データセンター(DC)需要が活発化するなか、一方で競争も激しさを増している。DC事業者は、建設コストを削減するコンテナ型のDCや斬新な空調システムによる省エネへの対応を強化し、競争力の向上に全力を挙げている。この特集では、DC事業者の動きを追っていき、DCの進化ぶりを明らかにする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
急ピッチで進むDCの省エネ化
運用コストの削減は生き残りのカギ
DCビジネスは、もはや単なる“倉庫売り”ではない。狭いスペースを生かしてITシステムを効率よく構築するための専門知識が求められるのは当然として、空調システムや防災・免震の仕組みに関するノウハウも、これまで以上に求められている。ITベンダーは、DCの構築ノウハウを蓄積し、いかに運用コストを引き下げることができるかが問われる。
DCの省電力化は、米国などの先進国で数年前から進んできた。日本ではどうか。2011年11月にさくらインターネットが外気を取り入れて冷却コストを大幅に削減するタイプの北海道・石狩DCの運用を開始するなど、わが国にも事例が生まれつつある。今年に入って、日本各地の電力事情がひっ迫する情勢にあって、DC事業者はいっそうの省電力化に力を入れている。
●低いPUE値を訴求ポイントに DCの省電力化は、DC運用コストの削減、すなわちDCサービス料金の値下げにつながり、競争力を高めるための不可欠な取り組みとなる。電力料金は、DCの運用コストのなかで非常に高い割合を占めており、日本データセンター協会(JDCC)が加盟事業者にヒヤリングした平均値は32%を超えているという。この数字からすれば、DC内のエネルギー使用を抑えることは、DC事業の収益を高めることにつながり、ベンダー間の激しい競争のなかで生き残るカギを握ることになる。
こうした事情から、話題に上っている東京電力の電気料金値上げに、DC事業者は強く反発している。東京電力は、自社の経営改善を図るために、法人顧客向けの電気料金を平均18%引き上げるとぶち上げており、電気を大量に使うDC事業者にとっては大きな打撃となる情勢である。
今年2月、JDCCが指揮をとって東京電力に要請書を提出し、電気料金値上げに対する抗議の意を表明した。要請書では、事業者はDCの利用料金を現状のまま維持することを目指しているとして、DCがIT社会で担う役割に応じた料金体系の設定を求めている。JDCCの要請は、現実的にはどれほどの効果を現すか──。それはそれとして、個々のDC事業者にとっては、DCの省電力化に本腰を入れて取り組むことが喫緊の課題となっている。
DCの省電力化を図るには、複数の方法がある。主には、(1)サーバーやストレージなど、DC内のIT機器の消費エネルギーの削減を図る、(2)空調システムをはじめとするDC設備の消費エネルギーを減らす──という二つの方法だ。
IT分野の業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)のグリーンIT推進協議会は、この二つを合わせて、IT機器と設備を含め、DC全体の電力効率を指す省エネ指標「DPPE(Datacenter Performance Per Energy)」を推奨している(図1参照)。IT業界では、設備のエネルギー効率を表す「PUE(Power Usage Effectiveness=電力使用効率)」が、DCの省電力化のスタンダード指標として普及が進んでいる(PUEの詳細については、16面の「いまさら聞けないキーワード」を参照)。
DC事業者は、自社センターのPUE値が低いことを前面に打ち出して、DCサービスの提案活動を行っている。
●日本にもコンテナ型DCが登場 DCの省電力化を実現するために、DC内のIT機器や設備の電力効率を向上するだけでなく、建設の段階で、DCそのものを斬新なタイプにするという手もある。新型DCの代表として、昨年から日本に登場し始めているコンテナ型DCがある。コンテナ型DCは、地面に構築物を建設せず、ITシステムをコンテナの中に設置し、需要に応じてコンテナの数を増やしていくというものだ。建設コストが安く、拡張性にすぐれている。さらに、コンテナがサーバー室となることから、ビル型DCに比べて空調システムなどによるエネルギー使用を抑制しやすい。
DC先進国の米国では、クラウドサービス大手のグーグルが2005年頃からコンテナ方式を採用し、DCを構築している。一方、これまでビル型DCが主流だった日本では、2011年4月にICT(情報通信技術)ベンダーのインターネットイニシアティブ(IJJ)がクラウドサービス「GIO」の基盤として開設した島根県・松江DCが、大型コンテナDCとして初の事例となる。
次ページからは、IIJの松江DCをはじめとして、DCの進化をリードするベンダーに焦点を当てて、最新の取り組みを紹介する。
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