ご存じでしたか。スイッチやルータを開発・販売するシスコシステムズ(シスコ)は、最近、「サーバーメーカー」になったことを。シスコは、2009年、サーバーを中核として、大規模な仮想環境の構築に適したクラウド基盤「Cisco Unified Computing System(UCS)」を投入した。現在、サーバーメーカーとしての認知度を高めることに力を入れている。販社は、UCSを担げば、シスコのネットワーク機器にサーバーを追加し、クラウドのICT(情報通信技術)インフラをワンストップで提供することができるので、魅力的な商材になる。この特集では、シスコのUCSビジネスを“丸裸”にし、販社への取材を通じて、UCSの「売り方」を研究する。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
※本文を読む前に注意したいこと
シスコの会計年度は、その年の8月から翌年の7月まで。そのため、シスコの「2013年度」は13年7月が期末で、現在は「2014年度」に入っている。 素朴な疑問に答えます――UCSについての質疑応答
●UCSってどんな製品? データセンター(DC)などで、大規模な仮想環境を構築するための統合アーキテクチャ。シスコが用意するUCSの製品群は、高性能なサーバーを中核として、ネットワークやストレージアクセスなど、クラウドのICTインフラを形成するツール群で構成する。ターゲットは、DCを運営するITベンダーのほか、自社DCでクラウド環境を運用するユーザー企業。
シスコは、2009年の夏にグローバルでUCSを発表し、10年1月に日本での販売を開始した。ネットワーク機器メーカーであるシスコがサーバーに乗り出した背景には、ソフトウェアによってネットワークを構築する「SDN(Software-Defined Networking)」の普及によって、スイッチやルータなど、従来の主要製品の需要が縮小傾向にあるという事情が存在する。さらに、ハードよりソフトに注力するIBMに代表されるように、既存のサーバーメーカーが新しい事業領域に力を注ぐことによって、ハイエンド向けサーバー市場に“隙間”ができたことも、シスコがUCSの展開に踏み切った要因の一つと考えられる。
シスコ(米国本社)の2013年度の製品別売上構成では、UCSをはじめとする「データセンター」向け商材は、5.5%を占めている。スイッチ(38.8%)やルータ(21.6%)と比べてまだ比率が低いが、前年度比1.9%の伸びをみせている。UCSは、確実に存在感を表し始めているといえる(図1参照)。
●国内では誰が売っているの? 2010年1月の発売当初、大手システムインテグレータ(SIer)の伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)と、日本ユニシスの子会社で、保守に強いユニアデックスの2社が、先駆けてUCSの販売に乗り出した。両社は、シスコのUCS事業の「第一フェーズ」で、販売のパイオニア役を務めてきた。
現在は、シスコのネットワーク機器の有力販社であるネットワンシステムズをはじめ、NTTグループや三井情報など、ICT構築を得意とする各社がUCSの販売を手がけている。シスコの13年度のUCSトップ販社は、ユニアデックスだった。同社は、シスコの弱みであるサーバー保守の部分を自社サービスで補い、受注につなげることによって、前年度比約3倍という勢いでUCSの販売を伸ばし、パートナーアワードを受賞した。
シスコは、このところUCSを中核とするソリューション販売の拡大に動いている。SIerを支援し、UCSにインメモリ型データベース(DB)ソフトウェア「SAP HANA」などを組み合わせて、データ分析ソリューションとして提供している。そのほかに、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)と協業し、UCSを活用したインフラと業務アプリケーションのセットでの販売に取り組んでいる。
●直近のビジネス状況は? シスコの日本での13年度の売上高は、前年度比7%下がった(図2参照)。UCS事業がまだ本格的に立ち上がらず、通信キャリアのIT投資の削減によるネットワーク機器の売上減を十分に補うことができなかったのだ。
しかし、ここにきてUCSビジネスの拡大の兆しがみえてきている。ディストリビュータのネットワンパートナーズが、13年5月にカスタマイズ要件に短時間で対応する「フルカスタム受注生産=Build to Order(BTO)」のサービスを開始した。これによって、SIerにとっての負荷が低減し、UCSを提案しやすい環境が整い、UCSの販売活性化につながった模様だ。
クラウドの普及によって、今後もUCSの需要が高まるだろう。調査会社のIDC Japanは、UCSを含めた国内の「クラウド向けサーバー」の出荷台数は、12年の4万1900台から、17年には10万1900台に伸びると予測している(図3参照)。
追い風になっているのは、増えつつあるUCSの構築事例だ。東洋大学は、2012年の創立125周年を機に、白山キャンパス(東京・文京)の校舎を新設し、新しいパソコン教室の仮想デスクトップ環境のインフラにUCSを採用した。販売・構築はCTCが手がけた。UCSの主な導入事例は13面の囲み記事で紹介する。
売る苦労が新市場を生み出す――2014年はUCS本格展開の元年
シスコの販社はどんな工夫をして、UCSを売っているのか。販社の取り組みを追い、UCSの「売り方」を探る。
UCSの流通構造を分析すると、NTTグループ、CTC、ネットワングループ、日本ユニシスグループという、大きく四つのプレーヤーが強い存在感を発揮している。各社はフロントで「競合」として戦いながらも、バックでは「協業」をすることもある。
橋渡し役を務めているのは、ICTベンダーの三井情報だ。同社は、ディストリビュータのネットワンパートナーズからUCS製品を仕入れて、三井物産グループとして案件を統括するかたちで、サーバーの構築や保守を、三井物産を主要株主とする日本ユニシスグループのユニアデックスに委託。三井情報としてネットワークなどを組み合わせて、システムを客先に納入する。こんなふうに、ネットワングループと日本ユニシスグループは、それぞれがUCSの展開に注力しながら、グループ会社をうまく活用して、「競合」をUCSビジネスに巻き込んでいるわけだ(図4参照)。
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