2012年、IT業界には多くのトピックが生まれた。クラウド時代の到来やビッグデータビジネスの台頭、スマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスの急速な普及などなど。仮想化環境も、依然として拡大が続いた年だった。ITベンダーにとっての過渡期が訪れているということだが、2013年、時代や市場環境に即したビジネスを手がけていくことがポイントになる。そこで『週刊BCN』では、ハードウェア、ソフトウェア、情報サービス、ネットワークの主要4分野にフォーカスし、各分野で“売れるキーワード”を掲げて、有望なIT商材は何なのかを予測する。
(取材・文/木村剛士【ハードウェア編】、信澤健太【ソフトウェア編】、安藤章司【情報サービス編】、ゼンフ ミシャ【ネットワーク編】 構成/佐相彰彦)
【ハードウェア編】
スマートデバイスとパソコンが伸びる
Windows XPのサポート切れも追い風に
<売れるキーワード>
・スマートフォンとタブレット端末の法人需要
・「Windows XP」のサポート切れ
・「Windows 8」の登場
2013年、ハードウェアで注目を集めるのはクライアント端末だ。スマートフォンとタブレット端末など、スマートデバイスが企業にじわじわと浸透することが予想される。「Windows 8」が登場したことと、企業の利用率が高いといわれる3世代前のOS「Windows XP」のサポート切れが2014年春に迫っていることで、パソコンの買い替え需要も盛り上がりそうだ。13年は、ここ数年では記憶にない「クライアント端末がIT産業を盛り上げる」という現象が期待できる。
●スマートデバイスが浸透し
16年度に4000万台超 スマートデバイスは、複数のIT調査会社が中期的に右肩上がりのカーブを描いた予測を発表している。スマートデバイスの市場調査を得意にしているICT総研は、12年6月にスマートデバイスの出荷台数の予測値を発表。12年度(13年3月期)は、3087万台になるとした。これは10年度に比べて3.3倍。この2年で爆発的に普及したことがわかる。13年度以降も前年度を上回り続け、16年度には4210万台に達するとしている。
出荷台数を個人と法人でみると、個人が圧倒的に多く、この先も個人需要が市場をけん引しそうだが、伸び率でみると法人が上回っている。スマートデバイスが企業・団体に浸透するのは間違いなさそうだ。
一方、パソコンの需要も期待できる。タッチ操作に適した「Windows 8」は、法人で活用する場合、検証作業に時間がかかるので、すぐに需要を生み出すとはいい難いが、話題性は十分ある。13年後半にニーズが顕在化するとみられる。また、Windows 8の登場以上に需要促進の大きな要因になりそうなのは、Windows XPのサポートが2014年4月に終了することだ。日本では、企業がWindows XPを利用する割合が諸外国よりも大きい。日本マイクロソフトの関係者は、「法人の約70%がWindows XPを利用している」とみる。これが事実ならば、多くの企業がWindows 7もしくはWindows 8を搭載した新しいパソコンに移行する可能性が高い。
端末の買い替えは、単に新端末を提案するだけでなく、最新の端末管理ソフトの導入を促したり、新たなアプリケーションソフトを提案したりすることができる機会となる。
サーバーOSの最新版「Windows Server 2012」も2012年秋に登場しており、端末とサーバーの環境を刷新する提案が受け入れられる可能性が高い。
●逆襲なるか、マイクロソフト
新OSで積極的に地方を開拓 スマートデバイスの領域で、目が離せないのがマイクロソフト。パソコンでは、独占的なポジションを維持し続けているが、スマートデバイスではアップル、グーグルの足下にも及ばず、明らかに後塵を拝している。どう打開するか。Windows 8という切り札の発売を実現したからこそ、2013年の動きが気になる。
マイクロソフトは、13年にオフィスソフト「Office」の最新版をリリースする予定。クラウドをかなり意識したもので、スマートデバイス、パソコン、そしてクラウドをつなげたソリューションの提案に力を入れるはずだ。
また、販売戦略では地方の中堅・中小企業(SMB)に向けたビジネスの強化を目的として、「Discoverキャンペーン」と題する施策を13年1月中に開始する。全国47都道府県、ユーザー5万社の参加を目標に、Windows 8とOffice、Office 365などを使ったシステム・サービスを提案するセミナーを、13年6月までの半年をかけて実施する。また、日本マイクロソフトの6地方支店は、各地域のパートナーと共同営業部隊を設置して、地域に密着した営業策を講じる。
日本マイクロソフトの場合、スマートフォンに関しては、いまだ魅力的な製品は見当たらないが、タブレット端末とパソコンに関しては、製品のラインアップ、営業体制ともに整えてきた。追い風が吹く端末市場で、けん引役を担うのは間違いなさそうだ。
【ソフトウェア編】
小規模企業・個人事業主への販売が伸びる
チャネルとして再び高まる会計事務所の重要性
<売れるキーワード>
・小規模企業・個人事業主向けが活況
・会計事務所をチャネルとする販売網
・クラウドサービスが収益のプラスαを生む
小規模企業・個人事業主向け市場では、さまざまな業務アプリケーションベンダーが入り乱れて製品・サービスを提供しているが、主要な販売チャネルの違いによって、ある程度の棲み分けができていた。販売チャネルは大別して、SIer系、家電量販店系、そして会計事務所系の三つ。小規模企業・個人事業主向け市場が今後も伸びることが予想されるなか、新たな動きとして、ベンダー各社は会計事務所の重要性を改めて意識しており、販売チャネルとして確保しようとする動きがみられる。
●新製品発売で市場開拓を本格化
販売チャネルの“越境”も 業務アプリベンダーが、小規模企業・個人事業主向けの新製品を投入する動きがあわただしい。小規模企業・個人事業主を新規顧客として開拓することに本腰を入れようとしている。
2012年初頭に、まずオービックビジネスコンサルタント(OBC)が小規模企業の自計化を支援する「奉行Jシリーズ」を発表。すでに発売していた小規模企業向け「奉行Jシステム」をOBCが販売チャネルとして確立しているシステムインテグレータ(SIer)経由で販売し、「奉行Jシリーズ」は会計事務所を通じて販売するという戦略を打ち出した。
TKCは、12年4月、年商1億円未満・従業員10人以下の小規模企業を対象とした「e21まいスター」の提供を始めた。会計・給与・請求書発行の機能に加えて、ネット家計簿サービスやホームページ作成ツールなどを実装する。12年12月には、「e21まいスター」の一部機能を省略して個人事業主にも提供を開始。「e21まいスター」は、提供から6か月間で導入企業が7000社を超えた。
弥生は12年9月、対象を小規模店舗の経営者に特化したクラウドサービス「やよいの店舗経営 オンライン」を発表。「『弥生会計』が使えない人でも使える」として、日報代わりに入力すれば半自動的に会計事務所で仕訳ができる仕組みを用意している。会計ソフトの利用(自計化)と会計事務所への丸投げという二つの選択肢の中間に位置する“半自計化”を謳う。メインのチャネルに据える家電量販店ではなく、会計事務所パートナーである「PAP会員」を経由して販売している。
ミロク情報サービス(MJS)は12年12月、小規模企業・個人事業主向けに「ミロクのかんたん!シリーズ7」を発売。全国8400の会計事務所を経由して提供している。
これら主要ベンダーに共通するのは、会計事務所をチャネルとしてフルに活用している点だ。強力な会計事務所パートナーを抱えるTKCやMJSだけでなく、家電量販店やSIerなどのチャネルを中心に据える弥生やOBCにとっても会計事務所の重要性が高まっており、販売チャネルの“越境”が起きている。
●会計事務所が顧問先のIT化に動く
「経営支援の担い手」になる ベンダーからの働きかけだけではなく、会計事務所自身が、中小企業や小規模企業、個人事業主など顧問先のIT化を促進する動きも徐々に目立ってきた。会計事務所が組織する「IT税理士ネットワーク」は、ITを活用する企業の業務改善・効率化、業績アップを支援するために、毎月1回程度の勉強会・交流会を開催している。「Google Apps for Business」をはじめ、クラウドベースのチャットツールである「ChatWork」や「Skype」を推奨している。クラウドを武器に、顧問先に付加価値を提案しているのだ。
12年6月、税理士などを中小企業の財務経営力の強化・支援の担い手とみなす「中小企業経営力協力支援法」が成立した。TKCは、これまで「税務と会計の専門家」とされてきた税理士が「経営支援の担い手」として認定されたことを意味するという。単なる税金の計算ではなく、付加価値のある高度な提案が税理士に期待されている。
国内企業の自計化は、遅々として進まなかった。従業員20人未満の小規模企業は約366万社に及ぶ。売上規模の小さい企業の数は年々増加している一方で、売上規模が高くなると企業数は減少に転じる。小規模企業・個人事業主がIT化を実現する余地は大きいだけに、会計事務所の果たす役割は重要となる。ベンダーにとっては大きな商機が眠っている市場として、会計事務所に改めて注目が集まっている。
[次のページ]