ヴァル研究所
有料化のめどが立ち
サービス提供を開始
求められるポピュレーションアプローチ
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| 磯山義仁 プロデューサー |
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| 大平貴一 氏 |
乗り換え経路・運賃の探索ソフトウェア「駅すぱあと」でお馴染みのヴァル研究所は、2008年4月から、指導対象者向けのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)と指導者向けの管理システムを組み合わせたASPサービス「健康生活ナビ」を提供している。
同社は、自己採血型・在宅血液検査キットを販売する医療関係ベンチャー企業に出資し、ヘルスケア事業を開始。その当時から、枠組みを広げて、個人向けのヘルスケアサービスを拡大すべく検討を重ねていた。当初、個人向けのITサービスの有料化は難しいと考えていたが、法律で特定健診・特定保健指導が義務化されたことで、サービスの有料化は可能だと判断した。「まずはBtoBで集客しようと『特定保健指導』を呼び水にした」(商品企画部の磯山義仁プロデューサー)。
指導者は、担当する指導対象者がSNSのマイページに入力した情報を管理画面で一覧表示でき、指導者が毎日こなさなければならない業務をわかりやすくアイコンで示すことによって業務の効率化につながる仕組みで、保健指導事業者や健保組合などが利用しているという。労働安全衛生法の関連でも需要を伸ばしている。だが、実状は順風満帆というわけではないようだ。「利用者は微増しているものの、サービスを解約する企業も少なくない」(営業部 法人営業の大平貴一氏)という状況。半年の指導期間では、効果は広く浅くにとどまる。一番の問題は半年間の指導を受け続けても終了後にリバウンドしてしまうことだ。そうなると、指導を受け続ける対象者が出てきて、そのうちに指導を受けなくなってしまう人が現れるという悪循環に陥る恐れもあり、効果には疑問符がつく。
本当の意味で予防につなげていくためには、40代以前からの生活を改善していく必要があると、磯山プロデューサーは指摘する。「例えば健康保健指導の枠組みにとらわれなくても、ウォーキングや禁煙など、皆が参加するイベントを企画・実行している企業や健保組合はたくさんある。従来のハイリスクアプローチのメタボ予備群の指導対象者だけでなく、ポピュレーションアプローチ(広くあまねく集団や団体にアプローチする)を強化すべき」というのだ。
そこで登場するのが「○×ノート」だ。特定保険検診・指導後の維持管理や、広く健康管理に活用できるものだ。利用者は自分の行動記録を、○×方式で答えていくだけでいい。質問項目はカスタマイズでき、09年から、法政大学フェンシング部で部員の健康管理を行う実証実験を実施している。
ヴァル研究所では、現在、ヘルスケア事業を見直しにかかっている。磯山プロデューザーは、「健康に対する負担は、ゆくゆくは個人に向いてくる可能性がある。その医療の動きをみて、予測しながらサービスの方向性を模索したい」と話している。
日本事務器
動向を注視して
新サービスを模索
スーパーなどで実証実験を始める
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| 岡山公彦 部長 |
オフコン時代から健診関連のシステムを構築している日本事務器では、2000年頃から予防ソリューションの検討を開始した。当時は政府が打ち出した政策「健康日本21」の国民健康づくり運動が始まった頃だ。08年に特定健診・特定保健指導が始まったのを機に、特定保健指導に対応したパッケージ製品「HealthcareMaster(ヘルスケアマスター)」の販売を開始した。同社は、病院に付属している健診センター35か所、自治体など累計55か所へのシステム納入実績をもっている。総合健康管理システム「CARNAS」とリンクさせて、受診者の属性・検査結果を紐づけることができる。
この製品は、国立健康・栄養研究所の国際産学協同研究チームとの連携で構築した評価ロジックを活用して、医学的根拠をもたせてアドバイスを行うことができるのが特徴だ。
事業推進本部 医療・公共ソリューション事業推進部の岡山公彦部長は、「特定健診・指導の実施率が低く、仕組み自体が回っていないので、どこも苦しんでいる。特定健診・保健指導を受託する事業者にとっても委託単価が魅力的ではなく、数も多くこなすことができないという事情があって、なかなか実運用に結びつかない」と嘆く。
一番の問題は、やはり人の習慣にある。働き盛りでメタボにも該当するリスクの高い40代は、病院にはあまり行かない人が多い。
日本事務器では、2012年に行われる予定の政策の見直しの動向を様子見している状況だ。同社は、受診者のフォローだけでなく、自発的な健康管理を行う「セルフメディケーション」につなげることができるSaaS・ASPサービスなどを模索していこうとしている。
岡山部長は「例えば利用者がシステムに入力した不定愁訴、体重、食事、運動などの生活情報をもとに、未病を自発的にシミュレーションできるかたちも視野に入れたい」と話す。今年度下期からは、「セルフメディケーション」を実現する健康支援サービスの一つの手段として、ドラッグストアと保険調剤薬局を利用する実証実験事業を開始する。大手スーパー、ドラッグストアや処方薬を扱う保険調剤薬局は、地域の健康を支える役割を担っており、主婦層向けに健康教育を行う取り組みが増えている。日本事務器はそこでサービスを展開することで、生活のなかに溶け込む格好で予防サービスを加速させる。日本事務器では、今、「トータルヘルスケアソリューション」として「EHRLINK(イーエイチアールリンク)」を打ち出している。本来はそれぞれ分かれている「保健」「医療」「介護」を繋ぐソリューションを展開することで、最終的には、生涯の個人データを記録する「PHRデータベース」構築の一端を担うサービス提供事業を目指す。
日立製作所
成功実績をベースに
導入が進む
糖尿病に特化したサービスを検討
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| 馬島知恵 部長 |
日立製作所が09年12月に販売を開始したASPサービス「はらすまダイエット」は、その達成率に大きな強みをもっている。「はらすま」というネーミングは、「『腹』をスマートに」からきている。日立製作所では、グループを含めて778人が日立健康管理センタを通じてこの「はらすまダイエット」に参加し、半年間の減量指導を受けた。継続率は93.3%、減量成功率が52.6%、平均減量体重は4.6kgという実績だ。778人のうち、メタボ該当者は262人。そのうち72.9%にあたる191人がメタボ解消に成功した。
「はらすまダイエット」の画期的な点は「100kcalカード」にある。初回面談では、この「100kcalカード」を用いて具体的な目標を設定し、その後、通常なら180日(半年間)かけて行う減量を、はらすまでは90日は減量、90日は維持と分けて、自身の行動を記録・参照することを習慣化する。10日ごとに指導者からメールが来る。原則「ほめる」内容なので、継続的なモチベーションの維持にもつながるといった寸法だ。
「100kcalカード」は、特定の食べ物の100Kcal分の摂取量や100Kcal分消費する運動などがひと目で分かるようにイラストで書かれている。システムには200枚が登録されていて、1日のうちにできそうな運動や、食べ物のカードを選んで実行していく。
公共システム営業統括本部 第一営業本部 公共営業第一部の森勇雄チームリーダーは、「従来は、本人が食事を逐一記入して、1日何Kcal食べたかを記録する必要があって、手間がかかる。その点、『はらすまダイエット』は、生活のなかで何を減らせばいいか、差分方式でカードを選べばいいので、シンプルでわかりやすい」と話す。
万一、サボってしまっても「飲み会ばかりで体重が計れない」「出張先に体重計がない」といった“いいわけ”を入力できる欄がある。保健師や栄養士はそのコメントや毎日の記録を見ながら、指導する際は「いいところを伸ばす」方向のほめるメールを送る。保健師や栄養士が活用する管理システムには、ほめるためのメールのひな形が40種類用意されている。脱落せずに続けられる工夫が各所にちりばめられているのだ。
「はらすまダイエット」は日立グループや外部機関を含めて、50社超が導入している。特定保険指導に限らず、企業の福利厚生や、幅広い人たちの健康管理にも活用することができる。
2013年度に、特定健診・特定保健指導の第1期が終了する。結果を出した医療保険者には、インセンティブを付与する施策がスタートすることになる。公共ソリューション第一本部官公システム第九部の藤岡宏一郎部長は、「来年以降、本格的に市場が立ち上がるのではないか」とみている。「はらすまダイエット」はASPで提供するサービスで、公共ソリューション第一本部官公システム第九部の杉本潤哉課長は、「100人利用しても80万円。財政面でも負担は軽減できるはず」とアピールする。
特定健診・特定保健指導ではメタボ常習の問題が課題となっている。「はらすまダイエット」は「どうしたらやせるのか」という気づきを与え、セルフコントロールをするうえで大きな効果を発揮する。今後、日立製作所では、「『はらすまダイエット』を糖尿病の重症化予防のサービスに発展させたい」(公共システム営業統括本部 第一営業本部 公共営業第一部の馬島知恵部長)と意気込む。今年度から、経済産業省の委託を受け、実証実験を開始した。特定保健指導が終わった人が継続してセルフコントロールを行う仕組みをつくることで、PHRにつなげたい方針だ。

「はらすまダイエット」利用画面と100kcalカード
記者の眼
“メタボ”という切り口のビジネスは盛り上がっているかといえば、現実には苦しい状況にある。2012年の夏には政策の見直し、2013年にはいよいよ次なるフェーズを迎える。
ITベンダーの間では、政策の動きをみて、特定健診・特定保健指導の支援を発展させたかたちで広くあまねく健康支援サービスを展開し、個人が主体的に記録・生涯履歴の管理につなげることができるサービスに発展させる動きが広がっている。
今後は、こうした広くあまねく健康支援サービスを普及させることで、若年層から生活習慣の見直しを支援することが主流になると思われる。それによって、元気に長生きし、病気に苦しまない、生きる質を向上させる仕組みづくりが進んでいきそうだ。