【事例1】SAPジャパン
求めるリーダー像を明確化
グローバルで活躍できる人材を育成 世界最大手の統合基幹業務システム(ERP)ベンダーである独SAP。大手企業向けERPは国内でも高い支持を得て、近年はビジネスインテリジェンスやモバイルビジネスでも存在感を高めている。トップベンダーであり続ける同社を支えるポイントとして挙げられるのは、明確なリーダー像の設定とリーダー人材の育成だ。
SAPは独本社をはじめ、各国拠点の人材をグローバルベースで統合管理している。人材をチームを率いるリーダーと専門知識をもつプロフェッショナルに分類して、それぞれ異なる評価軸を設けている。
リーダーは、大別して七つの要素(下図)を備えた人物であると定めている。これらに合致するリーダー候補は、ポテンシャルを縦軸に、パフォーマンスを横軸に人材ポートフォリオとして整理。ポテンシャルは、同社が求めるリーダー像にどれだけ近いかという観点から測定する。松村浩史・ソリューション統括本部エンタープライズマネジメント本部本部長は、「ポテンシャルと実際のパフォーマンスをクロスさせて考えることで、リーダー候補を発掘する。その作業を可視化するシステムが、SAPの『SAP ERP Human Capital Management(SAP ERP HCM)』だ」と話す。
「SAP ERP HCM」は、人材育成業務や人材申請業務、定型業務を網羅する機能を実装している人事ソリューションである。「ラインマネージャーや各従業員とのコミュニケーションをはじめ、業績目標の設定とその到達度などの相互理解を促すものだ。リーダーの原石を探し出すために活用している」(松村本部長)。
同社は、タレントマネジメントシステムベンダーのサクセスファクターズを買収している。「SAP ERP HCM」と異なり、マルチテナント型のアーキテクチャを採用したクラウドサービスだ。機能は重複していたり似ていたりする部分がある。例えば、サクセスファクターズの「Jam」とSAPの「SAP StreamWork」は、どちらもソーシャル・ネットワーキングサービス(SNS)だ。松村本部長は個人的な意見と断ったうえで、「『Jam』はFacebook的なタイムラインベース。『StreamWork』はよりプロジェクト指向となっていて、チームによる共同作業や課題解決に利用されている。どちらかを採るのではなく、組み合わせることができるのではないか」と説明する。
【事例2】アビームコンサルティング
グローバルレベルで人材を見える化
情報共有、人材育成を強力に推進 米国や欧州、アジア各国で事業を展開するアビームコンサルティング。SAPビジネスに強く、1400人ほどのSAP認定コンサルタントを抱える。今、グローバルレベルでの人材の見える化とラーニングを通じた人材開発に取り組んでいる。
同社は、活躍の場を広げて会社を成長させる人材と、その推進役である強い組織が一体となってチャレンジしてナンバーワンを目指すことを、グローバルレベルでの人材マネジメントの基本方針と定めている。成長の資本となる社内人材は大きく二つ。(1)財務会計や保険、開発管理など特定領域に強いスペシャリスト職、(2)専門性とチームマネジメント力をあわせもつコンサルタント職である。人事評価は、独自の能力基準である「expectation flamework」に照らし合わせて実施している。
ここ数年は、コンサルティング業界が成熟したことで、人材の開発の現場は変化の時期を迎えた。畠山聡子・人事グループシニアマネージャーは、「以前は、コンサルタントといえば、より付加価値のあるサービスを顧客に与えていく能力を自らが磨くのはあたりまえだった。現在もその必要性は変わらないが、それが難しくなった」と明かす。同社は5年以上前から人材開発プログラムの充実を図って、この課題に対処してきた。新人研修程度しかなかったプログラムは、100コース弱にまで増やして、毎日2コース程度を運営するまで拡充した。
グローバルレベルでの人材の見える化などを手助けする手段が、サクセスファクターズのクラウドベースのタレントマネジメントシステムである。社員プロファイルや学習管理システムを採用した。「人が資産の当社にとって、人材開発と従業員の情報は切っても切り離せない関係にある。採用時からのデータをすべて一貫して管理できるところが魅力だ」(畠山シニアマネージャー)。競争力に直結する人事評価システムは独自に開発しており、情報共有の役割をサクセスファクターズのシステムが担う。
2012年度の重点目標の一つは、「expectation flamework」のグローバルレベルでのさらなる浸透だ。畠山シニアマネージャーは、「グローバルで共通の基準ではあるが、解釈の仕方が各国で多少異なる。もっと共通化を推進する必要がある。すでにグローバルプロジェクトを多く手がけてきたので、きちんと明文化すれば難しいことではない」と話す。もう一つが、ソーシャルリクルーティングの活用だ。各国の拠点では新卒採用をしていなかったり、募集が少人数だったりする。畠山シニアマネージャーは、「海外ではSNSを通じて採用活動を展開するのがメインだろう。活用を検討したい」と展望を語った。
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