国内の有力ITベンダーは、2013年度以降の海外での取り組みとして、ASEAN(東南アジア諸国連合)を重要な市場とみなして経営資源を投入しようとしている。富士通(山本正已社長)など、複数のITベンダー社長が同趣旨の方針を明言している。ASEAN地域は、市場の成長が堅調なことから注目されてきたが、13年度以降は、いよいよ動きが活発になりそうだ。日系企業の多くがASEAN地域に進出していることや、国内経済の先行きが不透明なことが背景にあり、ITベンダーは、海外事業を拡大して安定的な収益を上げることを狙いとしている。
国内ITベンダーの多くが、来年度からASEAN地域への取り組みを加速する。
例えば、富士通の山本社長は、「13年度以降、海外でとくに伸ばすのはASEAN地域だ。集中的に投資をかけていく。年ごとに2倍の収益を上げられるようにしたい」と最重要地域と定めている。
また、電通国際情報サービス(ISID)の釜井節生社長は、早い段階でインドネシア、タイの営業拠点の開設を検討してきたという。釜井社長は、「ASEAN主要国が情報サービスの市場として十分なボリュームに達しつつあり、現時点ではシンガポールにしか置いていないASEAN地域の拠点拡充を急ぐ」と話す。
さらに、DTSの西田公一社長も、「13年度中には、タイあるいはベトナムに足がかりとなる拠点を開設したい」と、進出に意欲的だ。
そのほか、TISの桑野徹社長や、富士通システムズ・イーストの石川享社長、NECフィールディングの伊藤行雄社長などが、ASEAN市場に対して積極的な発言をしており、13年度以降は同地域への進出がトレンドになるとみられる。
ASEAN市場は、2011年の成長率が4.6%(IMF)と成長が期待される地域だ。外務省の調べによれば、国民一人当たりGDPは、日本の4万5903ドル、中国の5430ドルに対して、ASEANは3571ドルで、人件費が安い。このような事情があって、日本の製造業、小売業などが積極的に進出している。ITベンダーは、これら「ユーザー企業のASEAN市場におけるITサポートを求めるニーズが増え続けている」(DTSの西田社長)ことから、そうしたニーズに応える目的で進出する姿勢をみせている。
ただ、ASEAN地域への取り組みを加速するといっても、中国など、他の海外事業からシフトチェンジするわけではない。例えば中国については、昨今の政治問題を懸念する声が多いものの、「これまで通り、日系企業を中心とした事業を展開する」(富士通の山本社長)、「今までのペースで加速させていく」(NECフィールディングの伊藤社長)というように、中国事業を縮小する動きは顕在化していない。ただ、「地場企業への投資は、リスクを背負わないかたちにして、安全の確保を優先する」(山本社長)というように、現地地場企業への取り組みには慎重な姿勢だ。それよりも、問題なのは日本経済の状況で、GDP成長率が2011年はマイナス0.8%(IMF)、IT市場のCAGRが11~16年は0.7%(IDC Japan)と先行きが不透明なことが、ASEAN地域への取り組み加速の一因になっているものと推測できる。
中国と同様に、ASEAN地域では、「日系企業ベースで伸ばし、将来的には地場企業に攻める」(山本社長)、「将来的には、蓄積したノウハウをソリューション化して、地場産業に展開する」(石川社長)という意見が多い。日系企業から徐々に地場企業へターゲットを拡大するという流れは、BtoB分野での海外展開の基本であることから、日系企業の海外進出地域がITベンダーにとっての重点攻略地域になることは間違いない。(真鍋武)