ゲームデザインの技術やメカニズムを他分野に応用する活動を、「ゲーミフィケーション」という。調査会社のガートナーは、その設計パターンとして、「設計、報酬、バッジ」「複数レベルの構造」「点数、単位」「競争」などを挙げる。任天堂の「Wii Fit」やタニタの「からだカルテ」、foursquare Labsの「foursquare」など、さまざまな分野ですでに応用例がある。

　コンシューマ向けでの利用の広がりを経て、企業向けではセールスフォース・ドットコムのソーシャルパフォーマンス管理ソリューション「Rypple」やシルクロードテクノロジーのタレントマネジメントシステム「SilkRoad Point」などが発表されている。「SilkRoad Point」は、個々の従業員の詳細なプロフィールや影響力を可視化。それぞれのすぐれている部分を全員で共有できる。このほか、実証実験レベルや未リリースにとどまっている製品も少なくない。ガートナーは、グローバル2000企業のうち70％以上の企業は、少なくとも何かしら一つはゲーミフィケーションの仕組みをもつことになると予測している。

　ゲーミフィケーションが脚光を浴びている理由は何なのか。日本IBMは、ゲーミフィケーションを活用してソーシャル・ネットワーキング・サービス（SNS）製品「IBM Connections」への参加モチベーションを高める研究に取り組んでいる。行木陽子・ソフトウェア事業Lotsuビジネス戦略エグゼクティブITスペシャリストソーシャルウェアエバンジェリストは、「例えば、『Connections』上に存在する良質なブログの内容を評価し、ポイント化する機能をつくっている。SNSではロングテールの傾向がみられ、非常に活発に利用する人がいる一方で、ほとんど利用しないという人が圧倒的に多い。ロングテールの部分を活性化するのが狙い」と説明する。日本IBMは、研究を通じてSNSの失敗要因の一つとして挙げられる従業員のモチベーション低下を防ごうとしているわけである。ゲーミフィケーションのポイントは、業績評価に結びつくなどの名目で与えられる動機ではなく、楽しいから進んでやるという内発的な動機を醸成することで、従業員の情報発信の活性化を促進する点にある。

　一方でガートナーは、「ユーザーエクスペリエンス（UX）の設計が難しい」「評価基準が不可欠」「ユーザーが仕事と遊びを混同する懸念」などの問題があると指摘する。ゲーミフィケーションを人事評価に利用する際には、ユーザー企業側に評価の仕組みの再考を促すことになるだろう。例えば、影響力がある従業員をどのように評価するのか、ということなどが考えられる。（信澤健太）