2014年は、クラウドのさらなる普及が見込まれる。ITベンダーは、どのようなクラウド商材を提案すれば、市場の可能性をものにすることができるのか。クラウドインテグレータ(CIer)とシステムインテグレータ(SIer)のそれぞれにスポットを当てて、クラウド構築やクラウドストレージなど、注目を浴びる製品・サービスを紹介し、新しい年の商機を探る。(取材・文/ゼンフ ミシャ、安藤章司、本多和幸)
【CIerとSIerの違い】
SIerならではのクラウドを追求
得意業種の横展開で競争力を高める
●SIerの弱点を突くCIer クラウドインテグレータ(CIer)とシステムインテグレータ(SIer)は、ともにクラウドのシステム構築を手がけるベンダーだが、いくつかの相違点がある。狭義のCIerは、クラウドサービスをマッシュアップ(組み合わせ)することに特化してシステムを構築するスタイルであるのに対して、SIerは、スクラッチでのシステム開発が可能な人員や体制を整えている。しかし、近年はSIerも盛んにクラウドサービスをベースとするシステム構築に取り組んでいるので、その境界が曖昧になってきているとの側面もある。
クラウドという概念の歴史はまだ浅いこともあって、それに特化したCIerは小規模な事業者が多い。CIerは、マッシュアップによって、低コストで迅速にシステムを仕上げることを強みとする。一方、SIerは、大手になればなるほど高コスト体質にならざるを得ず、システムを開発する人員を大量に抱えている。この点だけをみると、SIerはクラウドベースのシステム構築に本来的に不向きで、競争力を十分に発揮できないようにみえる。事実、CIerはSIerのこうした弱点を突くかたちでビジネスを伸ばしている。また、単純にクラウド基盤サービス(IaaS/PaaS)というだけなら、「Amazon Web Services(AWS)」などグローバル大手にSIerは勝てない。
●業種・業態に精通して勝負 そこでSIerは、業務アプリケーションに重点を置くクラウド戦略を展開する動きを活発にしている。端的な例が野村総合研究所(NRI)の総合証券バックオフィスシステム「STAR」シリーズだろう。SaaS型で提供するもので、国内最大手の野村證券が、2013年1月、本格利用に踏み切った。従来は中堅・中小の証券会社ユーザーが多かった「STAR」シリーズだが、野村證券がユーザーに加わったことによって、事実上、総合証券バックオフィスサービスの国内デファクトスタンダードになった。
他にもクレジットカードシステムに強い、組み込みソフト技術を応用したM2M(マシン・トゥ・マシン)を得意領域としている。あるいは製造業で実績を積み上げている──というように、SIerは、自らの得意とする業種・業態のノウハウをフルに生かすかたちで、どちらかといえば、SaaS層に属する業務アプリケーション領域でのクラウドサービスの差異化を進めてビジネスを伸ばそうとしている。
得意の業種・業態の横展開を基本戦略とすれば、「先行投資で独自のクラウドサービスをつくったが、さっぱり売れない」という失敗のリスクも低減できる。同時に新興のCIerや、IT基盤で価格優位性を発揮するアマゾンのようなサービスベンダーに対する競争力を保つことによって、クラウドビジネスの伸長につなげているのだ。
次項からは、CIerとSIerの直近での動きをみて、各社が力を入れているクラウド商材とその展開の方策に迫る。
IDC Japanの市場分析
管理ソフトが示すクラウドの普及
クラウドの普及の勢いを把握するためには、クラウドのシステム環境を管理するためのソフトウェアの市場動向をみるのがいい。プール化されたリソース管理や仮想マシンのプロビジョニングなどの機能をもって、クラウドシステムの運用に不可欠な管理ソフトウェアの販売数で、クラウドシステムはどのくらい普及しているかを読み取ることができるからだ。
調査会社のIDC Japanによると、国内のクラウドシステム管理ソフトウェア市場は、2012年、前年比46.1%増の68億円に成長した。17年までには、年平均成長率38.5%で伸びて、344億円に達する見込みだ。データセンター(DC)事業者やクラウドサービスプロバイダでの導入が活発になることが市場に刺激を与えるという。今後、すべてのシステムがクラウド化するわけではないが、クラウド管理ソフトウェアの市場動向からすれば、クラウドが本格的に普及することは間違いないだろう。
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