中国の巨大IT市場を巡り、日本の有力IT団体が台湾の情報サービス業界団体と急接近している。中国で実績のある台湾ITベンダー経由で、中国の地場企業にITを提供するルートを構築することが目的だ。日本のITベンダーが中国独自の商慣習や規制などを理解するのは難しく、言葉の壁も大きい。このため、長年の蓄積で地盤をもつ台湾ITベンダーと合弁などで手を組み、日本産の製品・サービスを波及させることを検討している。(谷畑良胤/安藤章司/ゼンフ ミシャ)
「台湾ルート」に太いパイプを
日本国内最大のIT業界団体、情報サービス産業協会(JISA、浜口友一会長)は、今年10月、日本と台湾の情報サービス業界のキーパーソンが集う「日台ITビジネスアライアンス交流会」を開催した。12月には、台湾で開催される「ICTサミット」にも参加する。台湾と中国で締結した「両岸経済協力枠組協定(ECFA)」を受け、中国への進出を加速させる台湾のIT業界最大の団体、台湾情報サービス産業協会(CISA)関係者らと意見交換を継続して実施し、水面下で相互の強みを持ち寄って中国本土を開拓することを模索している模様だ。
CISAは、日本のJISAと情報処理推進機構(IPA)の機能を併せもつ台湾のIT業界団体で、台湾のほぼ全ITベンダーが加盟している。CISAの劉瑞隆理事長(凌群電脳=SYSCOMグループ総経理)は「台湾のITベンダーは早くから中国市場へ進出し、幅広いビジネスのネットワークをもっている。中国市場を狙う日本ITベンダーにとって具体的な事業展開の糸口になる」と、ECFA以降の市場拡大に向けて、日台両IT業界の技術・ノウハウを持ち寄ることで、中国企業にとって有益なITを提供できると語る。
このCISAがホスト役となって、アジア・オセアニアコンピュータ産業機構(ASOCIO )が12月に台湾で開催する「ASOCIO ICT Summit 2010」には、日本のJISAが参加するほか、関連して開催する「日台ソフトウェア企業交流会」にコンピュータソフトウェア協会(CSAJ、和田成史会長)が加わる予定。CSAJの中国ビジネス研究会の竹原司主査は、「中国進出で、台湾ITベンダーと共同歩調が取れるかどうかを検討する」と、日台連携を積極化させる意向だ。
日台ITベンダーによる中国市場共同開拓
一方、任意団体のメイド・イン・ジャパン・ソフトウェア・コンソーシアム(MIJS、内野弘幸理事長)は10月26日、CISAとMOU(Memorandum of Understanding=覚書)を締結した。MIJSはこれ以外にも、中国内陸部の成都市にある成都市軟件行業協会(成都市ソフトウェア協会)とも、今年4月に覚書を交わし、台湾ルートと併せて独自の商流を築こうとしている。
CISAによれば、台湾ITベンダーによる中国市場での取り組みは、すでに30年近くになり、中国市場で活躍する国外のITベンダーのうち8割を台湾ITベンダーが占めているという。台湾と中国で締結したECFA以降、「日本や各国企業が中国大陸へ進出するステップボードになる」とし、台湾、日本、中国の「新ゴールデントライアングル」と題し、IT産業を活性化することを活動の中心に据えている。
CISAの会員による成功事例は多岐にわたる。例えば、台湾の廣達電脳がクラウドコンピューティング科技会社を設立し、日台の通信会社と提携して中国ローカルの中小企業にソフトを提供したり、中鋼集團は鉄鋼工場に管理データベースなどを提供し、ERP(統合基幹業務システム)のトラブルシューティングで中国最大の提供先となっている。日本のJISA、CSAJ、MIJSは、こうした実績をもつITベンダーと合弁するなどで、中国進出を狙う。
表層深層
2010年度(10年1~12月)、中国の情報サービス産業は、売上高が約1兆2000億元(15兆6000億円)に達する見込みだ。日本のIT産業の売上高は約17兆円で、成長率が数%との予測があるなか、中国市場は11年も25%程度の成長を遂げるとされている(10月4日号で既報)。日本の内需が期待できないなかで、中国に目を向けるITベンダーが増えた。
この隣国の巨大市場を狙おうと、日本のITベンダーは各社の取り組みのなかで独自に歩を進めてきた。だが、依然突破口を開くことができていない。その一方で、ここ数年、日本の民間企業が続々と中国へ拠点を構え、その数は2万5000社近くに達した。こうした日本企業の現地サポートをしつつ、中国ローカル企業へ入り込む機会をうかがっていたのがこれまでの日本のITベンダーだ。
“中国リスク”を抱えるなかで、日本のシステムを中国へ提供する経由先として浮上したのが台湾ルート。ECFAの締結を受け、CISAなど台湾側から日本側へ働きかけが強まり、日本のIT各団体が動き始めたのだ。
中国では、ソフトウェアの不正コピーやソフトのソースコードを強制開示することなど、進出するための障害が多い。これらを本土のシステム事情に詳しく人脈も深い台湾ITベンダーがぬぐい去ることはできるのか。その確証を得るために台湾IT団体と交流しているが、台湾を正規ルートにできるかは未知数だ。(谷畑良胤)