●街全体をITソーシャル化へ マーケティング会社最大手の電通グループの一社である電通国際情報サービス(ISID)は、電通との協業の柱として比較的大規模な複合商業施設でのマーケティングプラットフォームの開発に力を入れている。昨年11月には、「+fooop! connect(プラ フープ コネクト)」としてパッケージ化。スマートフォン向け専用アプリとコンテンツ管理システム(CMS)、顧客管理システム(CRM)で構成されており、街全体で顧客の購買促進につなげていく仕組みを構築した。

ISID
大金慎一
執行役員 店舗からの情報を発信し、商業施設にやって来た顧客を目的の店舗までWi-Fiで誘導。ポイント付与から店舗レビュー、飲食店などでの順番待ちの整理券配布など、複合商業施設で必要とされる「IT活用型のマーケティング機能を盛り込んだパッケージ」(大金慎一執行役員)に仕上げた。
同社では「+fooop!」というソーシャルシティ・プラットフォームの研究開発を推進しており、2013年4月に開業した大型複合施設「グランフロント大阪」では、「+fooop!」プロジェクトの第一弾として“街のコミュニケーション基盤”サービスを提供している。「+fooop! connect」では、こうしたノウハウをパッケージ化したもので、昨年12月には東芝と川崎市が共同で行った「川崎駅前商業活性化実証実験」にも採用されるなど、着々と実績を伸ばしている。
●基幹システムと一体運用 ここまでは、マーケティング=フロントエンド分野の新商材をレポートしてきたが、既存店舗がネットとの相乗効果を高めるには、顧客や在庫、売り上げといった主要情報を一元管理できる統合データベース(DB)の構築が欠かせない。さらにいえば、小売業にとって最も重要な指標である価格競争力を高めるには、フロントエンドだけの手直しでは本来は対応できないはずだ。極端な話、ネットより安ければ、店舗でショールーミングされることもない。実際は往々にしてネットのほうが安いためにスマートフォンで「ポチ」られてしまう。

NEC
山田寛
マネージャー NECは既存の小売り勢がネット勢にシェアを奪われないためには、「顧客や在庫管理の統合化、ワンソース化が不可避」と山田寛・流通・サービス業ソリューション推進本部マネージャーは捉えている。NECは長年にわたって流通・小売業の基幹系システムを構築してきた大手コンピュータメーカーとしての実績がある。近年ではネットを含む複数のコンタクトチャネルに対応し、かつ販売管理やバックオフィス業務までをカバーする「NeoSarf/DM(ネオサーフ/ダイレクトマーケティング)」を大幅リニューアルし、「ネット対応力強化と基幹システム、物流に至るまでをワンストップで提案する」ことに力を入れる。
流通・小売業に強いアイティフォーも、独自に開発した小売業向け基幹システム「RITS」と、ECパッケージソフト「ITFOReC」のノウハウを巧みに組み合わせて、フロントエンドと既存店舗のバックエンドシステムを統合的に運用。店舗とECの一体運営を柱にビジネスを伸ばしている。データベースさえ統合されていれば、マーケティング寄りのシステムの手直しは比較的容易で、効果も発揮しやすい。
記者の眼
最低限やるべきこと
まずはネット勢と同じITインフラ水準を
Amazonをはじめとする大手ネット勢の強みは、顧客属性の把握はもちろん、購買履歴やサイト内での閲覧履歴をもとに、ユーザーの趣味嗜好をビッグデータのようなアプローチで把握していることにある。最初はあまり精度が高いものでなくても、年を追うごとに正確になり、ある日、気づいたときには“ユーザーの購買動向が丸裸”になっているのは周知の通りだ。
一方で、既存の流通・小売業がどこまで顧客の購買特性を把握しているのか。ネット勢ができていることを、既存勢ができていないとすれば、競争上、大きなハンデとなる。例えば、複合商業施設では顔認識センサや「Kinect(キネクト)」のようなモーションセンサなど各種センサをM2M(マシン・トゥ・マシン)と組み合わせて、個人情報に抵触しない範囲で顧客分析を行うことは十分に可能になってきた。画像認識技術で世界的に優位に立つNECは「ネット勢が手がけているビッグデータ分析は、現実の商業施設でも同様か、それ以上のことができる技術水準まで到達している」(山田寛・流通・サービス業ソリューション推進本部マネージャー)と話し、技術革新が急ピッチで進んでいる状況を説明する。
限られた国内消費市場のなかで既存勢とネット勢の“均衡点”が動いており、しかもスマートデバイスやM2M、ビッグデータ、ソーシャルといった技術が大きく進化している今のタイミングだからこそ、SIerには大きなビジネスチャンスが見込まれる。