2011年3月11日の東日本大震災。地震や津波によって被害を被った仙台と、データセンター(DC)の分散などによって間接的にインパクトを受けた大阪のITベンダーに取材した。この1年半でビジネスはどう変わったのか、今後どう動くのか──。震災後のビジネス展開をレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
被災地ではビジネスの見直し
関西ITベンダーはDC事業に力を注ぐ
2012年9月11日、東日本大震災の発生から1年半が経った。宮城県のJR仙台駅を訪れて、券売機の上部にある乗車料金を表示する路線図を見ると、津波によって流されてなくなった沿岸部の駅名が黒く塗りつぶされている。仙台市の郊外に足を向けると、ところどころに、被災地から避難した人々が暮らす仮設住宅がある。未曾有の地震と津波がもたらした被害は、現在も東北地方の生活のあらゆるところに影を落としている。
仙台をはじめ、東北地方に本社を置くITベンダーは、東日本大震災の影響をもろに受けて、多くの地場ベンダーにとってのコア事業である受託ソフト開発案件が減少している。受託ソフト開発は、中国でのオフショア開発が進み、すでに震災前から右肩下がりの傾向にあったが、震災をきっかけとして、ITベンダーはビジネスモデルの転換を余儀なくされてきた。
●ハウジングに手応え 東北のITベンダーが方針として掲げているのは、「能動的に動く」ことだ。ユーザー企業も、ITベンダーと同様、震災によって大きく変わった市場環境に対応するために、事業のテコ入れを行っている。そうしたなかで、例えば顧客情報を分析して新規事業の立ち上げに生かすなど、データ解析ができるITツールに関する需要が高まっている。ITベンダーは、こうした需要を読み取ってソリューションを積極的に提案。ユーザー企業の再起を支援するかたちで、案件を獲得するチャンスが出てきているのだ。
震災がITベンダーの事業にインパクトを与えたのは、被災地である東北地方に限ったことではない。震災の発生直後から、BCP(事業継続計画)が注目を集めるようになった。情報システムを自社からデータセンター(DC)に移したり、DR(災害復旧)サイトを構築したり、ユーザー企業はBCP対策の一環として、DC利用とDC分散の重要性を認識するようになってきた。そんな状況下で、震災発生のリスクが低いとされる関西地区では、ITベンダーがユーザー企業のサーバーをDCで運用・監視するハウジングサービスの需要が活発化。DCを運営する関西ITベンダーは、ハウジング事業に確かな手応えを感じているようだ。
●<注目のBCPは本当にビジネスになるのか ノークリサーチのデータから実態を読む> DCの利用を含めて、震災や停電が発生した際に事業を継続するための対策を規定するのが、BCPだ。東日本大震災をきっかけとしてBCPが話題を集めたことは間違いないが、ハウジング以外は、実際にITベンダーの受注につながったケースはまだそれほど多くない。とくに、中堅・中小企業(SMB)では、BCPソリューションの導入がなかなか進まない、といった話をよく聞く。
SMBのIT調査に強いノークリサーチは、今年2月から3月にかけて、全国の年商500億円未満の企業を調査対象として、「事業継続を実現するためのIT活用の状況」についてたずねた。IT活用とは具体的に、データのバックアップや遠隔地へのシステム複製(DRサイト構築)などの対策を指す。岩上由高シニアアナリストは、調査結果を踏まえて、「SMBは震災以降、災害を想定し、それに対してどこまで対処するかを明確にしたうえで、BCPに取り組む必要性を強く意識するようになった」とみている。
年商規模別のニーズをみると、50億円以上の企業では、60%以上がBCPを実施しているか、または準備を進めていることがわかる。小規模企業はBCPの導入が難しいだろうが、年商が大きくなればなるほど、BCPに関するニーズが高まる傾向にある。
岩上シニアアナリストは、「ITベンダーはSMBに対して、『地震による被害への対処のみとするのか、その後に起きる停電まで考慮するのか』とか、『1日以内の復旧を目指すのか、数日間業務が停止する状況もやむを得ないとするのか』といった経営判断を汲み取り、提案を行うことが必要となる」と指摘する。
[次のページ]