ITベンチャーのスタートアップ（起業）ブームが再来している。スマートフォンに加えてGPSやSNSを組合わせることでビジネスを発案しやすくなったことや、クラウドコンピューティングの普及で初期コストが低減できるようになったことが、起業のハードルを下げている。

　IT特化型の独立系ベンチャーキャピタル（VC）やIT関連のコーポレート・ベンチャー・キャピタルは、起業を目指す若者向けのスタートアップセミナーやビジネスプランコンテスト、支援プログラムなどを各地で開催。ジャパンベンチャーリサーチによれば、2011年、IT関連企業を投資対象とするファンドが9本設立され、そのうちIT関連企業のみに特化したファンドが7本、IT関連スタートアップに特化したファンドが5本と、近年のなかでは大きく増加したという。ベンチャー支援のエコシステムが育ってきたことが、資金力や経営力に乏しいスタートアップ企業を支えている。

　セールスフォース・ドットコムの倉林陽・コーポレートディベロップメントシニアディレクターは、「この10年で、若くて優秀な人材の揃った企業が増えている。優秀な人がリスクを取って学生のうちに起業し、結構すぐれたビジネスを形成する。彼らに話を聞くと、大企業に就職しても将来どうなるかわからない、と言う」と、最近の風潮を語る。米国のスタートアップ企業に学び、米国スタイルのアントレプレナーシップも浸透してきているそうだ。起業時から海外展開を目指し、果敢に挑戦しているケースは驚くほど多い。

　ただ、国内発のスタートアップの成功・失敗事例がまだ少ないので、ケーススタディを行うのが難しい。ITベンチャーの投資育成事業を展開するサンブリッジのアレン・マイナー会長兼CEOは、起業→海外展開→失敗・成功→学習→起業というサイクルを確立するために新たな取り組みを開始する、と明かした。「今年あるいは来年にも、国内ベンチャーの米国進出に際して資金調達や社長の登用で支援し、シリコンバレーのベンチャーコミュニティと合弁会社を設立するというチャレンジをしたい」。

　イグジット（VCの投資回収出口）のほとんどがIPO（新規株式公開）に限定されていることは、日本の課題となっている。マイナー会長兼CEOは、「日本はIPOに頼り過ぎ、米国はM＆Aに頼り過ぎている」とバランスを欠いた状況を憂えている。国内のあるスタートアップ企業は、最初から売却先として可能な米国企業を3～4社検討しており、そのために米国のVCに投資してもらうようにしている。倉林シニアディレクターは、「われわれがM＆Aを行う可能性はゼロではない。日本でも素晴らしいテクノロジーが出てくれば」と含みをもたせる。成功事例が増え、スタートアップ企業に対して国内外のベンダーからの注目が集まることを期待したい。（信澤健太）