東日本大震災後の計画停電や節電の対策の一つとして再浮上したのが在宅勤務だ。その実施に向けて、自宅にオフィスと同程度の環境を整えるためのIT製品・サービスが注目を集めたが、1年が経過して果たして伸びたのかどうかが気になるところ。そこで今回は、本紙2011年4月11日号(vol.1378)で「在宅勤務」をテーマに取り上げた製品・サービスの1年後を検証する。全体的には、在宅勤務のニーズが高まりつつあるという印象だ。(文/佐相彰彦)
figure 1 「ウェブ会議」を読む
2020年には8000億円の大規模市場へ
在宅勤務の社員が出社しなくても、遠隔で会議が実施できる製品・サービスとして挙げられるのがビデオ・ウェブ会議システムだ。調査会社のシード・プランニングによれば、2011年の国内市場規模は約350億円の見込みという。2010年は328億円だったので、若干の増加となる。2011年は、夏に実施するといわれていた計画停電が中止になったほか、多くの企業が休日出勤を活用しながら夏休みを増やして電力消費のピーク時にオフィスで電気を使わない活動に取り組んだ。また、在宅勤務を取り入れるためには企業がワークスタイルを大きく変革しなければならないことも、ビデオ・ウェブ会議システムの普及には足かせとなったようだ。ただ、シード・プランニングでは、ウェブ会議が年率120~130%で成長するなど、各製品・サービスが堅調に推移すると分析しており、2016年には2010年の2倍程度、610億円に伸びると予測。また、クラウドやビデオチャット市場を含めると、2020年には8000億円の市場規模にまで膨れ上がると分析している。
国内ビデオ・ウェブ会議関連製品・サービスの市場規模予測
figure 2 「ストレージサービス」を読む
クラウドの堅牢性に高い評価
DR(ディザスタリカバリ、災害対策)の観点から、データを社内に保有せずにクラウドサービスを利用したいというニーズが高まりつつある。在宅勤務を実施するうえでも、データを共有できる点で有効だ。調査会社のIDC Japanは、東日本大震災がクラウドサービスの堅牢性を知らしめるきっかけとなって、「Storage as a Service」を利用したデータ保護の需要喚起につながったとみる。2011年の市場規模は265億4700万円(前年比17.4%増)の見込み。2010年から15年までの年平均成長率を10.3%、15年の市場規模を369億円とみている。なかでも、オンラインバックアップサービスのなかに、間接販売を軌道に乗せつつあるものが複数現れており、今後、国内データ保護ソリューション市場で一定の地位を確保する可能性があるという。またIDC Japanでは、ファイル共有サービスの市場にも変化が出てきており、モバイルでのデータ共有やセキュリティなどの機能強化が進んで、市場が再び活況を呈すると予測している。
国内Storage as a Serviceの市場規模実績・予測
figure 3 「クライアント仮想化」を読む
在宅勤務の需要で市場は拡大傾向に
在宅勤務に注目が集まるのと軌を一にして、クライアント環境の仮想化ニーズが高まっている。IDC Japanは、2011年の国内クライアント仮想化ソリューション市場は2463億円(前年比30.1%増)となり、2015年には6754億円まで拡大すると分析。加えて、10年から15年までの年平均成長率を29.0%と予測している。クライアント端末の仮想化導入率は、11年が16.5%、15年に38.4%まで到達するという。今後は、BCP(事業継続計画)やDR(災害対策)でも仮想化の実装がますます拡大するとみられる。国内のクライアント仮想化ソフトウェア市場については、11年で92万8268ライセンス(前年比25.7%増)になる見込み。15年には、254万4858ライセンスまで増加するという。なかでも、デスクトップ仮想化が高い成長率で推移し、15年には114万4682ライセンスに達し、クライアント仮想化のなかで45.0%の割合を占めるとしている。IDC Japanでは、国内のシンクライアント専用端末の出荷台数については11年に20万6166台(前年比13.5%増)、12年に27万7668台(前年比34.7%増)、15年に44万8782万台に達すると見込んでおり、ターミナルクライアントとシンクライアント端末を合わせて54万台を超えるとみている。ユーザー企業は、IT資産を仮想化技術を生かしてフル活用し、先行き不透明な時代を乗り切ろうとしている。
国内クライアント仮想化の導入率予測
figure 4 「モバイルデバイス」を読む
スマートデバイスは爆発的な伸び
在宅勤務に欠かせないのが、いつでもどこでも業務をこなせるモバイルデバイスだ。セキュリティの観点から、モバイルデバイスの支給には消極的な会社が多いようだが、徐々にではあるもののスマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスを支給するケースも出てきた。実際、法人向けでプラス成長が見込めるとIDC Japanでは予測している。2011年のスマートフォン出荷台数は、前年の約3.6倍にあたる2010万台となり、この結果、全携帯端末の出荷台数に占めるスマートフォン比率は53.0%まで達した。12年以降も、スマートフォン出荷台数はプラス成長を維持し、12年には一気に3113万台と、3000万台規模にまで拡大するという。タブレット端末に関しては、11年の出荷台数が225万台(前年比173.9%増)といった大幅なプラス成長を記録。12年も、個人と法人ともにプラス成長で333万台になる見込みだ。16年には、スマートフォン市場が3699万台、タブレット端末市場が579万台に達するという。一方、ノートPCなどクライアントPC市場に関しては厳しい状況。11年のPC出荷台数は、1525万台(前年比3.6%減)だった。今後は在宅勤務にスマートデバイスを利用する企業が多くなると見込まれるので、これに対応するアプリが充実していくことが予想される。
国内スマートフォン出荷台数予測