めるのは、中華民国情報サービス産業協会(CISA)だ。CISAの劉瑞隆理事長(SYSCOMグループ総経理)が、2年ほど前に「日・台・中のゴールデン・トライアングル」という言葉をつくり出してから、日本の情報サービス産業協会(JISA)との連携を強化し、東京や台北でシンポジウムやビジネス交流会を開くなど、両国のIT業界の連携につながる施策に注力してきた。日本と台湾のIT企業が連携して中国へ進出するにあたっては、当然ながら、双方にとってのメリットが求められる。具体的には、日本企業が強みとするIT製品の品質管理や信頼性の高いブランド力を、台湾企業が強みとするスピードの速さや、中国でのビジネスに有利となる言語や商習慣といった点と融合させるというのが、日台連携の基本パターンだ。中国で成長している医療や流通、金融、製造、農業などの業界において、「お互いの強みを補完しあう」(劉理事長)のが、共同事業展開の基盤となる。台湾のIT企業の多くは、中国市場のニーズに対応するために、従来型のハードウェア中心からソフト/サービス中心へのシフトを急いでおり、ソフト/サービス分野に強い日本のIT企業に注目し、台湾側の日本に対する興味が高まっている状況にある。
「日・台・中 ゴールデントライアングル」の構築
figure 4 「連携の具体化」を読む
共同ビジネスのモデルを模索中
具体的にどのようなかたちで日本と台湾のIT企業の共同の中国進出を実現できるかに関しては、CISAやJISAをはじめ、両国のIT業界関係者が模索している段階だ。「かつて、IBMが香港の企業を活用して、中国でビジネスを広げてきたのと同様、台湾との関係は日本のIT企業の中国戦略におけるカギを握る。しかし、一緒になって実際に中国へ進出するまでは、少なくとも10年くらいはかかる」(JISAの浜口友一会長)との見解があるように、日台連携を中長期的なプロセスとしてみる必要がある。数は少ないながらも、両国が組んだ事業展開の事例がすでに存在する。例えば、NTTデータの顧客である北海道銀行が、NTTデータの仲介で台湾の銀行と連携し、各地でそれぞれのデビットカードでの支払いを実現したケースがある。金融や通信の業界をはじめ、日台連携が初歩的段階で進んでいる。とはいえ、当面のキーワードとなりそうなのが、両国の間の「交流」だ。CISAは、同協会の日本代表を介して、日本での展示会やビジネス交流会をサポートしたり、台湾で日本側訪問団のビジネス交流会を企画/開催するなど、日台連携を積極的に推進する姿勢をみせている。JISAも、「日本と台湾のつながりを深めていく」(浜口会長)としており、連携の具体化に取り組んでいく方針だ。
日台企業による中国市場共同開拓