シスコシステムズや日本アバイアなどの通信系メーカーは、ユニファイドコミュニケーション(UC)商材の訴求に力を入れている。メーカーがUCの活用による「ワークスタイルの変革」を訴えるなか、UC製品の販売を手がけるインテグレータはどのような動きをみせているのか。販社に取材し、提案活動で苦労している点や工夫を凝らしていることなどを探った。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
【10秒でわかる「UC」】
UCとは、電話やメールなど、社内外コミュニケーションのツールを統合する技術基盤のこと。固定電話やパソコンに頼らず、多数のツールを組み合わせることによって、場所を問わず、自由にコミュニケーションを取ることができる。最近は、専用機器が不要で、iPadなどのスマートデバイスで利用できるUC製品が登場している。高額だった導入コストも下がり、使い勝手がよくなっている。
販社は先駆けてUCを活用
自社の経験を提案に生かす
「ちょっといいですか。私はむしろこうしたほうが得策だと考えています」。ICT(情報通信技術)ベンダーであるエス・アンド・アイの役員会議で、東京本社と大阪支社との間の議論が活発になっている。ビデオ会議を導入し、お互いの顔を見ながら気軽に発言できるようになった成果が現れているのだ。
同社は以前、電話を使って東京・大阪間の遠隔会議を開いていた。しかし、電話では相手の顔や動作が見えないので、どのタイミングで口をはさめばいいかがわかりにくい。そう捉えたエス・アンド・アイは、音声に加えて、ビデオの活用を決定した。会議の参加者を大画面に映し、発言しやすい環境をつくった。おかげで積極的に意見を述べるメンバーが増え、議論が活発になった。
音声やビデオ、メールといったツールを組み合わせ、統一のインターフェースで提供するユニファイドコミュニケーション(UC)は、スマートデバイスの延長線で提案することができる商材として注目を集めている。メーカーはUC製品のスマートデバイス対応を実現し、ユーザー企業は高価な専用機器を導入することなく、手持ちのスマートフォンやタブレット端末だけでUC機能が利用できるようになっている。
●Wi-Fi環境の強化が課題 通信系メーカーが訴える「ワークスタイルの変革」は、まず、UC製品を取り扱う販売会社が自社で実現するのが成功への近道だ。エス・アンド・アイをはじめ、UCツールを社内で試してみて、それを踏まえてユーザー企業に業務の改善につながる活用シーンを提案するインテグレータが増えている。社員が個人所有の端末を会社に持ち込み、ビデオ会議などに使う「BYOD=Bring Your Own Device」を許可するIT販社も増加中だ。
このように売り手が率先してUCを導入し、自社の経験を客先に判断材料として提供する動きが、マーケットを刺激している。調査会社のIDC Japanによると、国内のUC/コラボレーション市場は2016年までに年平均成長率3.3%で伸び、およそ2234億円に拡大することが見込まれている。
しかし、UCを広く普及させるためには、まだ高い壁がある。高速データ通信に欠かせないWi-Fi環境が、十分に整っていないことがそれだ。昨今のUC製品は、外出先で使うことができるという「モバイル活用」を訴求ポイントとして前面に押し出しているが、「Wi-Fi環境の不備がネックになって、場所によってビデオ機能が使えないので、提案しにくい」との声を聞く。通信キャリアが早いうちにWi-Fi環境の充実を図り、全国各地で漏れなく高速データ通信を可能にすることが先決問題だ。
次項からは、UC製品を取り扱っている販社の奮闘ぶりをレポートする。ユーザー企業にUCの活用をアピールする売り手の姿を追う。
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