「特定健康診査・特定保健指導」がスタートして3年目を迎えた。当初、IT業界に特需をもたらすと期待された新市場は、思惑がはずれて厳しい状況にある。しかし、成長の芽が摘み取られたわけではない。ITベンダーの活路はどこにあるのか。各社に取材して、可能性を探った。
どうなる!? メタボ健診のIT需要
各社、ソリューションへの道を探る 2008年4月、厚生労働省は、40~74歳の健康保険加入者に対して特定健康診査(メタボ健診)と保健指導を医療保険者(医療保険事業運営者)に義務づける「特定健康診査・特定保健指導」を開始した。生活習慣病の有病者・予備群は年々増え続けている。この取り組みは、職場での健康診断の際に行う特定健康診査で、生活習慣病の要因となるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の該当者に対して保健師や管理栄養士、医師が、生活習慣を改善するための指導を行うもの。期間は半年間。2013年度からは、医療保険者ごとに、メタボ減少率の達成状況に応じて「後期高齢者医療支援金」の10%加算・減算を実施する計画で、達成できた場合にはインセンティブが与えられ、達成できなかった場合にはペナルティが課されるという仕組みだ。高騰する医療費に歯止めをかける施策として、厚生労働省では、2兆円の費用減少を狙っている。
メタボ健診が始まった当初は、大量の指導対象者が出ると見込まれ、市場は大きく盛り上がるとの期待があった。大手保険会社は、管理栄養士や看護士の資格をもつスタッフを雇い入れて、医療保険者である健康保険組合などにサービスを販売するなど、盛り上がるであろう新市場に期待を膨らませたものだった。大いなる期待を抱いたのは、IT業界も同じだ。健診データ管理や、指導支援を行うためのツールとして、大企業からベンチャー企業に至るまでの多くのプレーヤーが参入し、自社が提供するサービスや製品の出番を待った。
それから3年ほどが経ち、5年を1クールとする施策は中間点にさしかかっている。“メタボ健診”市場自体は、今どうなっているのか──。08年当時、約6000万人にも上る指導対象者がいるとされ、特定健診についても、非常に旺盛な需要があるとみられていた。09年の特定健診受診率は、対象約5200万人中の2115万人、実施率は40.5%。特定保健指導を最後まで終了したのは13.0%にとどまった。
低調の原因はどこにあるのか。特定健診の仕組み自体が機能していないために指導まで結びつかず、財政難で苦しむ健康保険組合が積極的ではないことが要因とみられる。前述したインセンティブ・ペナルティ制度についても、実施するのかしないのか、厚生労働省の内部で二転三転した状況があり、来年以降の動きを様子見してビジネスを見直すITベンダーも少なくない。
一方で、メタボという言葉に前後して、ランニングやジョギングがはやりはじめるなど、国民の健康指向は高まりをみせている。“メタボ”だけでなく、広くあまねく「健康」に絡めたビジネスが、ITベンダーの次なる“商売の種”となっている。具体的には、パーソナルヘルスレコード(PHR、個人の健診データなどを生涯にわたって記録)やエレクトリックヘルスレコード(EHR、医療機関における個人の診断情報の電子化・共有化)の分野にITを活用して、ソリューションへの発展に結びつけることを模索しているのだ。以下、ITベンダーの動きを紹介する。
シンコム・システムズ・ジャパン
現場の声を生かす
指導ソリューション
PHRの管理ソリューションへ進化
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| 石村弘子 代表取締役 |
シンコム・システムズ・ジャパンは、2008年、海外で疾病管理に活用されている同社の統合コンタクトセンターアプリケーション「Synchrony(シンクロニー)」をベースにして、日本市場向けに特定保健指導管理ソリューションをつくり上げた。売り切りと、ASP・SaaS型サービスの二本立てで、ともに直販で販売している。
このヘルスケアソリューションは、保健指導を行っている管理栄養士などの要望を取り入れてシステム/サービスに反映しているのが大きな特徴となっている。管理栄養士、保健師などの管理者が行う面談やメール支援などの特定保健指導業務を効率化するものだ。対象者ごとに設定された指導スケジュールは、システムが管理する。管理者は、システムに表示された作業をこなしていくだけで済む。利用者からの回答もシステムが自動記録する。また、指導対象者に送るメールは個別に作成する必要がなく、状況に応じて用意されたひな形を活用し、少しアレンジすればすぐに送信できる仕組みだ。
さらに、システムが自動集計履歴記録から支援獲得ポイントを自動的に集計し、厚生労働省のガイドラインに準拠した報告書を出力する。各特定保健指導機関の固有の業務に合わせて、迅速に、柔軟に機能の変更や作り込みを行うことができるのも特徴の一つだ。
シンコムは、09年にこのソリューションを三菱電機ライフサービスに納入した実績をもつ。23社のコンペを経て、選定された。シンコムの石村弘子代表取締役 マネージング・ディレクターは、当時を振り返って、「このところ撤退するベンダーが多く、競合企業が減った。ユーザーの実態に合わせて柔軟にシステムを変更することができ、かつ顧客が満足する水準の価格でなければ、ビジネスを続けていくことはなかなか難しい」と、他社との差異化点を語る。
今年後半からは、40歳からのメタボ対象患者だけでなく、さらに若年の一般層を対象に、予防医療にもシステム適用の枠を広げていく。
もともと医療費を引き下げるために始まった特定健診・特定保健指導制度だが、実際には医療費低減で効果が出ているとは言い難い。そこでシンコムでは、「PHRを管理する仕組みを近いうちにリリースする予定」(石村代表取締役)という。これによって、若年からの健康を管理・維持して疾病の重症化を防ぐことを支援し、新たなビジネスチャンスを広げていくのが狙いだ。

シンコムが手がける特定保健指導管理ソリューション
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