企業のグローバル進出やキャリア開発、ワークスタイルの多様化などの進展に伴い、人的資本を管理する「タレントマネジメント」のシステムに注目が集まっている。外資系ベンダーの日本市場への参入が相次ぎ、導入事例が現れてきた。
脚光浴びるタレントマネジメント
市場形成の本格化はこれから グローバル化への
対応急ぐ企業 タレントマネジメントのシステムとは、ワークフォース・プランニングや人材獲得、従業員パフォーマンス管理(EPM)、キャリア開発、後継者管理、学習・報酬管理などを包含するアプリケーションの統合スイートを指す。
サバ・ソフトウェアの尾藤伸一代表取締役は、「人事管理は1995年頃から導入が進んだが、これは人件費の管理や業務処理が中心で、“人づくり”の面が考慮されていなかった。これに対して人財管理(タレントマネジメント)は、上司らが勘でこなしていた組織開発などをシステムに置き換えるもの。そのため、売り込み先も人事・管理部門ではなく、経営企画、事業部門が対象となる」と説明する。
近年、企業は書類や文書管理ソフト、地域ごとの個別システムなどを利用してきた人事プロセスをよりいっそう自動化するタレントマネジメントの仕組みに関心を寄せ始めている。一部では、リクルート業務の効率化や配置転換などの動きを背景に、人材獲得やEPMを導入する機運が高まっている。優秀な人材を獲得する後継者管理の重要性も認識されるようになってきている。
日本でタレントマネジメントが脚光を浴び始めた要因の一つには、内需の縮小という事情がある。日本の企業にとって、グローバル化が喫緊の課題となっており、海外拠点で現地の人材を採用し、育成する機運が高まっている。プライスウォーターハウスクーパース(PWC)の臼井淳ディレクターは、「これまでは、国内の人材をそのまま海外に異動させたり、現地まかせにしたりして失敗するケースが多かった。グローバル人材の育成は始まったばかりだ」と指摘する。今や、企業にはグローバル化に対応する仕組みづくりが求められているというわけだ。このほか、競争激化や終身雇用制度の崩壊を要因として、中堅企業でもタレントマネジメントとは無縁ではなくなっている。
タレントマネジメント市場は、まさにこれから伸びる状況にある。調査会社ガートナージャパンは、「日本において統合スイートの導入が始まったのは最近のことで、事例の蓄積はそれほど進んでいない。今後、市場は大規模なスイートを購入する方向へ徐々に移行する」と予測している。
グローバルプロジェクトは70%以上がSaaSに 迅速かつ安価にシステムを導入したいと考えている企業にとって、クラウド・SaaSは有力な選択肢になっている。ガートナーの本好宏次・リサーチ部門エンタープライズ・アプリケーションリサーチディレクターは、SaaS市場は大きく伸びるとみている。「2015年までに、新たにタレントマネジメントを導入する日本のグローバルプロジェクトのうち、70%以上はSaaSになる」と予測する。
一方で、パブリッククラウドでの提供には慎重な見方もある。「タレントマネジメントは、毎日利用するような業務分野ではないし、SaaSであれば利用していなくても課金される。本格的に取り組むのであれば、オンプレミス型になるだろう」(SAPジャパンの南和気・ソリューション統括本部HCMソリューション部部長)。
2010年には米SilkRoad technologyが国内市場に参入しており、競争が激化する様相を示している。この特集では、外資系と国産ERPベンダー、タレントマネジメントスイートベンダーのそれぞれの動向を探った。
ガートナージャパンに聞く
ベンダー動向
スイート化指向の外資勢、
人事・給与ありきの国内勢  |
| 本好宏次ディレクター |
EPMの分野では、米SuccessFactorsがグローバルでのリーダー格。国内市場への参入も比較的早かった。近年は、EPMからスタートして学習管理(LMS)に手を伸ばしている。タレントマネジメントのミニスイートベンダーになってきているといえる。
昨年、国内市場に参入した米SilkRoad technologyは、EPMや人材獲得、キャリア開発に強く、SaccessFactorsと戦略の方向性が似ている。一方で米SabaSoftwareや米SumTotal Systemsは、LMSの分野で日本に早くから進出し、EPMにモジュールを拡張してきているという違いがある。
米Oracleや独SAPは、最初からフルスイートを目指して事業を推進してきた。ただ、タレントマネジメントは人事・給与ほどの販売実績はないし、最近までは機能強化にもそれほど取り組んではいなかった。そういう意味で、専業ベンダーのほうがビジョンや機能の面ではすぐれている部分がある。
国内ベンダーは、電通国際情報サービスの「POSITIVE」や東芝ソリューションの「Generalist」が代表的な製品として挙げられる。基本的には、人事情報を給与計算に利用するということを前提に、人材の“見える化”というキーワードを掲げ、人材評価や育成、ワークフロー機能を強化するなどしてきた製品だ。このほか、オービックビジネスコンサルタントの「採用奉行」など、ポイントソリューションがたくさんある。
国産パッケージの場合、SuccessFactorsのように、タレントマネジメントだけを導入するという事例はあまり多くないようだ。ワークスアプリケーションズの「COMPANY」は評価機能を実装しているが、タレントマネジメントに対する投資はほとんどみられない。Generalistは、人材の“見える化”を売りにはしているが、人事・給与の人事情報を活用するための付加価値として提案している。
人材の育成から教育、採用、後継者管理までのライフサイクルの実現にこそ価値があるとガートナーでは考えているが、国産パッケージはライフサイクルの一部しかカバーできていない。企業の要望に合わせてSIerがインテグレーションで応えていくのがしばらくは中心となっていくとみている。(談)
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