パートナーの提案活動をプッシュ 「販売の拡大、よろしくお願いします」
調査会社ノークリサーチの予測では、2014年度のPC(x86)サーバー出荷台数は55万9500台と過去最大になる可能性があるという。お互いの動きを強く意識しながら、必死に市場の開拓に取り組んでいるメーカー。各社は、直接販売にも力を入れているが、事業を伸ばすうえでのカギを握るのは、販売パートナーをいかに動かして、自社サーバーを積極的に提案してもらうかということだ。メーカーに、その「いかに」の施策を聞いた。
富士通
販社向け支援はしっかりと

瀬尾隆一
統括部長 IBMやNECなど、ライバルのサーバーメーカーがパソコン事業を売却するなか、頑としてパソコン事業を手放さない富士通。「1社だけでも最後まで残る」という同社のこだわりが、ここにきて、実を結んでいる。自社の法人向けパソコンを切り口として客先に入り込み、その延長線でサーバーを提案して、2013年、サーバー事業で2ケタの成長を遂げた。「IBMがパソコンとx86サーバーを切り離した影響で『今後、ほかのメーカーもやめるのではないか』と考える販社が多いことだろう。そんななか、当社はパソコンとx86サーバーを力強く展開し続けていくことが、勝ち残るための作戦だと捉えている」──富士通の統合商品戦略本部でPRIMERGYビジネス推進統括部を率いる瀬尾隆一統括部長は、製品戦略に自信をみせる。
富士通をはじめ、サーバーメーカーが注力しているのは、中堅企業向けのミッドレンジ製品の提供だ。ハイエンドより企業の数が多いほか、ローエンドほどには価格競争が激しくなく、利益を出しやすい市場であるからだ。富士通は、グループ会社を含め、サーバーのパートナー販売の比率が80%。販社を活用して、基幹システムはオンプレミス型でそれ以外はクラウド型で構築する「ハイブリッド」を提案し、付加価値を明確にしたソリューションを提供することによって、パートナーにとってのサーバー販売の“うまみ”を増やす方向に動いている。
●2ケタ以上かも!? 本音の目標 Windows Server 2003のサポートが終了するのは、2015年の7月。ちょうど1年後だ。販社にとって、置き換えやマイグレーション(移行)を提案するチャンスだが、パソコンOSの「Windows XP」のサポート終了時と同じように、提案活動の進み具合が低調だ。富士通は、せっかくの商機を逃すまいと、リプレースを進めるための材料を用意して、販社の尻を叩いている。「事例情報や技術情報を提供し、サーバーに自社のSI(システム構築)やサービスをつけやすい提案シーンを紹介する。さらに、パートナーの営業を簡素化して提案費用を抑えるために、見積作成や納期情報の管理をしやすくするツールも提供する」(瀬尾統括部長)と支援策をアピールする。
こうして、投資を惜しまず、サポートを手厚くする裏には、Windows Server 2003の置き換え需要をビジネス化する、「本音」の目標設定がある。瀬尾統括部長は、「計画ベースでは、2ケタ成長と販売目標をやや堅めに設定しているが、パートナーともっと密に連携できれば、それ以上に大きく伸びる可能性は十分にある」と、みている。「そのために、サポートはしっかりやっていきたい」としている。
NEC
x86サーバー20周年、販社と密に連携

浅賀博行
本部長 NECも、富士通に負けることなく、「2ケタ成長は果したい」(浅賀博行・プラットフォームビジネス本部長)としている。ドメインサーバーやファイルサーバー、アプリケーションサーバーなど、Windows Server 2003マイグレーションの対象となるサーバーにはさまざまな種類があるが、「まず、お客様にとって大切なファイルサーバーから移行の提案に取り組む」(同)という。NECは7月上旬、商材を体系化し、中堅・中小企業(SMB)に強いNECフィールディングやソフトウェア開発を手がけるNECソリューションイノベータなどグループ会社を巻き込むためのプランを打ち出した。約9万円という料金で、SMBに提案しやすいファイルサーバー簡単データ移行サービスを新たに投入し、これをツールにしてリプレースの提案活動を促す。
●値引きはノー!で利益を確保 NECのサーバー事業でパートナー販売の比率は60%。そのうち、20%をグループ会社による販売が占める。同社はこのほど、全国13か所でパートナー向けの勉強会を開催し、約250社に対して、Windows Server 2003関連の提案に必要なノウハウを伝えた。「今が、(販売拡大につながる)啓発の時期」(浅賀本部長)とにらみ、販社への種まきに積極的だ。NECにとって、今年はx86サーバー事業に参入して20年。記念の年に合わせたキャンペーン施策を用意しており、これまで以上に販社とのパイプを太くして、案件の獲得を目指す。
NECのサーバー製品の開発部隊と販社の間の情報共有などを強化し、パートナーに製品情報をより正確に伝えたり、パートナーの要望を開発に反映させたりして、連携を密にする構えだ。販社にとって、提案の機会を増やすことを狙う。さらに、地方のパートナーにサーバーの出荷データを提供したり、マーケティングを支援したりして、地方のSMBに対してWindows Server 2003の移行を訴える活動に力を入れていく。「値引きしなくてもサーバーの販売ができる」(浅賀本部長)という国産メーカーならではの強みを生かして、ユーザー企業のビジネス課題を解決するためのソフトウェアを付け加えることによって、案件ごとの利幅を高めたいとしている。
日立
「ワークスタイル」提案で稼ぐ

高群史郎
部長 日立は、国産メーカーのなかでは、サーバーよりもストレージに強いというイメージがある。販社やユーザー企業からストレージ製品が高く評価されることを武器にして、サーバーの提案活動にも力を入れている。訴求するのは、品質を重視する「モノづくり」精神だ。神奈川県秦野市に置く「神奈川事業所」で製品開発から装置検査までを一貫して行い、サーバーを設置しやすいかたちで販社に届ける。こうしたきめ細かいサポート体制のおかげで、故障対応などが最小限ですむ販社の満足度は高いが、日立にとって、サポート体制への投資を利益の低いサーバー製品の販売で回収するのは難しくなりつつある。
そんな状況にあって、日立は、サーバーを基盤とするソリューションの価値を高め、利益の向上につなげるために、「ワークスタイルの変革」という旬のキーワードを前面に押し出す提案活動を加速している。
●リードの提供で販売を活性化 国が、中堅・中小企業(SMB)の生産性向上やクラウドの活用を促そうと、支援策を打ち出している現況をチャンスと捉え、SMBに対して、モバイルを用いたソリューションを訴求。パートナーと共同でマーケティング施策を打ち、それによって獲得したリード(見込み顧客情報)を販社に伝えて、販社はサーバーなど日立のプラットフォーム製品に自社の商材を組み合わせて売り込むという戦略だ。販売した後は、グループ会社の日立システムズを活用し、保守・サポートを提供することによって、ユーザー企業と長期のビジネス関係を築くことを目論んでいる。
日立がこうしてあらゆる手を打ってサーバー事業を活性化しようとしているのは、クラウドの普及によって、中長期でみて企業向けサーバー市場が縮小することを無視することができないと判断したからだ。販社向け支援を担当するプラットフォーム販売推進本部第1パートナービジネス部の高群史郎部長は、Windows Server 2003のリプレース需要を含め、「パートナー販売を盛り上げることによって、サーバー事業がシュリンクしていく部分を補いたい」として、販社を活用してサーバー事業の規模をなるべく維持することを方針として掲げている。
気になる日本IBMの今後の動き レノボを活用して「Power」を売る
米IBMは、クラウドの普及に伴ってハードウェアの販売が低迷していることから、その打開策として、利益率が低いx86サーバー事業をレノボに売却し、IaaS型の開発環境を提供するなど、クラウド事業に注力することに舵を切った。日本IBMは、x86サーバー事業のレノボ・ジャパンへの移行がまだ完了していない現時点で、メインフレーム「System z」、大・中堅規模の企業での利用に適した「Power Systems」、そして「System x」(x86サーバー)の三つをサーバーの商材としてもっている。今年4月、Power Systemsの製品群に、新プロセッサ「POWER8」を搭載して大量データの処理速度を上げる新機種を追加した。System x移行後、Power Systemsに軸足を置いてサーバー事業を伸ばそうとしている。
日本IBMは、System xがレノボ・ジャパンに移れば、中堅より規模が小さい企業に向けたサーバー商材がなくなるわけだから、Power Systemsを生かしてそのギャップを埋める。「限られた範囲で既存データを分析・活用できるという用途を訴求し、パートナーとともに、Power Systemsの新しい市場を開拓したい」(システム製品事業本部サーバーセールス事業部事業部長の大島啓文理事)としている。価格を抑えて販社に検証用の機器を提供するなど、提案のハードルを低くして、ミドルよりやや下の市場での販売拡大に結びつける狙いだ。
●土俵を変えて販売を伸ばす System zは「販売が徐々に伸び、利益も高い」(大島理事)が、ターゲット市場が極めて小さいこともあるので、IBMサーバーの新しい中核商材になるのはPower Systemsだ。日本IBMは、Power Systemsの事業を伸ばすために、レノボ・ジャパンとの連携に期待を寄せている。今後、日本IBMとレノボ・ジャパン、そして、x86サーバーの販売を手がける新会社のレノボ・エンタープライズ・ソリューションズの営業部隊が連携し、ユーザー企業のニーズに応じて、x86サーバーのほかにPower Systemsも提案する。IBMとレノボの製品をうまく組み合わせ、システムインテグレータ(SIer)やソフトウェア開発会社(ISV)がつくった業務アプリケーションとのセットで販売して、売上拡大を目指していく。
System xのリーダーである、システム製品事業本部x/Pureセールス事業部事業部長の小林泰子理事は、「x86サーバーの販売は好調。ハードウェアだけの力で高い処理性能を実現できることが評価され、新規のお客様も増えている。この勢いを生かして、これからは、レノボに土俵を変えて販売を伸ばしたい」と意気込みをみせる。

小林泰子理事(左)と大島啓文理事。二人は、日本IBMとレノボ・ジャパンとの営業連携を成功させるための中心人物になる