注目!伸びるベンチャー〈その2〉
ブイキューブ
ウェブ会議システムでアジアを席巻
ウェブ会議一本に絞る 1998年10月に創業し、国内ウェブ会議市場でトップシェアを誇るブイキューブ。調査会社のシード・プランニングによれば、「SIタイプ+ASPタイプ」の市場シェアは前年比1.4ポイント増の20.8%、「ASPタイプ」は同6.5ポイント増の30.2%に上る。NTTアイティやシスコ・システムズなどの大資本ベンダーを振り切って高い支持を得ている。
間下社長は、慶應義塾大学に在学中、企業向けのウェブサイトを制作していた。営業はせずに、クチコミと紹介で案件を獲得していった。「ある程度ウェブの知識があったので、アルバイト感覚で始めて、2週間くらいの短期間に20万円が手に入った。気づいたら結構な年商規模になっていて、有限会社ブイキューブインターネットを立ち上げた」。
株式会社化を決めた頃には、受託開発を中心にオンラインカレンダーサービスなどのネットサービスの提供を手がけていた。カレンダーサービスは無償で提供し、10万人のユーザーを抱えるまでに成長することとなった。ただ当時は、独自サービスで収益を上げる仕組みがなく、売り上げは受託ビジネスに頼っていたという。
転機となったのは、2003年の米国ロサンゼルスでの子会社設立だった。「軽い気持ちでカレンダーサービスやモバイルアプリケーションを提供しようと思っていた」(間下社長)。
ところが、思わぬ障害にぶつかった。日本本社と米国子会社との間のコミュニケーションである。テレビ会議システムの導入を検討したが、高額な製品が多く、フリーで提供されているものは満足できる使い勝手ではなかった。そこで、自ら開発する決断を下したのだ。
同社がウェブ会議システム市場への参入を決めた当時、すでに何社かのプレーヤーが存在した。間下社長は、後発企業であることを認める。しかし、「使い勝手の悪いウェブ会議しかなく、ユーザーニーズも薄いと考えられていた」という。そんななかでも製品化に着手したのは、「ウェブ会議を自社で利用してみて、すごく便利だったから」。今後、必要性が高まってこないはずがない、という確信が間下社長にはあった。
2004年5月、ウェブ会議システムの開発・販売を手がけるブイキューブブロードコミュニケーションを設立。事業化に乗り出した。提供モデルは、法人向けに月額1万9900円課金のASP型。「受託とは異なり、投資が必要なインフラビジネスだから、外部から出資を受けて分社化した」と、間下社長は説明する。
その後、新規事業であるウェブ会議システムの開発・販売と、旧来の受託開発の両輪で事業を展開したが、次第に受託開発は先細りの傾向にあった。こうしたなかで、2006年、新規事業に専念するために、ブイキューブブロードコミュニケーションがブイキューブを吸収合併。社名をブイキューブに変更した。
受託開発を切り捨てた結果、会社を離れていった人材も少なくなかった。間下社長は、「残ってくれた人はマインドを切り替えていったし、後になって会社に戻ってきてくれた人もいた。事業をウェブ会議に絞って、会社として動きやすくもなった」と前向きに捉えている。

握手を交わすブイキューブの間下直晃社長(左)とプレミアコンファレンシングの宮地孝幸副社長
アジアNo.1を目指す 近年、市場は右肩上がりで成長し続けている。調査会社アイ・ティ・アールによると、国内ウェブ会議システムの2010年度の出荷金額は約64億円で、前年度比19.1%増となった。なかでもSaaS型のウェブ会議システムは、2010年度は43億円で前年度比38.7%増と急成長。市場全体でのSaaS型のシェアは66.9%となった。国内普及率はまだまだ低いというのが間下社長の認識だが、関心は国内を含めたグローバル市場をいかに攻略するかにある。
すでに、手は打ってきた。中国では、有力ディストリビュータのシネックスと提携。シネックスの巨大な販売チャネル網を駆使し、中国全土で販売活動を展開している。マレーシア、シンガポール、ベトナムの3国に照準を合わせて、各国のパートナーとの関係づくりも進めている。
2011年に締結したポリコムジャパンとの提携も、大きな意味をもっている。ブイキューブは、ビデオ会議プラットフォーム「Polycom RealPresence Platform」を採用したポリコムのビデオ会議システムと、同社のウェブ会議システムを相互接続するゲートウェイ機能を開発。両社の販売代理店は、相互接続を実現した両社のシステムをあわせて販売することを発表した。まずは国内で共同展開し、ゆくゆくは海外にその範囲を広げる意向だ。
電話会議サービスに強いプレミアコンファレンシング(PGi)との提携も重要な意味がある。ブイキューブ製品の音声機能を拡張するための技術パートナーシップに加え、日本と中国を中心とする主にアジア地域で、ブイキューブ製品をPGiが販売するという提携内容を発表した。
直近では、研究開発拠点として、シンガポールに「ブイキューブ シンガポール R&Dセンター」を開設した。当面は、日本人の技術スタッフ数人が常駐して基盤を構築し、2012年度末までにシンガポール国内や近隣諸国から10人程度の技術者を採用する予定だ。
人材は現地採用が基本だ。待遇は本社と同じ。グローバルで共通する採用方針は、「変革への興味を忘れないこと。顧客のニーズの先を読む必要があり、考えることができない人間は要らない」というものである。本社の新卒採用では語学力を重視するようになってきているという。
間下社長は、「北米などの先進国では、資本力で競合に勝つことができない。一方、中国ではローカルニーズを汲み取ってサービスを提供できているベンダーは多くない」とみる。市場が未確立の中国をはじめとする新興国で足場を築き、「アジアNo.1」を目指す考えだ。10年後の目標は、アジアを中心に50か国に展開。グローバルで400億~500億円を売り上げ、国内シェアを50%に引き上げること。2011年12月の売上高が約21億円の同社は、かなり挑戦的な目標を掲げている。
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