「クラウド」を意識して提案する パートナーなどとの連携を密に
有力NIerは、ここ1年ほどの間、サービス事業を展開するための基盤の構築や販売網の強化に取り組んできた。今年後半から、事業展開のスピードをさらに上げて、売上拡大を目指している。
NIerがサービス事業を展開するにあたっては、DCが重要な位置を占める。
双日グループの日商エレクトロニクス(日商エレ)は、2011年半ばにDC事業に参入し、ここ1年の間に全国3か所でDCを建設してきた。2011年11月に大阪市の堂島に第一センターを開設したのを皮切りに、今年6月に横浜市、9月には北海道の石狩市にDCを開設。これらを利用して、ユーザー企業のシステムを預かるハウジングサービスを提供し、震災などによって一つのDCが被害を受けても、他のセンターでリモートバックアップを行ってデータを守る「DC分散サービス」を商材のメニューに加えている。
2011年3月の東日本大震災の発生をきっかけとして、大手をはじめとするユーザー企業は、BCP対策の必要性を真剣に捉え、緊急対策として、これまで首都圏に集約してきたDCを全国各地に分散しようとした。NIerは、こうしたDC分散のニーズの高まりをサービス事業を立ち上げる商機とみて、ネットワーク構築に長けているNIerならではのナレッジを活用し、複数のDCを連携させて、バックアップ用のDR(災害復旧)サイトを構築するサービスを投入している。
●クラウド基盤を共通化 
三井情報
サービス事業本部
渡辺卓弥副本部長 三井グループのNIerである三井情報も、DC事業を体系化している。同社は、2011年の夏、北海道にDCを運営するほくでん情報テクノロジー、岐阜県の電算システム、大阪府のケイ・オプティコム、沖縄県のファーストライディングテクノロジーの4社のDC事業者と提携し、東京にある自社のDCと組み合わせて、各社センターをDRサイトとして利用するハウジングサービスの提供を開始した。
三井情報のサービス事業本部・渡辺卓弥副本部長は、「この1年は、大手に加え、中堅企業もDR対策に取り組み始めたこともあって、引き合いが予想よりも多かった」と、ユーザー企業が着実に増えて、サービスの提供が順調なスタートを切ったと語る。

三井情報
DCサービス営業部
布施純一氏 現場でDCサービスの提案活動を担当している三井情報のサービス事業本部DCサービス営業部の布施純一氏は、ユーザー企業に対して、「システムをDCに移せば、DR対策につながるだけでなく、DCでのクラウド環境を活用することでシステムを柔軟に拡張できるなど、クラウド利用によるメリットも大きい」と訴求している。昨年から利用が加速しているクラウドのニーズを強く意識して、提案活動を進めている。三井情報は、今後、パートナー4社との連携を強化し、各DCのクラウド基盤を共通化することによって、共同クラウドサービスの提供を目指す。
パートナーと提携し、DCサービスの事業拡大に取り組んでいるのが三井情報だ。これに対して日商エレは、グループ会社間の連携を強めることによって、サービス事業を伸ばそうとしている。今年7月に、本社を東京・築地から麹町に移転したのを機に、DCサービスを提供するグループ会社であるNCI(旧インフォリスクマネージ)のオフィスを同じビル内に移した。グループ会社の従業員を同じ場所に集約し、共同ミーティングなどを通じて、連携の強化を推進しているわけだ。

NCI
宮倉雅史取締役 日商エレグループのDCサービス事業は、日商エレ本体が営業や技術、DCのリソースをNCIに提供し、NCIはそれらのリソースを活用するかたちでサービスの開発やオペレーション(運用)を行い、本体と連動している営業活動を展開する、という形態になっている。本体の技術ノウハウなどを、従業員数約150人で、柔軟に動けるNCIに融合し、大手企業やシステムインテグレータ(SIer)を中心とする市場開拓を狙う(図3参照)。
昨年、日商エレでDCビジネスを立ち上げ、現在はNCIの取締役を務める宮倉雅史氏は、「グループとしての力を発揮し、5年後にDCサービス事業の売り上げを50億円に引き上げたい」と考えている。
●NTTの販社を通じて展開 DCの需要拡大やクラウド利用の増大に刺激されて、かたちになりつつあるNIerのサービス事業。NIer各社は、商材を揃えると同時に、販売方法が従来型ビジネスと大きく異なるサービス事業に対応するために、急ピッチで販売体制の強化に取り組んでいる。
クラウド型のパソコン遠隔制御サービス「DESKTOP+Plus」をサービス事業の注力商材としている兼松エレクトロニクス(兼松エレ)は、この製品を販売するために、大手企業を得意とする自社の営業部隊に加え、中堅・中小企業(SMB)市場に強いパートナーを全国規模で獲得した。
同社は、大手企業を中心に、この1年で「DESKTOP+Plus」のユーザー企業をおよそ150社に増やしてきた。そして、さらなる拡大を図る「DESKTOP+Plus」の新たな販売モデルとして、今夏、「DESKTOP+Plus」を西日本電信電話(NTT西日本)のインターネット接続サービス「フレッツ光」と、NTT東日本の企業向けクラウドサービス「Bizひかりクラウド」のサービスメニューに追加した。全国各地のNTT販売会社を通じて、NTTのサービスに組み合わせるかたちでSMB向けに販売していく。

兼松エレクトロニクス
マネージメント
サービス本部
南埜滋本部長 兼松エレのマネージメントサービス本部の南埜滋本部長は、「『DESKTOP+Plus』をはじめとするサービス事業は、案件の規模が大きくなってきているが、これまでは販売体制が十分に整っていなかった事情もあって、当初の計画よりも1年くらい遅れている」という。そうした状況にあって、今回、NTTの販売会社に売ってもらうモデルの採用によって、これまで入り込めなかったSMB市場を開拓し、サービス事業を拡大していく。
南埜本部長は、「新しい販売体制を築いたこともあって、向こう数年で1000社のユーザー企業を獲得したい」と意気込む。
●他社とのコラボを推進 
東京エレクトロン デバイス
CNプロダクト本部
林英樹本部長 パートナーと組むことは、販売面に限らず、独自性の強いサービスを実現する製品開発の面でも、有効な戦略となる。
「Greenplum Database」など、データベース(DB)エンジンの提供を強みとする東京エレクトロン デバイスは、あらゆる情報を分析して経営改善に活用する「データ解析ソリューション」の需要が高まっているとみて、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールのベンダーと提携する。これによって、DBエンジンとBIツールを組み合わせて、東京エレクトロン デバイスが技術サポートを行うサービスとして提供することを目指している。
東京エレクトロン デバイスCN事業統括本部CNプロダクト本部の林本部長は、「他社とのコラボレーションは、現在、提案フェーズに入っており、各パートナーとの話を進めながら、向こう半年から1年で実現する」と、方針を語る。
記者の眼 NIerのサービス事業は、1年前と比べて確実に進捗している。サービス基盤や販売体制ができており、これからは、営業活動に力を入れて実際に導入実績を上げることを目指している。サービス・サポートの展開は、機器の販売と異なり、「人のスキルに尽きる」(某NIer幹部)。そうしたなかで、NIerは、コンサルティングをはじめとする専門職の人材を増やし、他社にはない独自のスキルを培うことによって差異化を図ることが、ビジネスを展開するうえでのポイントとなる。